その3
変な格好のままトスのポーズをしているクロウを全力で無視して、一番近くの椅子に掴んでいたビーチボールを置いた。椅子はアルミだか何だか解らないけど、金属製のパイプの骨組みに堅めの布が編まれているタイプだ。プラスチックと違い程よいクッション製のあるそれに、どすっと全体重を乗せる。
俺に倣って、クロウも席についた。サングラスの男が二人、向かい合う形になる。
「・・・なんで野郎と向かい合わせで二人なんだろうな」
「待ち時間だけの辛抱だよ」
ホント、「辛抱」だよな。周りには家族連れだのカップルだのがこんなにたくさんいるのに、俺の向かいにいるのは変なサングラスとアロハシャツの変質者なんだ。泣きたくなる。
せめてサングラスさえ外してくれればましなんだけど、と思うものの、それだけは簡単に外してくれとは言えなかった。どんなものが見えているのかは解らない。けど、彼にも何らかの能力と言うのがあるわけで、それを無視するわけにはいかないからだ。彼がサングラスを外すのであれば、必然的に俺も外さなきゃいけなくなる。外したらきっとまた卒倒するわけで、プールで溺れてもいないのに医務室に連れていかれる事態は避けたかった。
若い女の子たちが、きゃあきゃあと楽しそうな声を上げている。少し遠くを見れば、家族連れが穏やかな様子で売店のかき氷を食べていた。色的にきっとイチゴとメロンだろう。男の子と女の子で交換したりしている。いいなぁ・・・あれソラちゃんとやれたらもうリア充仲間入りなのに。
じとっと、俺はクロウを見た。彼もまたプールの観察をしており、少し遠くを見ているような表情をしている。とはいえ、サングラスが濃過ぎてその様子は見えないのだけれども。
俺の視線が解ったのか、クロウがこちらを見た。それからにこりと無邪気に笑う。
「そんなにボクの恰好がいや?」
「あたりまえなことを聞く意味はあるのか?」
ダサい人と歩くのはセンスの問題があるため、嫌じゃあない。でも、わざわざ変な格好をしている奴と並んで歩くことに、嫌気のささない人間はどのくらいいるのだろうか。少なくとも俺はマジョリティな方だ。それを知らなかったとしても、今までの言動だの雰囲気だのから、勘のいいこいつなら完全に察しているはずなんだ。
「冷たいなぁ」
「普通だろ」
クロウの顔つきが変わった。雰囲気も一新される。にこにことした表情から、にまぁという不気味な笑顔になる。まあ、どっちにしろ裏はありそうな顔なんだけど。
「誰が?」
「は?」
「誰が?」って何だ?そんなことを聞かれる発言をした記憶はないんだけど・・・
何言ってるんだこいつ、と言う空気を前面に押し出して、怪訝な顔で彼を見る。クロウは口角を上げたまま、呆れたようにため息をついた。
「前言ったじゃない?『ここ』に、普通の人なんていないよ」
彼の指す「ここ」と言うのは、俺やソラちゃん、そして多分小梅ちゃんも含めた範囲だ。そしてそれに気付いた時点で、俺にもその自覚が出来てしまっていると言うことになる。
俺は、それ以上言葉を続けることができなかった。




