その4
駅員さんに制服を預けた俺は、彼女の隣に腰を下ろした。ぐったりして顔色は悪いが、いちおう眠りにはついたらしい。
それから三十分ほどで駅員さんは制服を届けに来てくれた。その際に、彼に同情の言葉をかけられる。
「大変ですね。彼女さん身体弱いみたいで」
「・・・はぁ」
もうここまで勘違いされては、彼女じゃないですと言い辛くなった。もういいよ、どうせ知り合いもこんな時間じゃもういないし。
そして駅員がいなくなってから更に三十分が経ち、現在に至る。そうだ。思い出したら、朝から散々な目にあったんだな・・・
隣にいる少女を見る。どこかで見た制服だなぁと思っていたら、ふと馬面を思い出した。
(神鷹の子か・・・)
神鷹の制服は男女でそんなに差が無い。リボンやネクタイもない様子なので、本当にズボンかスカートか、と言う違いしか見受けられない。そして、だからこそ解りやすかった。
携帯を取り出し、神鷹の知り合いの番号を見る。勝手に設定された顔写真には、馬のマスクを付けた怪しげな姿が映っており、ご丁寧に設定された全身写真の方には、猫のお面を付けた上に猫耳付きのつなぎを着た、猫度の高い男がブイサインをしていた。本当に、開くたびにいらいらする。設定を変えたい気持ちでいっぱいだが、この設定をしてくれたのは、仲のいい美少女であり、変えたことを知られるのをためらううちに帰る機会を失った。
彼女が自分と同い年とは限らないし、俺の通う彩城より神鷹はずっと規模が大きいわけで・・・
つまり、知っている可能性が少ないってことだ。
でも知らないと決まったわけわけじゃないし、いちおう連絡だけでも入れておくか。
通話ボタンに触れる。俺の場合気付かれなくても俺自身が困るだけからいいものの、彼女の場合は気付かれないとかわいそうなことになると思ったので、朝からあいつと話さなくちゃいけないのは少々苦痛だが、まあ仕方がない。この子のためだ。
しばらく呼び出し音が鳴ったのち、彼は電話に出てくれた。
『やほー、パープルじゃん。どうしたのさ?』
電話越しにしては声が小さい。耳を澄ますと、何やら連絡事項を言っている声がする。声が高いので女性教師だろう。朝礼中に電話に出るとは なかなかのつわものだ。とはいえ、そこまで校則を守っているようには、もともと微塵も見えないけれど。
「今神鷹の子と一緒にいるんだけど、休みだって伝えといてくれねぇか?」
『え、パープル朝帰り・・・』
「ふざけんな、ちげぇよ!具合悪いところ助けたんだよ」
そういうと、電話の相手、クロウは言葉を詰まらせた。