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序章
微かな血の匂いを、馬が嫌がって言う事を聞かなくなった。
かつて、緑に光る草原だったそこは、今は血なまぐさい記憶の跡。
馬から降りて丘を下り、焼けて土がむき出しになったその場所に降り立つ。
今でも、耳朶に残る合戦の音に目を瞑り、あの日この場所で起きた事を走馬灯のごとく思い出す。
敵兵を斬り、倒れる味方の遺体を越え、流れ弾が兜を掠めようとも、ただひたすら敵に向かっていった。
折れた指物旗、血で黒んずんだ刀、腐敗した遺体の数々。
未だ生々しい傷跡の残る戦場の真ん中で、その荒んだ現実に唇を噛む。
初めて挑んだ、戦だった。
兵を率いて陣を組み、その頭脳を生かした兵略は、どの大名にも劣らないと称賛を受けた。
完璧だと、十五にしてその才があれば天下も夢ではない、とまで。
――確かに俺はここで戦った。
そして確かな勝利を得た。
だが、変わったのは土地の広さと兵士の数だけ。
ただそれだけだ。
自軍の兵士の遺体が足元にあった。
知らない末端の兵であろう。
だが、彼にも帰りを待つ家族がいたはずだ。
――俺は、何もしていないじゃないか……!
若き侍は両の手を強く握りしめ、自分の無力を呪う。
世は戦国。
勝利し生きる事こそが、全ての時代だ。




