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瀬奈誘拐事件~誘拐事件は起きていなかった。犯人は平気で身代金を請求をしてきた。狂言なのか事件はいったいなんなのだ

作者: sadakun_d
掲載日:2007/05/04

閑静な市街地の高台にある私立学園。この学園は幼稚園から大学・大学院まで揃うエスカレーター式の学園である。通う生徒たちはいずれも良家のお坊っちゃま・お嬢ちゃまばかりで絵に描いたような理想的アカデミックをかもし出す。


親の職業欄は国政・地方自治の政治家から一流企業社長・医者・弁護士などの社会的地位のある上流階級ばかりが目立つ。


ご子息ご令嬢などの子弟は親の多大な期待を背負い学園で学んでいた。


大変に見晴らしのよい高台にある学園であった。一般庶民からみたら反感を買うような妬みの存在ともなりかねない。学園長は度々生徒の誘拐ウンヌンと報告を受ける。今のところ大事には至らないような未遂であった。


学園の内外には私服の警備員を配備させ万全な体制ではあった。


「みんなよく聞け」


高台の上流階級の象徴学園を見上げながら神経質な男が叫び出した。見るからに善からぬ鳩首会議をする男女が傍にいた。


「我々は(身代金誘拐の)ターゲットを探しに探した。その結果だが、この学園に絞り込んだ。誘拐事件がやりやすいことが第一なんだがな」

神経質な男は誘拐の意味を改めて回りの男女に説明し直す。これから核心に迫る話をするからっとサングラスをかけた。

「誘拐という言葉はなかなか便利なものでね。子供が誘拐をされたっと聞いて驚かない親はいない」


サングラス越しに男は正確な誘拐の定義を諭していく。


男の言い分


・子供が犯罪に巻き込まれたと親から警察に通報させれば誘拐事件になる。


・例え子供そのものを拉致していなくても誘拐事件となる。親が誘拐だと信じている限りは。


サングラスの男は自分の誘拐論議に納得をしてはいた。しかし回りにいる男女。なんだろうかと首をひねるばかりである。

「つまりだ。身代金を払う立場の親に我が子は誘拐された。だから人命が危ないから身代金を払わなければならないと思わせてしまえばよいわけだ。錯誤でも偽装でも我が子が誘拐されたと思わせてしまえば事件は成立をする。身代金が手に入る」

神経質そうな首謀格は得意になって持論を展開する。

「みんなよく聞いてくれ。俺が練りに練った完全犯罪のシナリオなんだ。僕が考えた完全犯罪を遂行する。内密に独自の調査をしてきた。うまくいく自信はある。後は協力をする君たちがヘマをしないことを祈るだけだ」

首謀格はサングラスを外し声を潜めた。


「(身代金強奪を)やるのはこの学園の令嬢に決定した。いとも簡単に支払いに応じられる人物を探しあてるのに苦労したが。我々の計画決行は明日の昼過ぎになる。強奪のシナリオはしっかり頭に叩き込んでおくように」


細身の背高な男は首謀である。こと細かな指示を周りを取り囲む男女に伝える。そのうちの女が口を開いた。

「あなたのやり方方針はわかったわ。さすが推理マニアだけのことはあるわね」

推理小説の読み過ぎと言われて男はカチンとする。

「私としては疑問点が残りますけど。(警察に逮捕されずに)成功するんでしょうね」

少しトゲのある言い方は若い女だった。清楚ないでたちでスリム。頭のよい女子大生を彷彿させる。


首謀格の男はもちろん成功だともと含み笑いをした。


推理小説は完全犯罪など存在していない。うまくいくとしても最後には逮捕されちまうんだ。


だから俺は推理小説を実行するのとはわけが違うと言いたそうである。


市街地にある総合病院。昼までは内科や産婦人科で通いの患者さんがごたごたしている。この街で評判の病院。患者さんはひっきりなしに診察にくる。


だが昼休みを境にしてグッと数は減ってしまう。外来は朝のみであった。


お昼過ぎに総合病院の近辺に黒塗りの不審なワゴンが止まった。ワゴンから作業衣をまとった者たちが降りてくる。


なにかの作業をする様子で病院の玄関口付近と従業員出入りの裏口とを丹念に調べている。公共のガス工事か水道工事といういでたちである。

「病院の間取りはこんな感じだ。裏口はあの扉ひとつだけだ。逃げ場は二ヶ所だな。出かい病院施設にしては出入り口が少ないぜ」

作業が終わり再び乗り込む。


不審車は病院の前をゆっくり往ったり来たりした。この時間帯にパトカー定期巡回は来ない。


首謀格は自信満々に言う。

「お巡りは一日一回病院の近辺を通過する。しかも午前中だけの手抜き巡回さ」

お巡りさんの動きは一味に把握されていたようだ。


黒塗りワゴン車は病院裏口近くに止まる。車から背広をパリと着た紳士がひとりふたりと降りてくる。先程まで作業技を着ていたとは思えない男たち。


背の高い紳士はスマートないでたちである。不審な男の顔も匂いすらしなかった。

「準備はいいか。いよいよだ。病院の出入り口は二ヶ所だけ。出口を押さえておけばお宝を取り逃がすヘマはしない。後は俺の指示に従ってもらうだけでいい」

紳士に化けた首謀格はワゴンの仲間に最後の指図を出す。気丈夫な言葉を吐いてはいたが心なしか青ざめた顔になっていた。


「シナリオは頭に叩き込んだな。ヘマだけはよしてもらいたいぜ」

ゾロゾロとワゴン車から男らが降りる。

女がひとり出てきた。清楚な装いの女だった。白いブラウス。テレビ映りのよい女子アナを彷彿させる長い髪をサラッと撫であげインテリ性も感じさせる。首謀格は何かとことあるごとに女に目配せをする。

「よし行くか。抜かるなよ」

背広姿の首謀格の男が行くぜの合図を出した。"副首謀"と思わせる女がこっくり頷く。どうやらコイツらが悪党の親分になる。他の仲間はワゴンの中と外でコックリと頷く。忍者のごとく足早に病院裏従業員口に向かった。


人数は5〜6人。


男は一様に回りをキョロキョロと見渡す。紅一点清楚な格好の女も回りを見渡した。


「行くわよ」


裏口の呼び鈴チャイムを女が鳴らす。静かな病院の中呼び鈴は響いた。


ピンポーン


裏口のチャイム音に気づいたのは家政婦さん。こんな時間に御用があるのは誰かしらと思う。

「はいはいどなたでしょうか。どんな御用件でしょうか。ご用件はなんですか」

家政婦は病院裏口のインターホンだからご用聞きが来たんだろうと考えた。いつも出入りの本屋さん・クリーニング屋・八百屋・三河屋。または医療関係者(ディプロパー)である。


だが訪問者は違っていた。


「病院の方でございますね。ここを開けてください。緊急事態が発生いたしました。我々は警察です。中で詳しくお話を致します。門を開けてください。一刻を争います」

インターホン越しに家政婦さんが聞いたのは女性の声である。ただわかったのは警察が突然やってきたことだけだった。


女は迫真の演技である。警察だから何かあるような胸騒ぎを予感させた。


「警察ですって」

家政婦はキイッと顔つきが変わる。

「けっ警察ですか?何か事件でもあったのですか」

家政婦は裏口の防犯モニターを覗く。身なりのよい紳士ひとりと若い女性が品よく映っていた。その他の男は映らない。


インターホン越しに女はさらに慌てさせる口調で続ける。

「とにかく早く門を開けて欲しいの。一刻を争いますの。お願い致します」

丁寧な哀願をする。言われた家政婦さんは気が動転しインターホンには答えない。その足で廊下をバタバタ走った。行き先は院長の書斎である。


「旦那さま旦那さま。大変でございます」

病院の(あるじ)である院長に伝えた。

「なにごとだ。やかましく騒いで見苦しいぞ。どうしたのだ」

院長は息を切らす家政婦をなじった。いつも慌て者だという家政婦である。

「何警察だと。警察が裏口に来ているだと。なんのことなんだ。息子が医療過誤でもしでかしたのか」

今度は書斎から院長先生がインターホンに走った。


「私がこの病院の院長だ。君は警察なのか。なんでわが医院に警察がやってくるのか。一体どんな事件が起こったのだ。我が病院に事件が発生したというのか」

院長はもしかしてもしかすると息子の副院長の医療ミスが告発されたのかとまずは疑う。


インターホンは女から男に変わった。首謀格の男は冷静に院長に答えた。


我々は警察である。

科学捜査の刑事と思ってもらえばいい。警察の裏情報によるとこちらの医院のひとり娘さんが誘拐をされたと情報が流れた。いや正確には院長の孫娘さんの瀬奈ちゃんを誘拐すると(犯人らから)連絡が入るはずだ。犯人はウマウマとお嬢さんを誘い出して身代金を強奪するつもりだ。警察としてはそれを未然に阻止したい。


だから未然防止の最善策として医院の中で網を張り犯人を逮捕したい。だから院長先生は我々警察に協力を願いたい。


首謀格は事務的にスラスラと要件を述べた。男はニヤリと笑う。我ながらうまく言えた台詞だなと自画自賛した。


「わかっていただけましたか。是非とも我々警察にご協力を願えませんか」


インターホンの院長先生は頭が混線してしまう。わかるもなにも。協力もするもしないも何も。警察から瀬奈誘拐事件を言われた院長はさっぱり訳がわからない。

「今から犯人がやって来るだと。ワシの孫娘の瀬奈を誘拐するだと。どんなことから、どんな事件となるのだ。私にはさっぱりわからないぞ。営利誘拐だと。えいり?ああっ子供を奪って金を欲しがるやつか」

院長は警察という一言を信頼し台所インターホンの扉ボタンを押した。男たちを入れるため裏口の扉を開けてやった。


扉が自動で開くのを見て"警察"たちはニヤリと笑った。


「よし侵入成功だ」


首謀を先頭にして"警察"は病院の屋敷に入っていく。ワゴンも入れろと合図する。


院長はインターホンを切ると家政婦さんに命じた。

「娘の瀬奈は何処にいるか探してこい。たぶん勉強部屋にいるだろう。瀬奈を見つけたらリビングに連れて来い」

院長は院長でリビングに向かい"警察たち"を待った。


"警察"は扉を開けてもらうとワゴン車で病院の敷地に乗り入れる。

「よし第一段階成功だ。次もうまくやろうじゃないか」

紳士の男(首謀)はゆっくり身支度を整える。ポケットの警察手帳を確かめるとワゴン車の後部座席から電話逆探知機のアタッシュケースを持ち出す。


若い女も続く。ブラウスのポケットの警察手帳を確かめた。さらに前髪が乱れてはいないかサアッと撫であげた。いかにもハイソなインテリを表現していく。


院内を家政婦さんは慌てて探しにいく。瀬奈は普通に部屋にいた。

「お嬢さまお嬢さま。ここにいらっしゃったんですか」

瀬奈の部屋に瀬奈がいてなんかな。

「旦那さま。一大事でございます。お嬢様がお嬢様が」

瀬奈を探せと言われても家政婦さんは気が動転して尋常でなくなっていた。


瀬奈の部屋をノックした。


ハイッ


おっお嬢様〜


瀬奈は自分の部屋でおとなしく携帯ゲームをしていた。家政婦さんは瀬奈の顔を見たら軽く目眩(めまい)がしその場にへたりこんでしまう。瀬奈をみたら腰が抜けてしまった。ヘナヘナとなった家政婦を見た瀬奈。

「バァヤは大丈夫かな。(副院長の)お父さんに薬もらって横になったら。後から診察してもらいましょね」

家政婦さんはへたりこんでいる場合ではないと立ち上がる。

「私のことを気遣いありがとうございます」

強引に瀬奈の手を引いた。院長先生に孫娘を見せてあげねばとリビングにに連れて行きたい。


手を引かれた瀬奈。ゲームは一番面白いところである。邪魔をされて不愉快であった。

「なんなの?痛いわ手を引っ張らないで。瀬奈はわけがわからないわ。なにがあったのバァヤ?なんの真似。もうゲームが台無しじゃあないの。瀬奈は怒りますわよ」


瀬奈は


「???」


家政婦さんもわけがわからないことは同じ気持ちであった。

「ともかくお嬢さま。院長先生のリビングにいらっしゃい」

家政婦さんは瀬奈の手が抜けるくらい強く引っ張る。祖父の院長の元に連れていった。

「痛い痛い。もうやめてくださいな。引っ張らないで」

瀬奈に怒鳴られて家政婦さんは手を離した。

「すいません取り乱しました。なにせ警察の方がお嬢さまを誘拐する犯人がいる。犯人がお嬢様を狙っていると言うものですから」

廊下を慌ただしく走りリビングに入っていく。


ドアを開けたら瀬奈の祖父の院長と見知らぬ男女が立っていた。


男はリビングで電話になにやら機械を仕掛けたようだ。配線をし終えると院長に頭を下げた。

「院長先生準備は整えられました。それではご説明致します」

首謀格の男は刑事であると院長には名乗った。鑑識の刑事でこの手の事件を専門に扱っていると盛んに首をかしげる院長に告げた。

「こちらの電話で犯人達からお嬢様を誘拐すると脅しがあると思います」

男は張りのあるよく通る声である。

「こちらのリビングの電話器には我々警察の逆探知機が取り付けられています。瞬時に逆探知できます。瞬間にできるのですが盲点があります。携帯PHS端末を使う場合は別でしてね」

固定式電話は特定がすぐにわかる。だが携帯などの端末は電波発信地の特定に時間がかかる。よって長く話してもらいたい。長く話をしたら電波がわかりますと院長に頼んだ。


話を聞いても院長は納得が行かない。まったくもって理解ができないのである。


誘拐犯人が電話をかけて来る。だから先回りして警察がここにいる。


院長の孫娘の瀬奈をこれから誘拐をすると犯人が電話をかけてくる。


孫娘が誘拐された、されないとかはオトギ噺を聞いている感じで院長はソファで居心地悪く座っていた。


「刑事は誘拐っ誘拐というが私の孫娘はそこにいるんだぞ。そこで座っているのが孫の瀬奈だ。どこが誘拐されているというんだ。まったくバカバカしい。瀬奈がいるというのに犯人から電話があるというのか。身代金を要求するわけか。これはどこの女の子が誘拐なのか訳がわからない」

怒りながら言っている院長自身の頭が混乱する。


推理小説の粗筋ストーリーならともかくである。瀬奈の誘拐事件というシロモノが理解できない。


錯綜をする院長に"警察"は説明を続ける。

「警察のキャッチした情報をお教えいたします」

首謀格は回りにいる"警察"に同意を求める。

「間もなく犯人からの誘拐遂行の一報があるはずです。娘を誘拐したからと犯行を仄めかすやつですね。お父さんはここであくまで演技をしてもらいたい。娘さんは誘拐されたとして不安な父親のふりをしてもらいたいのです。この段階で犯人に気がつかれてしまったら元も子もありません」

瀬奈誘拐の犯人の電話は警察はすべてお見通しというわけらしい。


ここでお手伝いさんが口を挟む。

「あのぅ。院長先生は父親ではございません。瀬奈お嬢様のおじいさまでございます。父親は副院長先生でございます」

男はエッと驚きの顔をする。


院長-祖父

副院長-父

瀬奈-孫娘


院長を父親とばかり思っていた首謀格は冷や汗をかいた。ゆっくり考えてみたら瀬奈は子供としては幼すぎるようだ。


「瀬奈は預かった。無事に娘を返して欲しければ身代金を払え」

電話で身代金を必ず請求される。その犯人の言うままによしわかったと返事をしてもらいたい。瀬奈は誘拐されてしまったことにしてもらいたい。


あくまでもこれは演技であり警察に協力をしてもらいたい。


「警察は一体なんなんですか。刑事さん。これはなんの真似なんですか」

院長は理解できていない。演技をしろと言われても役者でないから難しい。

「私の苦しみだ。そのあたりを理解してくれないか」

インテリ風の"警察"はわかりましたと答えた。

「これはオトリ捜査のひとつです。銀行でやる銀行強盗のデモンストレーションみたいなものでしょうか。アハハッ役者にならなくても大丈夫ですよ。気楽なところでお願いします。犯人が難しいことを言い出しそうになりましたら僕ら刑事が電話を代わります」

男は事務的に淡々と答える。チラッと女の方を向き指示をする。これは計画のとおりである。

「私は婦人警官です。どうぞ安心してください」

ニコリと院長に挨拶をする。瀬奈に向かってはニコリともしなかった。

「私の年齢から院長先生の娘さんだとはちょっと無理があります。親戚の女といたしましょうか。瀬奈ちゃんとは従姉妹ですね」

男女の"警官"はこれからの警察への協力を伝えた。院内は犯人がどこから見ているかわからないから警戒してくださいと。「我々警察が男女として乗り込んだのには訳があります。彼女には院長の娘さん役を演じてもらうんだけど。おっと年齢から娘さん役には無理があったね。親戚の女の人だったな。現金の受け渡しは女性を指定することが多いからその役割を果たしてもらいます。刑事の私はどうかな研修医となりましょう。院長先生の補佐役です」

男は白衣を借りて院内の医者になることを提案する。女は縁戚の関係となった。


「病院を"偽医師"としてウロウロしては都合が悪いです。皆さんに医者として顔見せをする挨拶をしていきましょう。大学附属病院から来た研修の身分だと紹介してもらえますか。正式な医者になっておきませんと後々困りますね」

警察が小細工をしますと言うと病棟から看護師長と主任技師が呼ばれ事情を説明される。

「なんですって。瀬奈ちゃんが誘拐されたのですか」

ナースも主任も呆気に取られた。訳のわからない顔をする。


「この人たち本気で言っているの。院長の孫娘の瀬奈ちゃんは目の前にいるじゃあないの」


偽医師(首謀格)は二人にも同じ説明を繰り返した。

「以上ご協力をお願いします」

さっそく男はナースについて病棟に潜り込む。病院に勤める医師・技師・ナースのスタッフにはあくまでも研修医であった。大学から研修医が派遣されて来ましたで通していく。

「患者さんには挨拶はいりません。この白衣姿で院内を歩くだけで充分でしょう」

院内案内のナースに偽医者からあれこれと質問が飛ぶ。内容は産科であったり医療全般であったり。

「捜査の中で医者になることはあります。なるべくその手の知識も詰めているはずなんですが産婦人科は分野が違っています。もし犯人が患者になりすまして来たら偽医師とばれてしまいますからね」


ナースはそうですか、そうでしたかと造り笑顔をする。

「捜査の中で医療の知識を使う。なんのことなんでしょうか。さっきから話を聞いていますが筋がよく通らなのです。第一瀬奈ちゃんが誘拐されること自体がわからないですよ」

ナースは不快感を男から受ける。どうにも様子から胡散臭いとも感じ始めていた。長年病気の人の様子を看てきたベテランナースの第六勘はガンガン不信感を感じていく。

「なんかおかしい。辻褄が合わないし警察にしては筋が通るところがないわ」

ナースになったばかりで警察病院に研修2週間のその体験を懸命にたぐり寄せようとした。


一方の若いインテリ女は窓に座りどこから見ているかわからない犯人にその姿を見せていた。いかにも親戚の娘さん、瀬奈とは血のつながりがあるような振る舞いに努力した。

「瀬奈ちゃんよろしくね。親戚のお姉さんとして見て頂戴ね。私は婦人警官だから安心してください」


求められもしないのに女は警官手帳を提示した。


瀬奈とは心を打ち解けて世間ばなしなどを始める。いかにも親しい関係を築いていくつもりらしい。

「瀬奈ちゃん少し家の中を一緒に歩きましょうか。学校のお話聞きたいわ。おやりになっているスポーツなど聞かせてもらいたいわ」

女は瀬奈をダシにして院内散策をしようとするつもりだ。瀬奈としては何やら訳のわからない女がいきなりああだこうだと言い始め不快感を露にした。

「本当に訳のわからない話だこと。私が誘拐されてから警察が来るのならわかるけど」

もっとわからないのは誘拐されたはずの瀬奈。院内を歩いて大丈夫なのか。


この男女は院内をこまめに周り逐一"警察無線"でワゴン車と連絡を取る小細工に走る。


その様子はいかにも病院を警護しているんだぞという姿勢であった。


偽医者の男と一緒に院内を案内するナースは警察だからと信用をしてしまう面もあった。

「こちらはK-k感度よろしいか。病棟は今のところ異常なし。そちらは?了解了解そのまま頼む」

ネクタイに仕込まれたピンマイクからはワゴン車に連絡が行くようになっていた。

「あれが警察無線ね。本物は初めて見たわ。刑事さんは大変だわ」

男を案内するナースは信じたようだ。警察病院の研修は遠い過去になります。


そのナースは推理小説の大ファンだった。若い時分にはナース夜勤勤務に推理やミステリーの文庫を3〜4冊携え読破していた。有名どころは大抵読んでおりそのトリックも覚えているくらいのマニアだった。

「そうです。推理小説は若いときから読んでいますわ。謎解きも好きですが社会派の松本清張あたりの正義感ミステリーもいいですね」

推理ミステリーマニアからすれば警察がみじかで捜査をしているとなると、

「私としましてはそりゃあ興味ありますね」


ナースにしたらテレビの刑事ドラマがこの病院が舞台で行われているようなものだった。


ナースは元来観察眼が鋭いことでも有名だった。患者さん妊婦さんなどの体調変化は観察眼と経験から的確な判断を施す。医大出たての新米医よりも遥かに役に立つ存在である。


推理のマニアのナースが警察だと言うこの男の不審さに気がつくのにあまり時間はかからなかったようだ。男はナースと院内を巡回し不審な物や人物はいないかと探すふりをする。

「先ほどから病棟の中をいろいろ探しているのはなんでしょうか。院内に爆弾があるとかならばわかりますが何か探しているのは泥棒が物色する様子に似ているわね」


推理とミステリー大好きなナースは俄か探偵さんになっていく。

「一度は警察だと信頼したんですの。でもなにやら怪しいですわ」


第1印象は裏切らない。


庭先に止められたワゴン車の中である。院内に潜伏をした二人からの無線をキャッチしてせわしなかった。

「はい了解。一階西の廊下異常なし、わかりました。これで全病棟異常なしということですね」

連絡を受けた男は手元の病棟の詳細地図に○を書き込んだ。

「これでよしと。病棟の中は全て配置がわかった。取り立てて難しい間取りじゃないな。じゃあ次の計画に移るか」


ワゴン車から連絡が入ると、

「うん?いよいよだな。次の計画に移るわけだ。ミスらないように細心の注意を払う必要がある」


偽研修医が無線に頷ずくと足早にリビングに向かう。


瀬奈と一緒のハイソなセンスの女も無線を受ける。

「わかったわ。すぐリビングに戻りましょう」

瀬奈を連れてこちらも足早に戻っていく。瀬奈はまったくわけがわからないまま不機嫌に従った。


「なんなのこの女は」


病院のリビングに院長、家政婦・瀬奈・ナース・主任と集まった。

「院長先生そろそろ犯人から電話がかかって来る時間だと思います。種を明かせば今から身代金を請求すれば銀行から現金を引き出せるわけです」

と男は説明する。

「犯人からの電話は娘さんの瀬奈ちゃんが誘拐されたと言う前提でお願いします」

男は念を押した。言われた院長は堅い表情で、

「まあなんとかやってはみるがね」

改めてうすら笑いを浮かべる。


まもなくリビングに電話がかかってくる。


リーンリーン〜


「かかってきたようです。家政婦さん落ち着いて普段のとおりに出てください。緊張なさらずにね。リラックスしてお願いです」

男は受話器を取りさあどうぞと家政婦に渡す。近くにいる女は電話逆探知機のヘッドホンに耳をつけいかにも操作をしていますと形を作る。

「もしもし」

家政婦さんは出る。小さな声の犯人の電話に緊張の極地に陥る。舌がシドロモドロになってしまった。

「はい、あっ、はい、あの、はい、はっ、院長先生、あっ、はい」

犯人からの電話なのか違うのかよくわからない。家政婦さんはオロオロし始めた。救いを求める顔になる。

「だ、旦那さま」

すぅっと受話器を院長に渡す。「犯人からの電話なのか」

院長に受話器を渡したら家政婦さんは緊張からその場にへたりこんでしまった。


「もしもし。私が院長だ」

気丈夫に院長は電話に出た。電話の向こうからは聞き取りにくい男の声がする。

「えっなんだっと(娘を)預かっただと」

院長はお約束通りに瀬奈が娘が誘拐されたと演技をする。


犯人は小さな声で、

「院長先生かい。相変わらずなかなか横柄な態度だな」

犯人は院長に恨みがあるようだ。

「いいか一度しか言わないから落ち着いて聞けよ。アンタの娘は預かった。いいなアンタの、む・す・めだ」

誘拐犯人は"む・す・め"を強調した。


電話の院長は"アンタの娘"と言われてみるみるうちに血の気が引き顔色が青ざめていく。

「俺の(娘だと)。俺の娘を、どっ、どうするつもりだ」

院長は気が動転してしまう。

「アッハハ院長先生どうやらわかったらしいな。そうさアンタの娘さん。なっアンタの正真正銘の娘さんなんだぜアッハハ」

犯人は高らかに笑う。

「事実がわかったのなら話は早い」


犯人は警察に連絡したらどうなるかわかっているだろうなと怒鳴り電話は切れた。電話を終えた院長は汗びっしょりとなりソファにもたれかかってしまう。


「パパ大丈夫?気分が悪いの。おじいちゃんを呼びましょうか。パパしっかりして」

院長の"もうひとり"の娘の瀬奈が心配をして声をかけてくれた。


院長はこんな状況で瀬奈の祖父、院長の父親に来られてはまずいと思った。

「瀬奈ありがとうね。パパは大丈夫さ」

ただナースには冷たいタオルとブドウ糖注射を持って来てくれと頼んだ。


「誘拐は俺のもうひとりの"娘"だったのか」


ナースは手際よく点滴の準備をして院長に打つ。

「お気分はいかがですか。院長先生大丈夫ですか」

院長は白衣をまくり点滴を受ける。特に点滴が必要だとは言えないがこの場は考える時間が欲しかった。

「やい一体誘拐犯人ってやつは」

院長は誰にも気付かれないように"もうひとりの娘"に連絡が取りたかった。


瀬奈は心配をして祖父を呼び妻を探してしまう。

「アチャアー万事休すだな」

院長のお妾さんはどうしてもばれてはいけない秘密の秘密となっている。


「パパ安心をして。おじいちゃんとママ呼んできたわ。もう大丈夫よ心配しないでちょうだい」


瀬奈は瀬奈なりに行動を取ってくれた。なんせ目の前の父親瀬奈のパパの院長が心配だから。

「あなた大丈夫ですか」

瀬奈のママはリビングに来てしまった。

「おいどうなっているんだ。誘拐犯人から電話だと。瀬奈はいるじゃあないか。まったくふざけているな。警察は連絡したのか。なにここにいる」

と祖父は怒りながらも息子の院長の脈を診る。

「かなり動悸が激しいじゃないか。そんな衝撃的な電話だったんか」


この家族のドラマを眺めた男と女はここで話を始める。

「皆さん落ち着いて落ち着いてくださいね。誘拐犯人から今は第一報があったところです。またかかって来ます。どうぞ落ち着いて私の話を聞いてください。犯人は娘さんを誘拐したから身代金を請求すれば開放すると言うでしょう」


院長は偏頭痛がしてきた。目眩に見舞われてもきた。祖父の元院長はこりゃあいかんなとベッドに連れて行こうとする。

「ちょっと親父待ってくれ。誘拐犯人からの電話は私が受けないといけない」

院長はソファから半身になりながらまだ大丈夫さと空元気を見せた。

「さあ犯人よ電話かけてきやがれ」


リーンリーン


数分後にリビングに電話がかかる。今度は院長が直に取る。院長は誰にも出て欲しくはなかった。

「もしもし」

電話の向こうは若い女だった。

「院長先生お目覚めかしら」


なっ、なに!


私が横になっていることをこいつらは知ってるのか。


「まあ横になられたら少しは楽になられたかしら。あらっ驚いているのかしら。こちらはなんでもお見通しだわ。院長先生あなたの大切な娘さん。お声聞かせましょうかしら。そうね奥さまに電話代わっていただいたらお聞かせしましょうアッハハ」


女の笑い声は院長の耳にギンギン響いた。院長は背筋から冷や汗が出た。院長のいるリビングには父親も女房もいる。ばれてはならない人間ばかりである。


女は手短に誘拐身代金の話を切り出す。

「いいこと警察が動き出したら"アンタの娘"の命はないと思いな!いいね。身代金は1億よ。アンタの預金なら本日中に銀行から降ろせる金額だわ。預金残は調べてあるの、あらっ残念ね。1億耳揃えて払って頂戴な賢明なるパパさんアッハハ。金はそうね今から銀行に連絡してどう1時間以内に用意できるわね。ストップオッチ必要かしら」


電話は一方的に切れた。


院長はガクっと肩の力が抜けた。


「犯人たちはいよいよ身代金を請求してきましたね。このテープが証拠になります。今の一言で立派な営利誘拐目的犯罪になります」

院長はフラフラとソファに横たわり頭を抱える。


院長の悩みはふたつ。


・お妾さん(別腹)の娘が誘拐されている。


・今いる家族には知られたくはない。


院長ますますダウンしてしまう。

「おい大丈夫か顔色が悪いぞ」

院長はナースに連れられてベッドに行かされそうになる。

「まっ待ってくれ親父。犯人からまだ電話がかかって来る。それに今から身代金を用意しなければならないのだ。私が全て応対しなければならない」

院長の強情ないいぐさは介護に手を出すナースには不思議だった。

「一体なんですの。瀬奈ちゃんは誘拐されていないのよ。それともこれから誘拐しようとか脅しているんじゃあないでしょうね。まったく訳のわからない騒ぎですこと」

院長は頭を冷やしながらソファに身を沈める。

「おい経理の担当を呼んでくれ」


家族一堂は驚いて院長を見る。驚くもなにも身代金を用意するというのだから。

「おい気は確かか」

祖父は驚きより息子の院長の気がおかしいのではないかと勘繰り始める。

「ありがとうございます。警察といたしましても身代金を用意していただきましたら犯人逮捕に役立ちます」

院長頭を冷やしながら経理担当からの返事を待つ。偽警察の男は恭しく頭を下げた。

「院長院長。なっなんでですか」

経理担当者が血相変えてリビングに飛込んでくる。なにせ用意して欲しい金額が金額だから無理もない。

「私は身代金を用意するよ」


その場にいた者は全員、おいおい院長の気は確かかだった。


「身代金をご用意されましても警察がちゃんと取られないように万全の処置を致します。信用してください」

男はシニカルに笑った。


経理担当は顔色を変えて、

「1億円は今から銀行に問合せをするがその出金名目が何にしましょうか」

で困った。出せはするが名目が必要だった。

「身代金とは銀行には言えないです。何せ急な現金取引きになるため迂濶なことを言うと警察が追及する可能性もあります。税務署だって怪しむ切っ掛けにさえなりかねません」

経理担当者は青くなって院長に苦情を言う。


「出金名目ですか。簡単でしょう。小豆相場、株取引き、先物などいかがでしょうか。いずれも短期の物件であり儲かりしだいに戻すと言ってみては」


経理は渋々と事務所に戻って出金伝票を一枚書き上げた。


「身代金はできるな」

男は電話の逆探知機を触りながらほくそ笑む。しばらくして経理担当者から現金取引きはできると返事が来る。三カ所の銀行から出金させるようでひとつずつ取りにいかなければならない。


「三カ所も行かれるんですか。それならば銀行回りは警察が協力してやりましょう。パトカーは早いですから」

男はにこりともせず即座に答えた。


経理担当は院長先生いかがされますかと尋ねる。


院長は腕を組み押し黙ったまま下を向く。


どうしたものかと個人的な悩みは尽きない。それを見透かすかのように男は手助けしようかと言って来ているのだ。三カ所の銀行を自家用車で回ったら効率は確かに悪い。ひょっとしたら犯人の指定する時間に間に合わないかもしれない。院長の娘の身代金が用意できなかった場合、電話の犯人はなにをしでかすかわかったものではないと思った。


が決断はまだまだ下し切れなかった。


ここで身代金を払うという意味をいかにして家族に伝えておくべきか、その口実が浮かばない。


リーンリーン〜


リビングの電話が鳴った。なんとタイミングのいいことか。


「院長出てください。犯人からでしょう」

男は逆探知機の機械をいじりヘッドホンをかけた。院長は一瞬躊躇いながら緊張して受話器を取る。


「もしもし」


電話は男の声だった。何か声を押しコロしたような感じだ。もぞもぞとしゃべってくるから聞き取りにくい。

「院長さんよ身代金は用意できたかい。銀行から出るかい。ほうそりゃあ結構なことだ、よしよし。じゃあな受け渡し方法を伝える」


電話犯人はかなり事務的に用件を言おうとする。


犯人が受け渡し方法はっと言うと男はヘッドホン越しに院長に言う。

「院長待ってください」

電話を女に代わるように指示をする。院長の役目はそこまでだった。次のステップに進むのに院長は不要だと思われてしまった。なにも知らない院長。電話を代わりましょうと犯人に伝えた。

「待ってくれ。電話を代わる。受け渡し方法ならばウチの者とやり取りしてくれ」

院長は男の指示通りにした。犯人は不思議なことに何ら疑問を持たず。そのまま電話が女になっても平気で話を続けた。


「もしもし。お電話代わりました。私は院長の姪でございます。これからは私が院長の代わりに対応させてもらいます」

自称婦人警官の女はテキパキと答えた。身代金の受け渡し場所と方法を犯人から聞いていく。


電話を代わってもらった院長は極度の緊張で倒れてしまう。意識が朦朧としそのまま病棟に収容された。病棟と言っても産婦人科の妊婦さんばかりの病棟に入院させられた。


院長の卒倒は犯人達に想定しえないことだった。院長をゆすって身代金を奪う計画にはミスのないストーリーが描かれていたはずだった。院長を中心に脅しまくって。


男は電話逆探知機の前に立ちしまったなあと舌打ちをする。院長が誘拐の窓口でなくなってどうするかと思いを巡らす。院長でなければゆする理由が見つからない。


ゆする理由として実際に誰も誘拐してないからひとつ嘘がばれたらそれまでの話だ。あのまま院長が意識回復しなければこのでっち上げ誘拐事件は見破られてしまう。


男は目の色変えてなんとか次の矢を射ることを考える。男の目が女と合った。

「皆さんにお伝えします」

犯人からの電話に出た女が言った。


「犯人から身代金受け渡し方法を伝えられました。場所は駅前のツインタワーです。駅に到着したら犯人からの指示を待つようです」

そこで女は提案した。三カ所の銀行から身代金を下ろしその足で駅に向かいたい。女に身代金を渡してもらいたいと。


経理担当は院長は身代金を作ることに同意したものとして医院の銀行通帳と判子を渡す。

「かしこまりました。このお金は一時的にお預かり致します。警察としては犯人逮捕に全力であたります」

男は通帳を三冊預かり女に手渡した。女は恭しくハンドバックの中に入れた。男は2〜3なにかしらの指示を女に与える。


リビングにいる医院関係者に、

「これから身代金受け渡し場所に警察は行きます。すでに現地は警察が張り込んでいます。身代金をむざむざ取られてしまうことはない。誘拐された娘さんの身柄の確保がわかりしだい犯人逮捕となります」


男ははっきりと院内の家族の前に"誘拐された娘"と言ってしまった。


「現場に行って参ります」


女はハンドバックをひとつ持ちスタスタと出て行った。

「ああ頑張ってくれたまえ。それでは私も現地に向かいたいのでおいとまいたします」

男は電話逆探知機を取り外しそそくさと部屋を出て行った。


医院のリビングには瀬奈の家族と医院スタッフが残る。


なくなったものは数億残高の銀行通帳だった。


自称警察が張り込んでいたリビングで祖父は、

「結局のところ」

腕組みをしながらソファにふかぶかと腰掛けた。

「通帳三冊を取られておしまいですかね」

経理担当は呟く。


慌ただしく自称警察が医院に現れ緊張した時間が流れた。今いなくなると、

「院長(祖父)先生結局誘拐されたというのは誰なんですか?瀬奈ちゃんはここにちゃんといますよ」


ナースはまず最初に聞いてみた。


祖父は孫娘を見て不思議な顔をする。

「言われたらそうだ。なんせ犯人と電話で対応したのは息子の院長だからな。あいつが起きてきたら詳しく聞いてみないとわからない」

身代金をむざむざ取られての誘拐事件だったのか。

「ひょっとしてこれって狂言というやつではないですか。誘拐なんて鼻からなくて我々を騙すつもりだった。あの男と女は」

経理担当は事の成り行きをつらつら思い出しながら言う。不審な男と女の言動のひとつひとつを思い出しながら。


「院長(祖父)先生ちょっと警察に電話してみます」

婦長は110番にかけてみた。もし病院が緊急配備されていたらすぐに警察はわかるはずだと踏んだからだ。

「もしもしこちらは110番です。えっ誘拐事件ですか。どこかと間違っていませんね」


まもなく医院にはサイレンを鳴らしたパトカーが数台がやってきた。到着した警官はテキパキと院長から家族から事情聴取を始める。なかなかの手際のよさだった。

「なるほど事情はわかりました。それは偽ですなあ。自称警察官かあ。考えやがったなあ。たぶん狂言誘拐ですね。その警官だとかいう男のモンタージュを早速作りましょうご協力願います」

警察官は本署に連絡を入れ詐欺事件として報告する。三軒の銀行も問合せをした。


まんまと1億はやられた後であった。銀行からの出金はかなり前に行われていたらしい。手際がいたってよかった。


電話逆探知機が設置されたあたりを指紋検出したが何も出てはこなかった。男は白い手袋を着用していた。


ナースは呆れた顔をしつつも、

「私もなんとなく変だなあとは思いました。誘拐されていない、これから誘拐するから身代金を出せですからね」


祖父の元院長は一体どうなったのかわけがわからない。

「ええいっ眠っている息子を院長を叩き起こそう。あいつなら詳しく知ってるはずだ」


祖父はゆっくりと病棟に向かう。後ろからは女房が付き添った。

「私もフに落ちないことがありますわ」


病室の扉を妻が開けた。点滴を受ける旦那が見えた。次に院長(祖父)が苦虫を潰した顔でぐっすり眠る息子に向き合った。


「おい起きろ話がある」

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