その5
「・・・おい?クロウ?」
応答が無くなって心配して声をかけて見ても、返事がなかった。無視か?教室内は超有名進学校でも普通の学校と同じようで、ガヤガヤと盛り上がっているようだ。
「おい、クロウ!無視すんなって」
『・・・っはは!ごめんごめん。ちょっと教師が近くに来たもんでね?』
「来たなら来たって言えよ!」
教師の話す声どころか、足音一つ聞こえなかったのが多少気がかりだったが、それはもういい。めんどうだ。それに、嘘だったとしても追及してしゃべるような男じゃないし。
彼女の外見的特徴と事態を伝えようと口を開くと、クロウが先に確認してきた。
『お嬢様系の女の子でしょ?具合が悪くなって倒れたってところかな?』
「!!知り合いなのか?」
良かった。これで連絡はとれた。しかし、クロウから珍しく少し暗い返事が来る。
『知り合いって言うか、クラスメートだよ』
それは知り合いじゃないのか?クラスメートと知り合いの幅の違いがよく解らない俺は首をかしげたが、まあ良いだろう。こいつの相手は深くすればするほど、無駄に時間を費やすだけだ。
「ともかく、そういうわけだから、遅刻するって伝えておいてくれ」
『真面目だねぇ、パープルは』
「真面目上等。連絡頼んだぞ」
『はいはい』
そういって、通話が切れた。
クロウの様子がおかしい。これは多分感違いなんかじゃなくて、純粋におかしいと思う。ソラちゃんに聞いてみようかと一度消えた画面を付け直したが、朝礼中かもしれないと思い留まった。クロウはどんな目にあっても良いけど、ソラちゃんを指導室呼び出しなんて目に合わせるわけにはいかない。
膝の上に置きっぱなしにしていた参考書をカバンにしまうと、彼女がもそりと動いた。それから上体を起こして、目を擦る。
「お、気付いた?」
「・・・誰ですか?」
すこし切ない気持にはなったけど、まあ、駅のホームで他校のジャージ来た男がいきなり話かけてきたら、当然の反応だよな・・・。