その9
さて、彼の不可解な言動の正体かもしれないことに俺は気付けた。気付けたんだけど・・・
「ユウ!もうちょっとだよ、楽しみだねっ」
目の前には満面の笑みを浮かべるソラちゃんの姿。濡れていつも以上に艶めいている黒髪が、彼女の動きに合わせてぴょんぴょんと跳ねる。うん、可愛い。
俺は左に目を向ける。蛇腹状にずらりと並んだ列が広がっており、俺はその先の方にいる。前の家族連れは、子供が飽きだして柵代わりのベルトを揺らして遊んで、父親に怒られていた。あれ、小さいころ俺もよくやったなぁ。近くにあった遊園地があまりにも空いていて、あそこにだけは遊びに行けたものだ。後ろのカップルは後ろに並んだ時からずっとイチャついている。俺たちもカップルに見えるのかなとか思うと少しそわそわしてたけど、だから何だと思ったらすぐに冷めた。周りから見えたって、ソラちゃんが意識してくれないと意味が・・・って、ん?なんでソラちゃんに意識して欲しいんだ?
ともかく、今から抜けるのは無理だと解る。何よりこんなに楽しみにしているソラちゃんを連れ出せないし、だからと言っておいていくわけにはいかない。こんな美少女、変な男が絡んでくるに間違いないもんな。一度抜けてもう一度並ぶ手もあるけど、さっきも言った通りまたずらりと並び始めてしまっているので、今みたいに三分でこの「もうちょっと」の位置までは来れないだろう。それじゃあ可哀想だ。
となれば、俺に残された選択肢は一つ。
この長さ15mの旋回タイプのウォータースライダーを下り切ってから、彼らの元に戻るまで、これを忘れずに覚えておくしかない。ウォータースライダーで流されていいのは身体だけだ。この答えまで流されたらダメなんだ!!
「ユウ?どうしたの?」
そんなふうに考え込んでいると、ソラちゃんが覗き込んできた。上目遣いは反則だよ、その可愛さでは・・・。ってか俺、こんな可愛い女の子と二人きりなのに考えごとしてるとかダメじゃん!確かに小梅ちゃんも可愛いし、放っておけない。あんな変人に嫌われてる状況を許しちゃいけないんだ。でもそれはそれ、これはこれ。美少女が前にいると言うことは結果的に変わらないし、今動けないってのも変わらない。だったらこの状況を楽しまなきゃ損だろ?!それに、女の子に気を遣わせるなんて、本当にイケメン失格だ・・・。肝にしっかり命じておかないといけないな。
俺は笑顔を浮かべて、ソラちゃんに告げた。
「大丈夫、少し考えごとしてただけだよ」
男を見せろ、紫合祥平!女の子が不快にならないように、とりあえず今は楽しむんだ!!
でも忘れないようにしとかないといけないな・・・




