第48話
茜は病院のベッドで目覚めた。どんな夢を見ていたのかは、はっきりと覚えていない。ただ何となく不安で怖かったという感覚しかない。
達也の父が手配した病院の部屋は個室でとても豪華だった。一人部屋にしてはかなり広く、ソファーまで置いてある。その上で速人が寝ているのが見える。自分に与えられた部屋には行かずソファーの上で丸まっていた。少しだけ口を開けて小さな寝息をたてている彼の寝顔はとても可愛い。
ヘリで島から脱出した後、船に乗ったり、警察関係者に色々と聞かれたりであっという間に時間が過ぎていった。今まで経験したことのないようなことばかりが続いた。色々な感覚が麻痺して、どこかフワフワしていた。自分に起こっていることだと、はっきり認識できていなかったのかもしれない。
あの様な事件に巻き込まれて、無事に生きのびることができた。ヘリで島から離れた時は、それで頭が一杯だった。他の仲間も同じだったのだと茜は思う。
今まで一度も体験したことのないレベルの恐怖を感じ続けていたのだ。それも一瞬ではない。発狂してもおかしくないほどの出来事だった。それから解放された瞬間は色々なことを忘れていた気がした。
違うわよね。茜は心の中で呟く。忘れるわけない。忘れたかっただけなのかもしれない。
今でもあの怪物たちのことを考えると、体が震える。しかし、それよりもずっと辛いことがある。
一緒に帰ってこれなかった仲間たち。
特に彩菜のことを思うと、悲しさだけではなく申し訳ない気持ちで一杯になる。彼女は茜をかばって銃弾を身に受けたのだった。彼女が茜を突き飛ばさなかったら、このベッドで寝ているのは茜ではなく彩菜だったのかもしれない。
誰かの犠牲によって、自分が生きのびることができた。
それがどれだけ辛いことなのか。茜は寝ている速人の顔を見る。
あなたはこんな思いをたくさんしてきたんだよね。
自分が聞いた話だけではなくもっとたくさん経験しているはずだと茜は思った。
茜は看護師をしていたので、人間の死に立ち会ったことはたくさんある。しかし自分自身が生命の危機に陥ったことなどないし、当然のことながら目の前で人が殺されるのも見たことがなかった。
本物の殺意というものがどんなに恐ろしいものなのか。相手が自分を殺しにくるという恐怖そのものだけでも、かつて経験したことのない恐ろしさを感じた。さらわれた時のことはもう思い出したくもなかった。
彩菜の最後の姿が頭の中でちらつく。自然と涙が溢れてきた。
どうやって受け止めればいいんだろう。
自分の代わりに彩菜が死んだことをどうやって受け入れればいいのか茜にはわからなかった。涙は止まらない。茜は一人で泣き続けた。
しばらく泣いていると、いつの間にか速人の目が開いていることに気付く。
いつからなのかわからないが、速人は体を動かすことなく起きていた。茜の視線に気付くと、優しく笑みを浮かべる。滑らかな動作で起き上がり、そのまま茜のいるベッドに近付く。
茜は涙を拭おうとしたが、速人が手でそれを制する。片手で小さな丸い椅子を引き寄せ彼は座った。
「好きなだけ泣いていいんだよ」
速人が穏やかな声で言う。それを聞き、さらに涙が止まらなくなる。
「そんな風に言われたら、余計に泣いちゃうよ」
「泣け、泣け。どんどん泣けよ。経験上、それで脱水症状になることはないからさ」
速人は冗談が下手だ。タイミングもいつもおかしい。それでも茜は彼の優しさを感じることができた。彼の優しい眼差しが、ほんの少しだけ茜の心を楽にしてくれる。
「なんだか色んな感情が溢れそうなんだよね。整理できないの。ぐちゃぐちゃ状態よ」
「怖いだとか恐ろしいとかで、ビビっちゃってる?」
「それ全部、一緒だから」
「……申し訳ないとか思ってる?」
本当は彼にはすべてわかっているのだろう。誰に対してなのかをはっきりと言わないことがそれを物語っていた。
「うん。あたしの代わりに彩ちゃんがここにいない。そのことが頭から離れない。どうしてって気持ちや、もし彩ちゃんも一緒に戻ってこれたらって想像が止まらない。あそこでこうすればとか、どこか一つでも運の力で変わってればってずっと考えちゃう」
速人はそれを聞いて、少しの間、何かを思い出しているような顔をして黙っていた。一度、下を向きしばらくすると再び顔を茜に向ける。彼の表情にさっきまでにはない苦味がほんの少しだけ加わっていることに茜は気付いた。
「俺たちはその時、カニどもに囲まれてたんだ」
速人はいきなり話を始めたが、茜は黙って聞くことにした。
「一人の兵士がやつらに向かって手榴弾を投げようとした。そいつに向かってカニがトライデント、やつらの飛び道具なんだけどね。投げ槍みたいのが飛んでくるんだ。それを発射した。そいつは肩を撃ち抜かれた。死ななかったが手にしていた手榴弾を投げる前に落としちまった。俺たちは密集していて、俺もそれを見たよ。やばいって思った時だった。別の仲間がその手榴弾の上に体を投げ出した。それは爆発して覆い被さった男は死んだ。そいつの体が破片が飛ぶのを防いでくれたおかげで、そいつ以外は誰も死なずに済んだ」
茜は何も口を挟まなかった。静かに語り続ける速人の顔をただ見ていた。
「仲間に救われたのはそれが初めてじゃない。それこそ数え切れないくらいある。だけど、その時のことは忘れられないんだ。そいつは既婚者でさ。小さな子供もいた。特に勇敢な男ってわけでもなかった。速く家族の元に帰りたいって口癖のように言ってたのを覚えてる。その戦いが終わった後、命を救われた全員が後悔した。なんでよりによってあいつなんだって。俺がやればよかったって言うやつも何人もいたよ。結婚もしてなく子供もいない兵士がほとんどだったからね。俺たちは酒を飲み、彼の思い出話を一晩中し続けた。そして朝になる頃には何故、あいつが犠牲になったのかがわかった気がしたんだ」
「どうしてだったの?」
「あいつが一番近くにいたからだ。それだけなんだよ」
速人はそう言うと、茜から視線をそらし何もない空間を見つめていた。
「英雄になろうとか、そんなことじゃないんだ。あいつは何も考えずに、ただ仲間を救うことを選んだ。自然に体が動いたんだろうね。気高いやつってのはそうしてしまうんだと思う。あいつは最高の勲章をもらったよ。だからといって何の慰めにもなりゃしないけどね」
茜は速人が何を言いたいのかを理解していた。
「彩ちゃんとその人は同じだってこと?」
「どうだろうね。たださ、考えてみて。もし茜じゃなく由紀がその場所にいたら、彩ちゃんは助けなかったと思う?」
茜はそうは思えなかった。きっと彩菜は誰がそこにいても助けようとしただろう。
茜は首を横に振った。速人がそれを見て頷く。
「彩ちゃんが生きてて、自分が死んでたらって思いもあるの。でも、やっぱり生きててよかったとも思う。どっちに考えても身勝手な気がしちゃって」
「そんなの当たり前だよ。普通のことさ。どっちもそのまま思ってればいい。正解なんてないんだから。どのみち忘れられるわけないんだ。だったらずっと彼女に感謝し続けようよ。俺もずっと彩ちゃんのことは忘れない。彼女に感謝し続けるよ」
簡単に割り切れる問題ではなかった。茜自身も今はまだわからない。しかしほんの少しだけ出口が見えた気がしていた。
彩菜のことは忘れることはできないのだ。いや、忘れたくないことだった。生きている限り覚えていよう。ずっと彼女のことは忘れない。それを心の傷ではなく、彼女への感謝に変えよう。こんな時こそ、前向きに生きなければいけないのだろう。
そして茜の心はふと違う方向へ向く。
速人はどうしてこんなに普通なんだろう。彼は以前、ひどく傷付いていた。今回のことだって辛いに違いない。責任感の強い彼のことだから、仲間の死を悼む気持ちが彼を襲っていることは間違いない。
戦いの場では比類なき強さを誇る彼も、そこから一歩出ればただの青年だということを茜は知っている。しかもどちらかと言えば、思いつめてしまうタイプの人間だ。
茜はそれを直接見たことはないが、以前、戦いから帰還した時はかなり参ってしまい、精神を病んでしまったと自分で話していた。
その彼があたしを支えようとしてくれている。不器用だけど一生懸命、あたしの心を救おうとしてくれている。
茜は彼が強くなった理由がわかった気がした。そして少しだけ自分も強さを取り戻した。
「ねえ、速人。ありがとうね」
茜がそう言うと、速人は少しだけ照れたように笑った。
「俺はバッグ以外のものも持てるんでね」
速人は覚えていてくれたのだと茜は思った。
彼と付き合うことになった時に茜が言った言葉をちゃんと覚えてくれている。
「それでさ、川井君と話してあげてくれない? あいつも茜と同じだろ。仁科のことを思い悩んでるはずさ。同じような立場の茜と話せば、きっとあいつも少しは楽になるよ。それにほら、俺より茜の方がそういうことは適任だろ」
速人の言葉に茜は頷く。自分も彼と話したかったので問題はなかった。
「ねえ、キスして」
彼が顔を近付けると、茜も速人に向かって近付いた。茜はいつも待つだけではなく、少しだけ速人の方に身を寄せるようにしている。ほんの少しの動きだけど、その方が速人が幸せを感じるだろうなと思いそうしていた。
優しい口づけが終わった後、二人は一緒に笑い合った。
それから毎日、速人と茜は色々な話をした。島で体験した嫌なこともたくさん話した。
茜は速人に頼まれたとおり、川井と二人でお互いのことを話し合った。彼も自分と同じように悩んでいた。同じ悩みを共有し、分かち合うことで少しでも心を癒やせればいいのだ。
みんなで集まり、事件のことを話し合ったりした。達也の兄である光司から聞いたことを速人やニコがみんなに伝えてくれた。
ニコもよく茜の部屋を訪れたが、彼はそれよりも多く由紀や川井の部屋に行っていたようだった。速人とニコが役割分担をしてるんだろうと茜は気付いていた。
「達也君は大丈夫なの? 彼も色々、思うところがあるだろうし」
ある日、ふと速人に向かって茜は尋ねた。
「あいつは大丈夫じゃないかな。昔、放置プレイが好きだって言ってたし」
速人はそう言って誤魔化していたが、茜は由紀から速人がよく達也の部屋を訪れていることを聞いていた。しかし茜は何も言わなかった。ただの照れ隠しを暴く必要はないからだ。速人のような男はそういうことを何故か恥ずかしく思うのだった。
茜は言わなくていいことは言わない主義だ。男の持つ小さなプライドや、照れ隠し、さりげない気遣いなどに何も言葉はいらない。知らない振りをしてそれを尊重したり、受け取ってあげればいい。
たまたま速人がいない時に、ニコが茜の部屋を訪れた時のことだった。
ニコは口数は少ないが、茜だけが相手だとよく喋る傾向がある。
「ニコ君さ。いつもありがとうね。速人も今回は大丈夫そうだしさ。あなたはみんなを助けてくれてる。でも、あなたもいつだって誰かに頼ってもいいのよ」
ニコはいつでも誰かのサポートをしている。茜はそのことに気付き、少しだけそのことを心配していた。
この人だって人間なんだから。年だって変わらないし。
鋼のような肉体を持ち、精神的にも何ら揺らぐことのないように見えるニコでもきっと辛い時はあるはずだ。茜はそれを確信していた。
「ふう。あんたは本当にいつも鋭いな。まあ今のところは大丈夫だ。いつか耐えられなくなったら話を聞いてくれよ」
弱音に近い言葉をニコが呟いた。
きっとこの人も辛いんだ。本当はクラブ戦役から帰ってきた時だって同じだったのかもしれない。けれども仲間想いのこの巨人はそれを露わにすることは許されなかったのだろう。ひどく傷付いた親友の存在。それが彼を強くさせたのだろうと茜は思った。
そして彼が大丈夫だと言う時は、大丈夫なのだ。そう思ってあげなければならない。本当に彼が弱っているとように見えた時、そっと手を差し伸べればいいのだ。
だから茜はそれ以上は何も言わなかった。その代わりに苦笑いをするニコの顔に優しい眼差しを向けた。その眼差しにはたくさんの感謝を込めておいた。
カウンセリングも受け、体調も徐々に回復してきていた。川井の足の怪我はすぐに治癒するものではないが、それ以外は全員が何とか持ち直してきていたようだった。精神的な問題に関してはまだまだ時間がかかるのは当然のことだ。それでも確実に全員が前に向かって進んでいた。
退院の日になり、茜たちはそれぞれ実家に帰ることになった。
ちなみに達也以外の仲間の家族は誰一人、この病院には来ていなかった。茜が聞いたところによると、速人とニコは電話で無事を告げ、それで済んだらしい。由紀は両親がいない。親戚が見舞いに来ると言い張ったらしいが、頑なに拒否したとのことだ。川井も両親が来るのを拒んだらしい。
茜自身も自分の両親に心配はいらないと言い、何とか来させないようにしていた。病院の場所を明かさなかったので来なかったが、場所を知っていたらすぐに駆けつけていただろうと思う。
何となく怖かったのだ。もう事件は終わっていた。安全なのは間違いなかった。しかしこの騒動にどうしても家族を巻き込みたくなかった。人に化けられる怪物。その存在を知ることは想像以上に恐ろしいものだ。
それに加え、由紀を除く仲間たちには共通の思いがあった。由紀は小さい頃に父親を亡くし、ついこないだ母親を亡くした。彼女の前で両親に抱擁される姿は見せたくなかった。ただでさえ酷い経験をしたのだ。さらに辛い思いを由紀にさせたくはなかった。
家に帰っても誰も待っているものはいない由紀は親戚の家に行くということだ。
病院の外には人数分の車が用意されていた。運転手とボディガード付き。達也の父が用意したものだった。
別れ際に達也がみんなを集める。
「落ち着いたらうちに来てくれ。いつでも構わないからさ。親父がみんなにお礼がしたいそうだ。連絡をくれれば迎えに行く」
茜は入院してすぐに達也の家のことを速人から聞いていた。最初は驚いたが、そんなに不思議なことでもないと思い直した。確かに達也にはそういう雰囲気があったからだ。
茜は最後に速人と抱擁する。それぞれが車に乗り込み、そして一台ずつその場を離れていった。
実家に帰ると、父と母と妹が出迎えてくれた。母と妹は涙を流し、抱き付いてきた。その後、父が優しく微笑みながら抱きしめてくれた。
色々と聞かれたが、茜は島での出来事を詳しくは話さなかった。ほとんど省略したと言ってもいい。隠れていて何とか助かったという説明に家族が納得したとは思えなかったが、今はそれ以上は話したくない。茜の家族もそれを察しているのか追求してくることはなかった。
速人とは毎日、電話で話した。他のみんなからも一度ならず連絡があった。
これからどうしようかしら。茜はそれについて全く考えがなかった。非常に大雑把に言うと、失業したのだ。就職活動は失敗に終わった。ゆっくり休んでから考えればいい、と父が言ってくれたのが救いだった。
それから茜は昼間は何をするでもなく過ごし、夜になれば速人と電話で話すだけの毎日を過ごした。クヨクヨと悩む日もあったが、そんな日はすぐに速人に愚痴を言った。彼はいつも優しくそれを聞いてくれた。
二週間が経った頃、みんなで連絡を取り合い達也の家に行くことになる。達也の父がお礼をしたいとのことだったが、茜たちもお礼が言いたかった。島から帰ってきた後、茜たちに負担が掛からないように、すべてを手配してくれたのは達也の父や兄だったからだ。
達也が手配してくれた迎えの車で福永邸へ入った時、茜は驚きを禁じ得なかった。門から屋敷まで車で移動していることがまず信じられない。
車が停まると、スーツを着た初老の男性が現れ挨拶をして荷物を持ってくれた。彼に付いていくと他のみんなはすでに到着しているようで、広い応接室でくつろいでいた。
速人が笑っているのが見える。茜も自然と笑顔になる。由紀が駆け寄ってくる。ニコは立ち上がり、右手をあげる。川井は松葉杖を上にあげた。
気が付くと達也が後ろに立っていた。
「ようこそ、我が家へ。まあ、自分の家だと思って楽にしてよ」
研修の時から何ら変わらない様子で達也は茜に言った。
それからの数日間は驚くことばかりだった。茜はあらためて富豪というものがどういうものなのかを知った。達也の家には何でもあった。地下には温水プールがあり、トレーニングジムもあった。料理は今まで食べたことのないくらい美味しかった。家の中にバーがあり、といってもよくあるホームバーの規模ではない。その辺の小さな店よりも豪華なバーだった。
部屋は一人ずつあてがわれたが、高級ホテルかと思うような豪華なもので、最初に案内された時は思わず感嘆の声を上げてしまった。
屋敷の中は必要以上に派手ではなく、それでも上品さが滲み出ていて、それが古くからの富豪の家柄を感じさせた。
最初に会った初老の男性はこの屋敷の執事だった。
「執事って本当にいるんですねえ」
それを知った時に由紀が茜に向かって耳打ちした言葉だ。
しかし何よりも驚いたのは、達也の父に関してだった。達也の父、福永総司郎は達也によく似たハンサムな容姿をしていた。達也の母は数年前に亡くなったとのことなので、現在は独身。六十歳を超えているはずだが、まさしくダンディといった言葉がピッタリの素敵な男性だった。
「このたびは息子が大変お世話になりました」
彼は茜たちに会うなり、頭を下げてそう言った。そして静かに微笑みながら達也が紹介するのを聞き、一人一人に丁寧に話しかけ感謝の意を表したのだ。
福永財閥の当主ともなれば、総理大臣などとも対等に話ができるほどの人物だと川井から聞かされていた茜はこの心のこもった対応に心底、驚いた。ちなみに川井はここに来る前にネットで調べたらしい。
食事の際には総司郎自らが、ワインを注いでくれた時はあまりに恐縮してしまい、茜はグラスを落としそうになってしまった。
由紀や川井も同じなようで、みんな緊張している様子だったが、速人とニコだけは遠慮とは無縁の態度でガツガツ料理を平らげていた。
後から聞いたのだが速人やニコはこの家に来るのは初めてではないとのことだった。総司郎とも何度か会っているという。
「ただの〝友達の親父さん〟だろ」
そう言う速人の言葉にニコが頷くのを見て、特別に意識するのは逆に失礼なのかもしれないと茜は思ったが、なかなかそう簡単に割り切れることでもない。しかし達也の父は確かに普通の〝お父さん〟だった。
達也君が素敵な人なのはこのお父さんに育てられたからなのね。
茜は素直にそう思う。偉ぶるところもなく、優しさに溢れた総司郎のことが茜はすぐに好きになった。
「何日でも泊まるといい。親父も喜ぶだろうしな。俺たちはあんな酷い目にあったんだ。少しくらい遊んでたって罰は当たらないさ」
そういう達也の言葉に甘えて、茜たちは福永邸に滞在することになった。
昼間は外のテニスコートなどで汗を流し、日が暮れればみんなで酒を飲み、ビリヤードやダーツなどをして楽しんだ。速人のダーツの腕は抜群だった。総司郎もダーツが好きなようで速人と何度か勝負をしていた。
福永邸へ来て三日目の夕食の時に、達也の兄、総司郎の次男である福永光司がやってきた。光司とは全員が面識がある。警察庁の幹部である彼は現在はS&Sカンパニーの捜査の責任者でもあった。ちなみに達也には光司の他に兄がもう一人と姉が二人いるが、三人とも現在は海外にいるそうだ。事件を聞き、すぐに駆けつけたらしいが達也の無事を確認した後、すぐに戻ったとのことだった。
食事の後、バーで酒を飲んでいる時だった。
「父さん、ちょっと事件の話をしてもいいですか?」
光司が総司郎に向かって言った。
「うーん、どうだろうな。わたしは構わないが、みなさんにとってはあまり聞きたくない話かもしれんからなあ」
総司郎は少しだけ眉を寄せて言った。視線は達也の方へ向かっている。
「どんな話なんだ? 兄貴」
「調査の途中で興味深いものを見付けてね。もしかしたら知りたいかもしれないと思ったんだよ」
「興味深いもの? 気になる言い方だな。俺は聞きたいが、みんなはどうだ?」
達也が尋ねると、速人やニコはすぐに頷いた。川井もそれに続く。
「あたしも聞きたいかな」
茜は声に出して意思表示した。由紀も茜に同調するように頷いた。
「そうか。最初に言っておくけど、今から話すことが事実だという証拠はない。それは忘れないでおいてくれよ」
兄の言葉を聞いて達也が頷く。
「君たちを保護した時、田上君がスマートフォンを持っていただろ。その内の一つからある文書が出てきたんだ。その内容がとても不思議なものだった。そして同じ内容のものがS&Sカンパニーのパソコンからも出てきた。しかも色々な国の言葉に翻訳されていたんだ。やつらの手は海外にも伸びていることは前に話したよね。海外でも同じものが見付かったんだ」
そう言った後、光司は一枚の書類を取り出した。
そして、その内容を話し始めたのだった。




