その9
しばらく呼び出し音が鳴る。
『ハァイ!まさかこんな短時間に二回もパープルから連絡が来るなんて、思いもしなかったよ』
能力を使うまでもない。これは嘘だ。彼の状況判断力や頭の回転の良さを考えれば、俺が彼女を心配して電話をかけてくることぐらい、思いもしないどころか考えずとも解っただろう。
「嘘吐け」
『君は僕のことを買いかぶり過ぎだよ』
ほらな。何を嘘だと思ったのか、すぐに理解している。しかも、「買いかぶり過ぎ」という言葉のチョイスがまた憎たらしい。俺が彼のことを評価していることも筒抜けなんじゃないか。
『で、何の用?教師が来ちゃうんだけど』
先生じゃなくて教師とか平然と言うところもなんか気に食わない。やっぱ俺、こいつのこと苦手なんだな。だったらなおさら端的に、簡潔に話をするべきだろう。
「小梅ちゃん、教室に着いた?」
『小梅ちゃん?』
・・・まあ、これはわざとじゃないだろう。仲が良いわけではない女子のフルネームを把握している男はこの世に少数だろうからな。確かに探るなら、一度目の通話時に彼がすぐ「彼女」とでてきたわけなので、やっぱり全く知らないと言うことはないと思うところもある。でも、名前が出てきたわけじゃないと、顔だけ把握してるっていう可能性も否めない。
でもま、能力を使ってでさえ彼に敵う自信はないのに、電話越しでなんて確実に無理だろう。さっさとあきらめるのが得策だ。
「甲賀小梅ちゃん。俺が今朝連絡した子だよ」
『ああ。・・・うん、来てるみたいだね』
「来てる」ということは、今気付いたのか?遅刻して入ってきたら、人気者じゃなくても俺みたいになるもんだと思ってたんだけど、進学校は違うのか?
いや、違うな。まだ通話の先からはにぎやかな声が聞こえてきている。こんな中に入っても騒がれないと言うのは、彼女が遅刻常習犯だからか?でもやっぱり、仲の良い子は心配して尋ねたりするだろうし、そうなるとクラスメートが全く注目しないことはないだろう。
実際そのはずだ。クロウがすぐに彼女だと解ったのは、彼女が遅刻常習犯として有名だからで、注目を集めているからだ。
だったら、と携帯電話を見た。猫のお面が嗤っている。
クロウは何故気付かなかった?




