経験則が生かせない! 中編
太めの男性客がようやく長門さんからの訳の分からない説教から解放されお店から出ていって随分時間が経って現在午前10時、お客様がちらほらと入って来た頃また長門さんが男性客を捕まえています。
「貴様! 今のは攻めすぎだ、もう少し受け身になれ」
「えと、なんで僕は領収書お願いしますって言っただけで変な事言われてるんだろう?」
はい、おっしゃる通りですね、嫌ですよね変な人に絡まれるのって。
「いいか? もっとこうクールかつニヒルな笑いを浮かべてだな」
「あの、僕そろそろかえり」
「だまれ! 貴様の今するべき事は私の有り難い説教を受ける事だ!」
本日7回目の謎の説教、私は3回目あたりから「放っておこう」そう思って長門さんを放置しています、ごめんなさいお客様……こうしないと身が持たいんです。
「1256円になります、ありがとうございました」
罪悪感を感じつつ会計を進める私。
そろそろ考え事は止めないといけません、何故なら……私が応対してるレジがながーい列が出来てるからです、それもこれも長門さんの妙な絡みから逃れる為。
皆さん申し訳なそうな顔を私に向けます、だでさえ長門さんの事でイライラしてるのにそんな顔するの止めて下さい、更にイライラしてしまいます。
はっ! ダメですよ私! イライラしてる表情をお客様に向けてはいけません……内心怒っていても何事も無い様に営業スマイルです! と言う事でにこぉっと笑います、にこぉ。
「ひっ! すっすみしぇん!」
あれ? なんで謝られてるんでしょうか? 私、笑顔見せてるのに、お客様物凄く震えてますね、はて……何故でしょう?
「胡桃」
「あっ、七瀬さん」
服をくいくいと引っ張られる、なにかな? と思ったら側に七瀬さんがいた、なぜか私を睨んでます、あっあれ? 七瀬さんもしかして怒ってませんか? なっなんででしょう?
「お客様睨んじゃダメ」
「え?」
にっ睨んでる? そんなつもりは無いんですけどね。
自分の顔をぺたぺた触って確認しますけど、当然分かりません。
「胡桃は商品補充しておいて」
七瀬さんは、しゅびっ! と指を指します、その方向には段ボールがあります。
「はやく」
「あっはっはい! 分かりました!」
少し強く言われてしまって直ぐに商品の補充に向かいます……七瀬さんの方をチラリと向くと、無表情に少しだけ笑みを浮かべてレジ打ちをしていきます。
可笑しいです、私は睨んでないのに、そう思った私は着替えた制服のポケットに入れて置いた手鏡で自分の顔を見てみます。
あぁ確かに睨んじゃってましたねぇ、これは反省ですね。
でも……怖がる程では無い筈です、あのお客様は大袈裟です! と、そんな事を思いながら商品を補充していく私……その最中でも長門さんはお客様に「次領収書を頼む時はクールに笑って注文しろ! 分かったか!」と訳の分からない事を言ってました。
なんなんでしょうねこのコンビニ、コンビニバイトの経験を全く生かせない気がしてきました。
いやいや、そんな事を思ってはいけません! ここはちょっと変わったコンビニ! 店長が変な人なだけで他はまともな筈です! だから気をしっかり持て私! やるぞぉぉぉ!
と思って商品補充を終わらせ長門さんに次にやる事を聞いたら「本の整理して」と言われたので本棚に向かいました、良くコンビニで良く見る本棚の中には今流行りの本が沢山在りました。
漫画、雑誌、小説……乱れた本をきちんと正している時、私は見てしまったんです。
「…………」
私は一冊の本を見て度肝を抜きました。
もう何も言葉が出ませんでした、まともじゃないのは店長だけ、そう思っていた数分前の私を殴ってやりたい気分です。
「まともじゃないのは商品もでしたか」
そう呟いて持っている本"天塚長門をおとす100の方法! ファーストコンタクト編"を黙って見つめる。
なんっですかこの本は! ありえなくないですか? なんでこの店の店長の本がこの店に堂々と販売してるんですか? しかもこの本の表紙に長門さんが写ってるんですけど、モデル立ちじゃないですか! ファッション雑誌ですか! 華麗にウインク決めてんじゃありません! しかもこの服装……めちゃくちゃ静寂感溢れた服装じゃないですか。
あぁ良いなぁこんな静かな大人の雰囲気溢れる服装1度着てみたいですよ……って! そうじゃなくて! 本のタイトルが完全に自分の売り込みです! しかもサブタイトルの"ファーストコンタクト"ってなんですか? まだシリーズがあるんですか! 自分のお店だからってこんなのダメなんじゃないですか! あとこの本の値段……2000円って高すぎでしょう! ぼったくりの域を越えて逆に清々しいですよ!
「っは! だっダメだ私、てっ手を……手を動かさないと」
何とか我に帰る私、売ってる商品がまともじゃないにしてもやる事はやらないといけません。
ふぅ……、大きくため息をついてその本を正します、お客様に見える様にきっちりと、この本を見たお客様は全員苦笑いしながらスルーしてましたけどね。
その本に哀れみの視線を向けて本の整理をします、その時、レジの事が気になりました、なのでちらっとレジの方を見てみると。
「次のお客様どうぞ、ありがとうございました」
七瀬さんが普通の対応している横で。
「おねぇさん、領収書を頼む、笑顔と一緒にな」
「違う! もっとクールに笑えと言ってるだろう!」
もうほんっと面倒くさくて迷惑極まりない事をしている長門さん、もうあのお客様さんの精神はボロボロ、もう解放してあげれば良いのに。
「おーい、胡桃ぃ」
あっ、七瀬さんが呼んでる……何でしょうか? 本の整理の途中ですが七瀬さんの所に向かいます。
そしたらレジの所にいかにも良い所のお嬢様です! と言う雰囲気を出している方がいます。
ほぉこう言うお客様もコンビニに来るんですねぇ、そう思っていると七瀬さんが私に鍵を渡して来ます。
「このお客様、72階に案内して」
「はえ?」
えっ……え? 72階? コンビニで場所案内? なっなんですかそれ? 初めての経験です。
「私達が使ったエレベーターを使って、そこから72階へ行ける」
「あっえと、はっはい」
なんだか良く分かりませんがここは素直に応対しましょう。
「しっ失礼致しました、こちらへどうぞ」
「ふふふ、えぇよろしく頼みますわ」
なんて優雅な喋り方でしょう、流石良い所のお嬢様オーラを出す方です。
なんて事を思ってお客様をご案内、お客様をスタッフルームに通す、えと素直に対応してあれですが、これ物凄い抵抗ありますね……普通お客様をスタッフルームに通す事なんてありませんよ?
……で、そのエレベーターの前に立ち、↑のボタンを押します、数秒待っているとエレベーターが来ました。
中に入った後お客様に会釈をしつつ直ぐに72階のボタンを押します。
するとウィーン……とエレベーターが静かに動きます。
言われるがままにお客様を案内しましたが普通コンビニってお客様を案内する事なんて絶対に無いですよね? 72階には何があるんです?
そう思っていたら72階に着きました、扉が静かに開くとお嬢様なお客様は私に、にこっと笑ってエレベーターから出ました。
あっあれ? 私はここで良いんですか? そう思うもお客様は構わず前へと向かっていきます。
「少しだけ様子を見ましょうか」
そう粒やた後、その階の様子を見てみます……そこには、いかにも庶民なんかが入る事が出来ない高級サロン店がそこにありました。
わぁ凄いですねぇ、こんなの地元では見た事ありませんよー。
えと、1ついいんですか? なんでコンビニにサロンがあるんですか! そんな心の突っ込みをした後、私は静かに下の階に戻ります。
このコンビニ全てが普通じゃありません、さっきから心がドキドキしっぱなしです。
と言うか今すぐに叫びたい気分ですよ……え? 何故かって? この異様な環境を叫んで吹っ飛ばそうと思ったからですよ!
下の階に戻った私は、七瀬さんにレジ打ちしてと言われました。
「今度は睨んじゃダメだよ?」と釘をさされて。
この時、ここは普通じゃないコンビニなんだ、そう自覚した私はこの後とても頑張りました。
頑張って頑張って頑張りまくって仕事をこなしていきました。
あぁこのコンビニ、仕事に慣れるのに相当時間が掛かりますね、確実に。
こんなコンビニあるわけねぇよ! と言う突っ込みを心で思いながら書いてました。
この職場は確実に慣れのに時間が掛かります、でも楽しい職場ですよ! 色んな所で疲れますがね……。
今回も読んで頂きありがとうございました!
次の投稿日は5月13日0時になります!




