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チェンジ 〜From heaven Till hell〜  作者: 井上陽介
第二部
49/55

第49話

 それは母なるものから産まれた。

 それは生物ではなかった。母の意思そのものを継いだものだった。

 母を守るために産まれたものだった。

 それの産まれた場所は海の底だった。最も深い場所だった。

 そこに留まっていたが、ある時、光を見たいとそれは思った。

 そして地上へ向かって進み始めた。

 その時、大地には大きな生き物がたくさん住んでいた。

 ずっと眺めていたが、やがて空気が凍り、その大きな生き物は滅びてしまった。

 退屈になったそれは再び、海の底へ戻った。

 時が経ち、再度、大地に戻った時、以前とは違った生き物がたくさんいた。

 今度は二本足で歩くその生き物を眺め続けていた。

 それは人間という生物だった。

 深海の底で長い間、孤独に過ごしていたそれはその仲間になりたいと願った。

 母を守るために、暗い海の底ではなく太陽の光が降り注ぐ大地に住みたいと思った。

 どうすれば彼らに受け入れられるのかを知るために、さらに長い時間をかけて観察し続けた。

 人間という生物はお互いを殺し合うことを知った。

 肌の色の違いで殺し合っているのを見た。ならば肌の色を同じにして接触しようと思ったが、同じ肌の色をしていても殺し合うこともあるのだということがわかった。

 体の大きいものが小さいものを殺しているのも多かった。その逆もまれにあった。

 それはとても困った。どうすればいいのだろう?

 しかしあることに気が付いた。人間には顔がまったく同じ個体がたまに存在した。小さい頃から一緒に行動し、殺し合うことは滅多になかった。

 どうやらこの生き物は同じ顔をしていれば、殺し合うことはないらしいとわかった。

 大いなる海からその体を作るためのものを集めた。

 そしてある島へ向かった。

 その島の浜辺に座っている人間を見て、それとそっくりな姿を作り上げた。

 海から上がり、その人間に近付いた。それは雄だった。

 まったく同じ姿をしているので、彼を安心させられると思っていた。

 しかし運が悪かったのか、その姿を見た途端に彼は走り去ってしまった。

 それは海に戻った。

 次は雌が浜辺にいた。また同じ姿を作り、彼女に近付いた。

 今度は叫び声を上げ、気を失って倒れてしまった。

 それはまた海に戻った。

 それはとても困ってしまった。もう一度、観察を続けたが、やはり人間は殺し合いを続けていた。そして同じ顔の者同士は滅多に殺し合うことはなかった。

 それは前とは違う島へ向かった。

 浜辺で複数の人間がいた。その中の一人の姿と同じ姿になり近付いた。

 驚いたことに、それに対して人間たちは敵意をむき出しにした。

 慌てて逃げようとしたが、それは捕まってしまった。

 作った体は銀色に輝く剣でバラバラにされ、火を付けられて灰に変わった。

 それの意思はまた海に戻ったが、最後の記憶を含んだ灰は風に乗り海に飛び散った。

 それは海の底に戻った。

 今、大地を支配している生き物とは相容れないことを知った。

 その生き物が滅びるのを待とう。

 それはそう決めた。


 灰は海に飛び散り、一つの体だったものは数え切れない数となった。

 その大半は色々な生き物の体内を巡り、長い年月をかけて海の底へ沈んだ。

 その内の幾つかはある島へ辿り着いた。

 その内の幾つかはある大陸へ辿り着いた。

 灰の持つ最後の記憶は、人間への憎しみだった。

 灰の持つ能力は、その生き物と同じ姿になるものだった。

 灰は様々な養分を集め、長い長い年月をかけて再び体を作り上げた。

 雄と雌を作った。

 その雄と雌は交わり、ゆるやかに増え続けた。

 そして我らの祖先はこの大地から二本足の生き物を滅ぼすことを決めた。


 さらに年月が過ぎたが、人間はますます繁栄していった。

 灰から産まれた祖先の体は強く、動きは速かったが、人間とは増える速さが全く違った。

 大地の至る所に住み処を作ったが、人間に見付かればすぐに殺され燃やされた。

 銀色の金属に触れることは祖先にとってとても苦痛だった。

 人間はそれを知り、その金属で作った武器で祖先を殺し続けた。

 祖先はある島に逃げ込み、それからは隠れて行動することを決めた。


 さらに時は過ぎ、我らは密かに存在し続けた。

 人間はその後も増え続け、相変わらず殺し合いをしていた。

 大きな建物が大地を埋め尽くした。

 何かを燃やし続け大気を汚し続けた。

 大いなる海に汚れた水を流し続けた。

 燃える水を海に流し込み汚し続けた。

 見たこともない雲が海の上に現れ、汚れた光が海をこれ以上ないほど汚した。


 その記憶を持った我らの一人が人間に殺された。

 その死体は燃やされず海岸に捨てられた。

 ハサミを持つ肉食の生き物がその死体を食べた。

 その死体を食べたハサミを持つ生き物は海に入った。

 そして八本足を持つ軟体動物に食べられた。

 やがてその軟体動物は死を迎え海を漂った。

 体は分解され、そして時間をかけて海の底へと沈んでいった。

 深く深く沈んでいき、最も深い場所へ落ちていった。


 母なるものから意思をついだそれは暗い海の底でじっとしていたが、そこに何かが落ちてきたことを知った。

 自分がかつて地上に行った時に残していった灰の一部だと気が付いた。

 それはその落ちてきたものに触れた。

 そしてすべてを知った。

 地上で蠢くものが母なるものを傷付けていることを知った。

 母なるものを守るためにそれは何かをしなければならないと思った。

 人間が滅びるのを待つのではなく、滅ぼさなければならないと思った。

 落ちてきたものの記憶から、それは一つの生き物を作り上げた。

 それはその生き物を大量に作り続けた。

 そして母なるものを傷付けているものを滅ぼすために、地上に送り出すことにした。


 地上に使者を送り出した後、それは考え続けた。

 それは地上に残していった自分の灰にも怒りを感じていた。

 それは地上に昇り、我らにすべてを伝えた。

 我らの太古からの記憶は甦り、我らはそれにひれ伏した。

 しかし、それは大量に生き物を作り出したのでとても疲れていた。

 少し休まなければならないとそれは言った。

 海の底で再び眠りにつくことを告げ、それは去っていった。


 いずれそれは目覚め、地上に現れるだろう。

 それが母なるものから汚れを洗い流し、母の姿を美しいものに戻すだろう。

 我らはそれから産まれた灰。

 それが大地に地獄をもたらす時、我らもまたその苦難を甘受しよう。

 我らはまた灰に戻る。

 その時、我らは再び、それの元に戻ることが出来るだろう。

 そして母なるものと共に存在し続けるのだ。


 我らはそれまでかりそめの姿で生きよう。

 我らの憎きものの姿を借りよう。

 我らは灰。

 すべての再生は灰の中からはじまる。

 産まれたものも灰に戻る。


 すべてを灰に戻し、大地に平穏を取り戻そう。

 美しい海と清らかな大気、汚れのない土を取り戻そう。


 我らを産んだ母に祝福を。

 我らを育てたそれに感謝を。

 我らを蔑んだ人間に憎悪を。



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