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もし、乙女ゲームの世界にモブ転生してしまったら

ある日、私は自分が生きているこの世界が乙女ゲームの世界だということに気付いた。


このゲーム『change!~あなたを特別指名~』は、攻略対象の容姿と性格を何度も変更できるという画期的なシステムを採用している。

FUZIWARAファクトリーの初期に制作されたこの乙女ゲームのシステムは、先に出されたBLゲームから流用したものだ。


あっちはパッとしない専門学校生が主人公で、ないと思っていたけど、男なのにヒロインと呼びたい人物だった。

そして私の嫁になった。



チクショー、悪いか!!



その攻略対象の容姿と性格を何度も変更できるシステムはキャラチェンジと呼ばれ、方法はいたって簡単――




「豊臣君。羽柴会長が探していたよ」


ミントグリーンの髪をした豊臣不比等に声をかけると、彼は一瞬、驚いたような顔をして表情を崩す。


「あっ、おおきにな」


何故、関西弁?!

開発陣はどうして彼に関西弁属性を付けた?!

名前が豊臣だから?


ミントグリーンの髪に一重の目をしたクールな豊臣不比等は関西弁を喋り、実は人見知りでコミュ障気味。

普段は難のない受け答えをしているが、突然、顔見知り以外から話しかけられると戸惑うところが可愛いとネットで騒がれていた。

コミュ力の高めと思われがちの関西弁キャラ(ついでにチャラ男と思われがち)なのに、コミュ障気味のギャップ萌えキャラ。

生徒会では副会長の役職に就いている。

ご立派な実家で色々あって拗ねているところと生徒会の副会長をしているのは、キャラチェンジしても変わらない設定だ。


そして、会長の羽柴に呼ばれれば、どこにでも飛んで行く。


私はその後を――


豊臣不比等は私の横を通り過ぎていこうとしたが、振り返る。


「あー、お前。名前、なんちゅーの?」

「えっ?!」


どういうこと?!


今まで何回も何回も豊臣不比等のキャラチェンジをしてきたけど、こんな風に名前を聞かれたことはなかった。


ゲームにもこんなことなかった。


だって、私はモブで役割すらない、正真正銘のモブ。


「ど、・・・どうして?!」

「名前、訊いたらアカンのか?」


訝しげな顔をする豊臣不比等。

不機嫌そうにも見える。


「いや、だって・・・」


ゲームになかったとは言えない。

ヒロインが羽柴会長の名を語って呼び出したり、誘導する時だって、名前を聞くことはなかった。


それがモブを、だよ?


「訊いたらアカンのか?」

「・・・羽柴会長が待ってるよ」


私は苦し紛れに会長の名前を出す。


「羽柴なんか待たしとれば、ええやろ? 俺は今、お前の名前が知りたいんや」


真剣な顔で私に詰め寄る豊臣不比等。

背中に冷たく硬い感触。

気付くと私は壁際まで追い詰められていた。


怖い!


豊臣不比等が怖いと初めて思った。

相手はゲームの攻略対象でしかないのに。


「でも・・・」


顔から血の気が引くのがわかった。


「まあ、ええわ。今は見逃したる。せやけど、明日の昼休みになったら、一番で生徒会室に来るんや。一番でやで。寄り道は許さへんからな」


強い口調でそう言うと、豊臣不比等は去って行った。


助かった・・・。


私はその場にへたり込みそうだったが、脚に力を入れて踏ん張り、豊臣不比等の後を追う。


一般教室から生徒会室に向かうにつれ、人の数が少なくなっていく。

生徒会室への一本道に続く最後の曲がり角。

そこを曲がろうとする豊臣不比等に私は駆け寄り、角を曲がりきったその背中に制服の上着で隠していた包丁を突き立てる。


「う゛っ」


痛みを堪える豊臣不比等。


肉に突き刺す感触は何度やっても慣れない。

やっぱり、階段から突き落とすほうがいい。

振り返ろうとする豊臣不比等の目から逃げる為に、包丁はそのままにして来た道を走り去る。

角を曲がりきった豊臣不比等に、私の姿は見えない・・・。




◆◇




おかしい。



何故かニコニコ笑う豊臣不比等が目の前にいる。

黒髪碧眼の王子様タイプの甘いマスクの豊臣不比等。

ネットではそのまんま不比等王子で呼ばれていた姿だ。


脳が目から送られてくる情報を誤っているとしか思えない。


「こんなところに隠れていたんだね。結構、探したよ」

「・・・」


信じられない。


その言葉を耳にしているってことは、これが幻覚と幻聴でなければ、どう考えてもおかしい。

豊臣不比等にとって、私は名前も顔も知らない一般生徒モブのはずだ。


生徒会長である羽柴道長は全てをコントロールしないと気がすまない支配者タイプなので全校生徒の顔と名前まで覚えているが、豊臣不比等はそうではない。


私はそんな羽柴道長や風紀委員長をしている木下鎌足に興味はない。

だから豊臣不比等のみキャラチェンジをしてきたんだけど・・・


「ここはちょうど人気ひとけもないし、良い場所知っているね。――さん」


ワーニン、ワーニン


私の脳内に警告音が鳴り響く。


そんな馬鹿な。


豊臣不比等だろうが、羽柴道長だろうが、木下鎌足だろうが、ヤンデレ属性はない。


『change!~あなたを特別指名~』にヤンデレはいない。


それじゃあ、サイコパス属性は?


『change!~あなたを特別指名~』にサイコパスもいない。


じゃあ、これは?


何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故・・・



ああ、BLゲームの主人公はノンケで、攻略対象から逃げ回っていた。

正当防衛どころか過剰防衛になることもあった。

その為のキャラチェンジのシステムだった。


私はどこで間違えてしまったのだろう?

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