その2。
彼女の名はマナという。
僕の名はコウという。
ふたりとも二文字だ。ただ、それだけのことだけど、嬉しかった。
あの日の悪天候のなか街を掛けたのはもう2週間ほど前のことだった。
それ以来、一度もマナとは話していない。
あの日も話したかどうか分からない。
布団に潜り、彼女の息遣いを思いだすが、声は思い出せない。
だが、彼女の声は聴いたことがある。
僕以外の男子の名前をよく呼んでいるのを、教室できいている。
僕は呼ばれない。彼女からだけではない。誰からも呼ばれない。
別にそれについては何とも思っていない。
この日も雨が降っていた。
僕の席は教室の一番窓際の列の、後ろから二席目である。
一番後ろの席には、クラスで一番成績の良い女の子が座っている。
僕の成績は、良くも悪くもない。何でも無い。誰にも噂をされないような成績。
窓に伝わり落ちていく、いくつもの枝分かれした雨粒の流れを見つめる。
それはまるで、人間の体内を流れ行く血管の中の血を見ているかのように、美しかった。
もうすぐ夏がくる。
夏の前に、この雨の続く日々が、今年の蚊を洗い流してくれるのだろう。
いつも通り、午前中の授業が全て終わり、昼休みに入ると、図書館へと向かう。
学校の図書館には、昼休み誰もいない。
僕の通う、学校の生徒は誰も本なんて読まなかった。
図書館の存在も、僕と同様に、見えないものとなっていた。
蛍光灯の数が異様に少なく、薄暗い入り口で上履きを脱ぎ、くつ棚より、スリッパを一つ取り出す。
タイル地の床にスリッパを落とした音が、パンッと強く響き渡った。
その音は、雨の中へと吸い込まれていった。
ほんのりとかび臭く、また、古くなった紙の束の匂いが鼻につく。
この匂いが好きだ。
カウンターの図書員は、入っていた僕にチラリとも眼を向けることも無く、二人でヒソヒソと談笑している。
手元には、何やら漫画らしき物が書かれた紙とペンと転がっている。
文化部的趣向を持った人たちであり、その手の趣味があるようだ。
ぼくは、この図書館を毎日のように訪れるが、決して本を借りたりはしない。
どうせ毎日来るのだから、借りなくてもここで読めばいいと思っている。
文芸書棚の前まで行くと、海外の古い推理小説物を取り出すと、そのまま棚に背を向けより掛かり、その場に座り込んだ。
通行の邪魔になるとか、そんな心配は要らない。
どうせ誰もこないのだから。
だが、その日は、初めて邪魔が入ることとなった。
読み始め、10分ぐらい経過した頃だろうか。
目の前にバサリと1冊の本が。
落下してきた。
逆さまであり、本のタイトルは読めず、また、表紙の焼けもひどかったので霞んでよく見えない。
落ちてきた本へと視線を動かしていくと、その先に2本の白い太股が目に入った。