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1話 彼と彼女の最初の出会い







 俺の通っている高校、月浜高校には、有名な図書館がある。


 2階建ての大きな建物全体が図書館になっており、地下には書庫、1・2階にはびっしりと本が敷き詰められており、自習用のスペースもしっかり用意されている……という、たまらない人にはたまらない、とても豪華な設備だ。


 そんな図書館を、今俺――古道こどう 勇志ゆうしは見回りながら歩いている。




「……一階は大丈夫か」




 自習スペースを中心に、誰もいないことを確認しながら歩く。


 月浜高校の図書館はあまりにも大きいため、過去に中で生徒が読書しているのに気づかず図書館を閉じてしまい、鍵の関係で生徒が閉じ込められてしまって問題になったことがあったという。


 それ以来、俺の所属している図書局のメンバーが、閉館時間になるときに見回りするようになった。俺が今見回っているのは、図書局の仕事というわけだ。


 1階を一通り見終えたので、2階に上がった。2階は自習スペースが多めで、あとはあまり利用者のいない洋書や百科事典などが並ぶ書架も隅っこにちらほら。1フロアまるまるなので、1人で見回るのは少し大変だ。


 本来ならこの仕事は何人かで割り振るのだが、図書局は現在人手不足なので、しばしば1人だけで仕事をしなきゃいけない時が来る。正直しんどいが、いつの間にかこの大変さにも慣れてしまった。


 開けたスペースを一通り見回った後、一応隅っこの書架の方へ。




「……ん?」




 通路の奥の方に、光がともっているのを見つけた。おそらく、自習スペースの卓上ライトの光。


 つまり、人がいるかもしれない。




「誰かいますか? 閉館時間ですよ」




 光の方に向かいながら声をかける。返事はなかった。


 一応、閉館時間には館内全体にアナウンスがあるので、読書にふけっている学生も大抵そこで気づいて下校してくれる。故に、この光が卓上ライトだというのなら、考えられるのは消し忘れか、何らかの理由でアナウンスに気付かなかった人、ということになる。


 本棚を抜け、光源のある机が見えてくる。


 フロアの隅も隅の机で、眠っている女の子がいた。


 決して広くはない机の上には、本が数冊積まれており、筆記用具が散らばっている。女の子は、広げたノートに覆いかぶさるように机に突っ伏し、すうすうと寝息を立てている。


 その女の子に、俺は見覚えがあった。




「大槻さん?」


「…………」




 声をかけたが返事はない。


 こげ茶色のショートカットに、赤渕の眼鏡をいつもつけている、クラスメイトの女の子――大槻おおつき 紅音あかねが熟睡している。


 直接話したことはほとんどない。あまり目立つタイプではなく、クラスではよく静かに読書しているイメージだ。


 難しそうな顔をしていることが多く、すこし近寄りがたい印象もあったが、今はとてもリラックスした表情で眠っている。閉館時間なのですぐにでも下校してもらいたいのだが、気持ちよさそうに寝ているので起こすのは気が引けてしまう。




「大槻さん?」


「……」




 声をかけてみるが、起きそうにない。


 仕方なく、揺すってみた。




「大槻さん、閉館時間だ」


「……ん……」




 何度か揺すってみたところで、大槻さんはゆっくりと目を覚ました。


 寝ぼけているようで、静かに周囲を見回す。まず手元を、次に周囲を見渡して。


 目が、合った。




「目は覚めたか?」


「……んー?」




 重たげな瞳を何度がぱちくりさせながら、じっくりとこちらを見つめてくる。それから、数秒経って。




「……っ!?」




 突然、彼女は飛び上がるかのように立ち上がった。




「え、あれ、こ、古道君、だっけ? なんでここに!?」


「図書館が閉館時間だから見回りに。俺、図書局員だから」




 驚いているのが、ひどく混乱している様子の大槻さんに対し、なだめるように落ち着いて説明をする。


 が、どうもそれではだめだったようで、彼女はひどく慌てたように自分の腕時計で時間を確認する。




「えっ、もうこんな時間!? ご、ごめんなさい、すぐ帰るから!」


「いや、別にそんな急がなくても――」




 こちら側の制止も聞かず、慌てて荷物をカバンに放り込み、手荷物をまとめていく。


 しかし、机の上の本は机に入れずほったらかしだ。




「この本は?」


「そ、それは借りてないから! じゃ、じゃあ私はこれで! 失礼しました!」


「あっ、ちょっと――」




 声をかける暇もなく、あっという間にどたどたと走り出して、そのまま見えなくなってしまった。


 静かな空間に、一人でぽつんと取り残される。思わずため息が漏れた。




「……戻しといて、ってことか?」




 机の上に積まれた本を眺める。貸し出されている本ではないならば、元の場所に戻さなくてはならない。できれば自分でやってほしかったが、当人がもういない以上俺がやるしかないだろう。


 どこの棚に戻す本なのかと確認するために、積まれている大判の単行本の山から1冊手に取ってみる。


 表紙には漫画タッチのイラストが書かれており、剣を持った騎士のようなキャラや、杖を持った魔法使いのようなキャラ達が、ドラゴンに勇ましく立ち向かっていくシーンが描かれている。


 いわゆるファンタジー小説、それも、ライトノベルといわれるタイプの本。


 そのうえ、積まれている本にはすべてタイトルに共通点があった。




「異世界転生もの……か」




 積まれている本はすべて違うシリーズの本だが、タイトルには共通して『転生』という単語が含まれている。


 造詣は深くないが、聞いたことのあるジャンルだ。




「異世界転生っていうジャンルが最近流行しているのを知っているかい?」




 ……と、図書局の先輩が楽しそうに解説しているのを聞いたことがある。


 Webの小説投稿サイトを起点にじわじわ人気が広がっているらしい。厳密に言えば異世界転生というジャンルは別に真新しいものではないが、最近その界隈では、転生物といえばこのWeb小説を中心にした作品群を指すことが多いらしい。


 現実世界で生活していた人が、とある事情で命を落とし、何らかの意思の導きをもって異世界で第2の人生をはじめる――というのが、大まかに共通しているあらすじだという。




「大槻さん、こういうのが好きなのか?」




 教室で見ている印象からすると、少し意外な趣味ではあった。


 とはいえ、元々ほとんど話したことのない相手ではあるし、印象だけであれこれ言うのも好ましいことではないだろう。


 あれこれ深く考えず、さっさと戻しに行くことにする。


 大判の本なので多少重たいが、持てないことはないはずだ。大判のライトノベルがどの辺の棚だったか、頭の中で思い出しながら持ち上げようとしたところで、気づいた。


 本と本の間に、何かが挟まっている?


 積みあがっている本をどけると、折りたたまれた紙が出てきた。ごみかとも思ったが、一応中身を確認しようと開いてみる。


 表面は数学の小テストだった。ちらと見た感じそこまで悪い点ではなかったが、あまりじっくり見るものでもないと、大槻さんの名前が書かれていることを確認した後すぐ裏返す。




「……なんだ、これ?」




 裏面を見た瞬間、素直にそんな声が漏れた。本来白紙だった部分に、文字やイラストがびっしりと書き込まれている。しかし、そこに書かれているのが何のことなのか、さっぱりわからないのだ。




「能力……神様……転生……?」




 とりとめもない短文が、雑多に書き込まれており、その端に何かを付け加え得て解説するが如く人物のイラストが描きこまれている。


 やれ『ほしい能力』だの『神様からの贈り物』だのいろいろ書いてはいるが、それが何を指す内容なのかは理解できなかった。


 これ以上読んでいてもしょうがないと思い、再び折りたたむ。この紙をどうしようかと一瞬考えたが、いろいろ書き込まれているし、テスト用紙は本人が管理すべきだから、本人に返したほうがいいだろう。


 図書室の忘れ物コーナーに入れておくことも考えたが、どうせ同じクラスなのだし直接渡したほうがいいだろうと考え、ポケットに紙をしまった。


 その後、積み上げられた単行本を改めて持ち上げ、もう1度フロアを見回ったあと、俺は一階に戻った。


 下に戻った後、カウンターでの仕事をしていた図書局員から「やたら慌てて出てった生徒がいたんだけど何かあった?」と聞かれたが、俺は「よくわからん」とだけ短く答えた。







2話は今日中に

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