その2
今朝も俺は、いつも通りの時間に登校していた。
嘘が見える体質の俺は、人込みが嫌いだ。大勢の嘘が混ざり合って、頭の中で響き合うんだから、うるさいったらない。でも、通勤ラッシュなどの、密度が濃すぎる状態まで行くと、逆に楽になる。正確に言えば「嘘が泡に見える」という体質なので、すぐに人とぶつかって泡が割れてしまうような状況であれば、実は全く害が無い。ともあれそのためには寿司詰め満員列車相当まで行かないといけないわけだけども。
そんなわけで、通勤ラッシュにもみくちゃされながら登校している時だった。俺は隣の女の子の顔色が、嫌に悪いことに気が付いた。彼女の前に座っているサラリーマンも気付いているようで、今にも吐きそうな顔を見て、眉間にしわを寄せている。優しくないことだ。
気付いたばかりのころは顔色が悪いと言うだけだったのだが、そのうち電車が少し揺れるだけでぐらぐらと体が大きく揺れるようになり、今にも倒れそうな様子になってくる。前にいるサラリーマンの眉間のしわもどんどん増えてきた気がする。いまや彼の両脇に座るOLと学生も、彼女を見て「うわっ・・・」って顔をしてる。みんな、病人には優しくなろうよ。
『まもなく○○ー、○○に到着いたします。××線・・・』
と、アナウンスが流れだしたので、思わず彼女に話しかけた。
「あの、次の駅で一度降りませんか?」
体調が悪過ぎて聞こえていないらしい。反応が全くない。
どうしようかと目を泳がすと、サラリーマンが無言で俺を見て、うんうんと頷いてきた。聞こえていたらしい。彼に協力する気が無いと言うことは置いておいて、ともかくやっぱり降ろした方がいいのは確かだろう。
徐々に電車の速度は落ちていき、プシューと言って止まる。
「ほら、一度降りよう?」というと、今度は軽くうなずいてくれた。よかった。
「すいません!降ります!」
大声でそういうと、皆が少しずつ動いてくれた。俺はその隙間を彼女を連れて何とか降りる。
が、降りた瞬間だった。
「うっ・・・!」
そう漏らした彼女が、思いっきり吐いてしまったのだ。
俺の服の上に・・・