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◇怠惰な勇者と守銭奴少女の異世界お買上げ物語◇  作者: 赤金えんた
それが二人の始まりなんだわよ
4/7

初めてのお仕事

「で、改めて色々聞かせてもらうんだわよ。勇・者・殿!」


 テーブルを叩きつけアウルが、がなり声を上げる。


 今現在、アウルとオルファは神樹の森に最も近い町、ドルフと言う小さい町に来ていた。

 その町唯一の酒場宿[眠り猫]にて、食事を取りながら話し合う事になったのだが、オルファは完全に料理に夢中になり、一向に話し合いは進んでいなかった。


「聞いてるんだわよ!勇者殿!!」


 そんな苛立つアウルを眺めながら、オルファの手は一向に止まる気配を見せない。


「すんません。おかわり━━━」


「要らないんだわよぉぉぉ!!!ウェイター、持ってきたらひっぱたくんだわ!!」


「なんだよ。契約だろ。」


「うっさいんだわね!飯を食わせてたら何時までたっても話しが進まないんだわね!食いたかったら説明するんだわ!」


「あぁ、あぁ。はいはい。わかったから、そうガミガミ言うな。眠たくなる。」


「眠たくなる要素、ゼロなんだわよ!あと普通に食い過ぎだわよ!」


 そんなアウルの叫びに、眠り猫のウェイターや客、厨房から顔をだした店主も、テーブルに盛られた皿の数を見て静かに頷いた。


 ◇━━━━━━◇



「まぁ、なんだ。どこから説明するべきか・・・・。そうだな、俺の壮絶な生い立ちから━━」


「そんなの聞いてどうしろって言うんだわね。そんな事より、さっきからあたしの体がやたらと重いんだわよ。その説明からするんだわね。」


「あぁ、それな。簡単に言うと、俺がお前の生気を吸いとっているんだ。だからだ。・・・・で次は」


「次はじゃないんだわよっ!?生気をなんだって言うんだわね!?吸いとる!?」


「おう。俺は怠惰の祝福があるからな、体動かすには人一倍エネルギーがいるんだよ。だから、お前から貰ってる。動かす為に必要な生気をな。生気ってのはわかるよな?人が生きてく為に必要な要素、主には考えたり、体動かしたりする時に使う力だ。生憎と、怠惰の祝福はこの生気を打ち消しちまう力があってな。体外から取り入れでもしない限り、俺の中で必要量生成するのが難しいんだ。」


「はぁ?つまりあんた、あたしの生気を使って、動いているわけ・・・・ん、つまりあれか、あんたが元気にしてる時はあたしが二倍疲れる、その認識で間違いないんだわね?」


「二倍で済めば良いけどな。」


 あっけらかんと笑うオルファ。


 そんなオルファをアウルは殴った。

 ぐうで殴った。

 オルファから笑顔が消えるまで、淡々と殴って殴って殴りまくった。


 後にアウルは語った。

 あの拳に後悔はないと。



 ◇━━━━━━◇



 すっかり顔の形を変えたオルファは、水を飲んだ。

 咽が渇いたからだ。

 なにせ300年間、土の中で寝ていたのだから、腹も減るし咽も渇く。・・・・と言うのは嘘で、たんに怒るアウルを前に緊張から咽が渇いただけだ。


「さっさと、説明を続けるんだわよ。と言うか、いつの間にそんな仕掛けをしたんだわね?」


「あ、ああ。あれだ契約しただろ?あれだ。」


「はぁ?!何しれっとやってくれちゃってるんだわね!」


「あーーー。あれだぞ、へんな細工はしてないぞ。俺は契約の権利を利用してるだけで、契約は口頭で説明したとおりだ。アウルは飯を提供する。俺は守って、戦って、金には手を出さない。それが契約だ。俺がやってるのは裏技みたいなもんだ。」


 アウルはオルファの胸ぐらを掴み上げ、顔を近づける。


「なら、今すぐ止めるんだわ。二度は言わないんだわよ。」


「あ、いや、でもな、説明出来なくなるぞ。この繋がりをきっちまうと、俺はまた寝っぱなしになる。」


「ちぃ。他に方法は?」


「あーーー。そうだな。二十人くらい魔法使いを雇って、強化魔法かけてくれりゃ、いける。」


「何処まで燃費悪いんだわね。」


「すまんな。で、話を戻すんだが。契約を結んだ者同士は互いの間に繋がりが生まれるんだ。その繋がりは相手の生死を確認出来る事は勿論、生気や魔力を譲渡する事も出来る優れ物でな。その繋がりを利用して、契約者から行動に必要な生気を貰っているんだよ。」


「繋がり?生気や魔力を流す繋がりを作る契約魔法なんて、聞いた事無いんだわね。」


「ん?あーーー。多分な、奴隷契約とごっちゃになってんだろ。あれは俺の契約とは別なんだよ。」


「違う?」


「俺の契約はあくまで対等な関係で結ぶ契約だからな。従者契約つってな、基本的には雇い主との約束どおり働くんだけどな、従者の最低限の権利、つまりは生死の問題に対して、雇い主は最低限の保障をしなきゃならない契約なんだな。」


「・・・・まさか、あんた。生死の問題、つまり雇い主が払うべき必要な保障、それを生気にしたって事だわね?」


「まぁ、そう言う事だ。俺にとっちゃ動けない事は即刻死に繋がる。飯も食えなきゃ、息も出来ない。つまりは生きられない程の状態だって事だ。だからある程度は権利として、アウル、お前から生気を吸えるって事だ。よろしくな。」


 そうにこやかに笑うオルファ。

 差し出された手は、料理を手掴みして食べていた事で、油でギトギトしていた。


 アウルは殴った。

 勿論ぐうで殴った。

 オルファに仕掛けられた罠とも言える契約に、どうしようもない程の怒りを覚えながら、アウルは殴った。

 気の済むまで。


 ◇━━━━━━◇


「・・・・というか、あんた300年もどうやって生きてたんだわね?年齢も馬鹿げているけど、生きていけない程怠惰に過ごして無事なのはおかしいんだわよ。」


 アウルは拳についた血を拭う。

 流石に殴り過ぎて痛くなってきたので、回復薬を塗り込む。安いやつだ。


「んーーーー。まぁ、無事って言うのも、変なんだがな。怠惰は祝福なんだよ。良くも悪くもな。」


「答えになっていないんだわよ。」


「怠惰は俺の精神面や状態だけに影響している訳じゃないんだよ。肉体にも、それ以外にも大きく影響を与えてんだ。・・・・そうだなぁ、例えになるか分からんが、今すぐ死ぬって奴が二人いるとするだろ?その片方が怠惰の祝福を受けたとする、どうなると思う?」


「・・・まさか、怠惰をかけられた奴が」


「そう、怠惰をかけられた奴が遅く死ぬ。長さまでは分からないけどな。まぁ、餓死でさえ、300年で足らなかったんだ。そうそう死なねぇだろうな。」


「エルフと良い勝負しそうだわよ。」


「本当にな。あとなんかあるか聞きたい事。俺の激動の戦記でも語ろうか?」


「そんなの要らないんだわよ。それより━━━」




 ガシャァン。


 突然、酒場宿の窓が割れる。

 何か投げ込まれたようで、アウルはそれを見る為、視線を向ける。


 そこには鈍い光を放つ銅の短管筒が落ちていた。

 アウルは口角を上げ、オルファに目を向ける。


「細かい事はまた後で聞くんだわね。まず、契約通りやって貰うんだよ?あたしを守るんだわ━━━」


 轟音と共に、短管筒から炎が溢れ出す。

 直ぐ様、酒場宿は火に包まれた。


 逃げまどう人々を尻目にオルファに庇われ、煤ひとつない綺麗な顔でアウルは笑う。


「言うだけあって、しっかりやるんだわね?」


「あぁ。約束は守るさ。さて、アウル。次は何をしたら良い?」


 アウルは外にいる、粗末な皮鎧を着る小汚ない男達に視線を向ける。手に錆び付いた剣を持ち、下卑た笑みを浮かべる、そんな何処にでもいる、程度の低い男達に。

 その中の、つい先日までお世話になった、冴えない男がひとり混じっていた。


「まず、あたしをこの火の海から助ける事。そして、ケンカを売ってきた奴等に思い知らせてやる事。」


「殺すのか?」


「いえ。殺さず思い知らせるんだわ。なぶり、脅し、心を砕き、人であった事を後悔させるように、徹底的に痛めつけるんだわよ。」


 嬉しそうに笑うアウルに対し、オルファが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


「・・・・・趣味か?」


 そうオルファが尋ねると、アウルがポカンと頭を叩いてきた。


「馬鹿言うんじゃないんだわよ!相手は盗賊なんだわよ、たんまり溜め込んでるに決まってるんだわ。アジトを吐かせて宝物も手に入れるんだわよ。それに従順な奴隷は良い値で買取りして貰えるんだわね」


「あーーー。そう言うの。はぁ、がめついねぇ。・・・・・まったく持って良い主人だ事。」


「そう思うなら、あたしから貰った分しっかり働くんだわね。」


 オルファはアウルをそのまま抱え込むと、拳を一振りする。

 凄まじい拳圧に火が霧散し、宿の火は一気に鎮火した。

 抱えていたアウルを放し、オルファは焼け焦げた扉を蹴破り外へ出ていった。


 店内で逃げ遅れていたウェイターの一人がアウルに訪ねた。


「貴女達はいったい・・・。」


 アウルは満面の笑みを浮かべ言った。


「ただの金に意地汚い女と、300年寝太郎の怠惰な勇者様だわよ。」


 そして外からは悲鳴と形容しがたい音が鳴り出した。

 あまりの悲痛な音にウェイターは目を瞑り祈った。外にいる身の程知らずの馬鹿共の冥福を。

アウル「そう言えば、オルファはアッチの経験あるんだわさ?」


オルファ「・・・・なんだよ突然。」


アウル「いや、噂を聞いたんだわよ。」


オルファ「・・・・噂?なんだ嫌な予感しかしないな。」


アウル「童●も30年貫いたら、魔法使いになれるらしいんだわね。オルファ300年寝てたんだから、童●なら賢者くらいになってるはずなんだわよ。どう?」


オルファ「・・・・・ああ。うん。まぁ、あれだ、そう言うのは、まぁ、あれなんだが・・・・童●で無くても賢者にはなれる。これだけは真実だ。」


アウル「・・・・よく分からんだわ。」


ウェイター「小さい子に何教えてるんですか!?」

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