当たり鳥
深夜のお散歩。誰もいない道を独り占めする。息が詰まりそうになるほど風が心地いい。少し肌寒いこのピリッとした空気が身を引き締める。真下にあるコンクリートも僕に踏まれて嬉しそうにコツコツと音を立てている。
すると突然目の前から光が現れる。その光は獣の如く大きな音を立て迫りくる。そして吸い込まれるように僕は光に触れる。
――――僕は一瞬だけ鳥になっていた。ふわっと宙に浮き地面に叩きつけられる体。赤く染まるコンクリート。僕の体から赤い液体が溢れだす。量が少ない。言葉にできない後悔で心が埋め尽くされる。……失敗した。視界が黒に染まっていく。……お母さん。
◇
気が付くと僕は雲の上にいた。僕は体を大の字にしてお日様の光を堪能する。ポカポカとしていて体が暖かい。きっとここは天国だ。失敗したと思ったけど、遂に来ることができたんだ。……ずっとここに居たい。
しかし、気持ちとは裏腹に体が雲の中へ沈んでいく。雲が喉に詰まり苦しくなる。吐き出そうとするが喉に絡みつき呼吸ができなくなる。落ちる。落ちる――――。
「目が覚めた?」
目の前にはお母さんがいた。僕は周りを確認する。白いベッド。僕の体にはチューブのようなものが刺さってあり、横にはピコピコと音を立てた機械が置いてある。……見慣れた光景。
「生きてたんだ……」
思わず僕はそう呟く。目から自然と涙が溢れだす。……失敗してしまった。
「いつもありがとう」
お母さんは嬉しそうに僕の頭を撫でる。もう嫌だ。……今回は死ぬためだったのに。
「また体が治ったら鳥になろうね」