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ある攻略対象

ある日、目覚めるといつもと気分が違うのに気付いた。


どう違うのかはわからない。

しかし、違和感がある。


平日だったのでいつのように学校に行く用意をし、いつものように登校し、生徒会室でいつものように生徒会の仕事をしようとしてその理由がわかった。


生徒会長の机の鍵のかかった引き出しの中に『全校生徒奴隷化計画』なる胸くそ悪くなる計画書。


趣味も頭も悪いのを丸出しにしたこの計画書が幻覚だと思いたい。


目を閉じ、しばらくして目を開けてみるが、この計画書は手の中に実在している。


そして何故か見憶えのない女生徒の顔が思い浮かぶ。

薄紅色の髪。美人というより可愛い感じの女の子だ。


誰だ?


全校生徒の顔と名前を覚えている俺が知らない筈がない。


転校生か?


その女生徒が誰かはわからないが、今はこの計画書が誰の手によるものなのか犯人探しをすることにする。


「豊臣。この書類に見覚えないか?」


副会長席で仕事をしていた豊臣不比等に悪趣味な計画書を見せる。


豊臣は恋人ができてから人が変わった。

「放課後は彼女と過ごすので、1分たりとも残りたくない」と授業前しか生徒会の仕事をしなくなってしまった。豊臣が関わる生徒会の仕事はこの時間帯に行わなければいけないので、役員は自ずと授業前に仕事をすることになる。


ハタ迷惑な。


「ああ、これですか? 会長が以前、作っていたものじゃないですか。女生徒全員だけじゃなくて、私の彼女まで入れるんでしたらキャラチェンジさせますよ」

「はあ?!」


そんな馬鹿な!

俺がこんな計画書を作ったっていうのか?!

黒歴史とかそんなレベルの話じゃないぞ。

これを作ったのは絶対に別人だ。

そうでなければおかしい。

理解できない。


「俺がそんな事、考えると思っているのか?」

「・・・」


豊臣は怪訝な顔をして、俺の額に手を当てようとする。


「何をするっ!」


俺はその手を払いのける。


「熱はないようですね」

「?!」

「会長はこのゴミを『今までの人生で最高の計画だ』と、楽しげに見せてくれたんですよ。『お前は一人の女で満足できるようだが、そんなのは男じゃない。人生は短いんだ。男は手当たり次第にヤっていかないと、あっという間に死ぬんだぞ。それを一々付き合うだ、何だ、時間かけないといけないし、そんなことしてもヤれるとは限らない。だいたい、女だってヤりたいくせに何のかんの言い訳つけてるだけだから、手っ取り早くこうしてやるのがいいんだよ。――あ、分けて欲しくても、分けないからな』と言ったので、顔面変形させて貰いました」


ニッコリと笑って締めくくる豊臣。

その笑顔も怖いが、奴の言った内容の衝撃で俺は固まるしかなかった。


「・・・」


おかしい。

頭がおかしすぎる。

これを作った俺は、頭がおかしい。

それを覚えていない俺もおかしい。

豊臣が今、言った内容を忘れてしまいたい。




頭を打って記憶喪失になりたい。




「で、会長。私の彼女まで入れる気なんですか? 答えてくれます? 答え次第によってはキャラチェンジしないといけないので、彼女と過ごす時間が減るんですが。答えてくれます?」


豊臣が笑いながら詰め寄ってくる。


笑顔が怖い。

それは笑顔じゃない。


「するわけないだろ! だいたい、この計画書の存在自体、信じられないんだぞ。それを俺が書いたって聞いただけで死にたい気分なのに・・・」

「死にたいなら、学外で――できれば、青木ヶ原にでも行ってお願いします。迷惑ですから。学内で死なれて、厄介な性格にキャラチェンジすると困りますから」


俺はさっきから豊臣が何度も言う言葉が頭に引っかかる。


「キャラチェンジ? なんだそれは?」

「この学校には死ぬたびに性格が変わる場合があるんです。性格が変わっても、本人も周りも気付かないという超常現象が有りましてね。――キャラチェンジするとちょうど、会長のように以前、自分がした記憶が抜け落ちるんですよ」

「?! 俺は既にキャラチェンジ――つまり、死んだってことか?」

「そうとしか考えられません」

「豊臣はどうしてそれを?」

「私は日記を付けてい()んです。その日記が残っていて、ある人物に声をかける筈がかけていないのか、続きには載っていないんです。どんな反応をされるにしろ、それはおかしいことでしょう?」

「そんなこと言われても、訳がわからない。具体的に言ってくれ」


豊臣は溜め息を吐き、俺を憐れむような目で見て言う。


コイツ、何気に俺のこと馬鹿にしてる。


「キャラチェンジしても会長は会長のままのようですね。私は日記に彼女に告白すること(・・・・・・・・・)を書いていたんです。それなのに、彼女の返事がどこにもない。彼女に声をかけて返事を貰っていればそれを、返事を貰っていなければそれを書いている筈なのに、書いていない。――おかしいと思いませんか?」


豊臣の奴、俺のことを明らかに馬鹿にした台詞を混ぜやがった。


それにしても、彼女の返事有無で気付いた豊臣って一体・・・。


「お前()キャラチェンジ(・・・・・・・)していたってことか?」

「そういうことです」

「そうか」

「会長はキャラチェンジして良かったですよ。あのままだったら、私がキャラチェンジさせるしかないと思っていましたから」

「は?」

「私と彼女を引き裂きかねないものは排除しておかなくてはいけませんから」


コイツ、ヤンデレか?


「豊臣? お前じゃないとしたら、誰が俺をキャラチェンジしたんだ?」

「さあ。誰なんでしょうね。興味ないです」

「興味ないって、お前・・・」

「ほら、さっさと仕事して下さい。私は彼女との時間を減らすことはしませんよ」


放課後は残らない宣言する豊臣。

まったく、なんて自分勝手な奴なんだ。


俺はゴミをシュレッダーにかけてから仕事を始める。

豊臣と無駄話?をしたおかげで、放課後に持ち越す量が増えた・・・。




◆◇




放課後の生徒会室には副会長の姿はない。

豊臣は彼女に会いに授業が終わると姿を消しているからだ。


あのリア充め!


「そう言えば、1-Aの女生徒はまだ学校に来ていないのか?」

「あの2ヶ月くらい休んでいる子? 家庭に問題でもあったんじゃないの? それで遊び歩いているとか・・・」

「先生方も気にはしているが、入院していると聞かないし、やはり家出かもな」


俺と会計と書記は好き勝手言っているが、2ヶ月も長期に休んでいる生徒のことは気に留めている。

イジメがあって休んでいるとすれば、クラスの担任や校長だけの問題ではない。

我が校は形だけの学生の自治ではなく、クラスでのイジメ問題も生徒会や風紀委員の管轄となる。


「風紀委員長の木下に連絡してくる」


俺が生徒会室を出ようと扉を開けると、そこには見覚えのない薄紅色の髪の女生徒がいた。

見覚えがないというのは、誤解だ。


今日、生徒会の顧問から連絡が来た転校生の写真を見る前から知っている顔。


「ぎ、」

「お前はっ?!」


一瞬、喜色満面になった女生徒だったが、次の瞬間、狼狽える。


「もしかして、俺をキャラチェンジさせたのはお前か?」

「?! え? なんで知ってるの?! あれ? なんで、攻略対象が? ???」


コイツ、ゲーム脳か?

電波女に殺されたのかよ、俺・・・。


「取り敢えず、礼を言っておく。おかげで忘れたいことは起きずにすんだ」

「礼?」


女生徒は首を傾げる。


「ああ。彼女命な豊臣に殺されそうになるような計画だ」

「豊臣不比等に彼女がいるの?! そんな! まさか! ありえない・・・ゲームと現実は違いすぎる・・・」

「じゃあ、な」


俺は電波女に助けられた礼だけ言って、風紀委員長の木下を探しに行く。

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