その6
「えーっと、俺は紫合祥平。彩城学園の一年で・・・」
「・・・なんで?」
そうだった。この場合の「誰?」への返答は、俺の素性を話すところじゃない。何故ここにいるのかを重点的に話すべきだったな。この暑さとミンミンうるさい蝉の声で頭がマヒしてたみたいだ。
「悪い。君が倒れたから・・・」
「!!」
それだけで事態を把握したようだ。クロウもすぐに事態を把握してたし、よくあるんだろうか?彼女は席を勢いよく立つと、深々と俺に向かってお辞儀をした。
「す、すいません!!助けていただいたのに無礼を・・・」
「いや、いいって、大丈夫だから」
「でも学校始まっちゃってますよね?私のせいで遅刻ですよね?」
・・・なんか、面倒なことになって気がする。
「すいませんっ!本当にすいません!!」
「いいから!そんな謝らなくていいから!」
声量も調節しなければ、人の目も気にしない彼女に、とても困った。ホームには人は「少ない」とはいえ、いはするのだ。彼らの視線を一身に受けた俺は、もう泣きそうである。
度の越し具合に気付いた彼女は、最後に「すいません」と謝ると、また椅子の上に戻った。落ち着いたようなのでほっと胸をなでおろす。でもまだすぐに電車には乗らない方がいいだろう。
「どうせだから、最寄駅までは一緒に行こうか?」
「!!あ、ありがとうございます!」
声量声量、声量抑えて。
また俺は、ホームで注目の的となってしまっていた。
なんかまた面倒になりそうな予感が、ふつふつとわき上がったのも、この時だった。