その1
『・・・線に電車が到着します』
駅のホームにアナウンスが流れる。朝方あれだけ混んでいたのに、今はガラッガラだ。通勤ラッシュって本当にすごいんだな。
つぅっと頬を汗が流れた。今は七月の頭。一般的には梅雨明けして、じりじりと照りつける日差しが本領を発揮し出したころだ。学生視点で言えば、もうすぐ夏休みだと浮かれていたら、期末試験と言う大きな壁の存在に気付いてしまって、ああどうしようと憂鬱になっている頃合いになる。俺は当然顔に見合ったスペックはもっているわけだが、本物眼鏡じゃあないから、勉強なしで好成績を取れる才はない。
だから今、俺、紫合祥平は、こうして駅のホームで問題集開いて勉強してるんだけど・・・
ちらり、と隣に目を向ける。そこには一人の少女が座っていた。個人的にカテゴライズすると、お嬢様タイプだ。それも最近漫画でよく見るツンデレお嬢様ってんじゃなくて、ホント、なんていうか・・・そうだ。京都の老舗呉服屋のお嬢様みたいな、昔ながらの典型的なお嬢様タイプ。
そんな彼女は目をつむったままピクリとも動かない。この一時間で動いたのも、十分ほど前に俺のジャージの裾を掴んだくらいだ。青ざめていた顔も血の気が戻って、本当にただ眠っているだけみたいだなぁ・・・
ふぅ、とため息をついてから、空を見る。入道雲はないけれど、夏特融の「青い空!白い雲!」っていう定番文句が当てはまる勢いで夏を表現しているそれは、見ていると清々しさと同時に暑さを招く。そして暑さは俺に気だるさを与えた。
・・・えーっと、どうしてこうなったんだっけ?