第6話 サリウス領の危機
誕生披露パーティーという名の「苦行」から解放され、ようやく心の平穏を取り戻しかけていたエリス。
だが、お気に入りの黒いワンピースの裾がソファで跳ねたその瞬間、彼女の背筋に氷の刃を突きつけられたような感覚が走った。
安らぎは一瞬で霧散した。
サリウス領を包囲するように立ち込める、濃厚な殺意と、どろどろとした悪意。
今までこの気配に気づけなかった己の「弛み」に、エリスは激しい憤りを感じた。
(……ほう、ネズミどもが。それも、ずいぶんと大掛かりな仕掛けをしておるのぉ)
エリスは即座に思考を切り替えた。神力を波紋のように、光速で領地の隅々まで広げていく。それは単なる索敵ではない。領民一人ひとりの魂を選別し、そこに混じる「負の悪想念」を悪しき霧として探知する神の走査だ。
防御結界、遮音魔法、遠隔共信魔道具……。隠密の限りを尽くしているつもりの暗殺者たちだったが、エリスの瞳の前では裸も同然だった。
彼女は敵の魔力機構に強制介入し、その意識、映像、音声を強引に剥ぎ取った。
そして、その情報を「強制思考共有」によって、ミモラ、テティア、シルビア、メアリーの脳内へ直接叩き込む!
不機嫌極まりない今日のエリスは、愛する家族にも優しくなかった。
「「「「痛っ!? ……な、何!?」」」」
四人の脳裏に、濁流のごとき情報が流れ込んだ。冷酷な暗殺者たちの囁き、魔獣が蠢く湿った音、そして詳細な戦術マップ。
『粛清部隊、邸宅に潜入中。対象のエリスディーテとカレンを捕捉確認した。今夜捕縛を実行する。それ以外の披露宴出席者及び家族、領民は赤子一人生かさず抹殺する』
『懲罰部隊、魔の森にて魔獣二千頭の掌握完了した。だが、魔獣は集まり続けている。本日午前零時、氾濫を決行。サリウス領を地図から消去する。』
『粛清部隊、懲罰部隊に告ぐ計画時間の零時きっかりに行動開始だ、魔道具で一斉に伝達する。それまで待機だ』
『通信元:リレトス聖教国、バロウ大司教』
それだけではない。エリスはさらに領地の外周を探知し、別の影を暴き出す。
『ドラン帝国、偵察部隊五個班。20名、部隊長1名、完全武装にて待機中。』
『リレトス聖教法国の通信魔道具を傍受した。計画時間は零時きっかりだ。動き出したのを確認後、ターゲットを暗殺しろ。随時報告は怠るな。以上だ』
『通信元:アシッド軍務卿及びミユラー宰相代理』
突きつけられた絶望的な包囲網。
突きつけられた驚愕の事実に、執務室のミモラたちは顔を強張らせた。聖教法国による『人為的な魔獣氾濫』と『暗殺部隊』、さらに帝国による『火事場泥棒的暗躍』…
そう、サリウス領は今、聖教会の「断罪」と帝国の「暗躍」。巨大な二つの国家に挟み撃ちにされていた。
だが、その中心にいるのは、三歳の肉体に「激怒した女神」を宿した超越者である。
エリスは部屋に駆け込んできたカレンとミツルギを伴い、即座に執務室へと向かった。
廊下ですれ違ったメイドが、エリスから放たれる凄まじい神の威厳に思わず膝をつく。
「辺境伯家との晩餐は中止じゃ! 大至急おばあちゃまに確認せよ。それと、騎士団長とギルド長を叩き起こして連れて来い! サリウス領はこれより『全域緊急防衛体制』に移行する!」
エリスの言葉に驚いたのも束の間、聞き終えると同時に急いで執務室に駆け出したメイドを横目に、エリスの歩みは止まらない。
執務室の重厚な扉が、エリスの魔力によって左右に弾け飛ぶように開いた。
室内には、すでに戦う覚悟を決め、瞳に冷たい炎を宿した四人の美女が待っていた。
エリスはテティアとメアリーの間に座り、カレンが用意する茶菓子を横目に、凍てつくような声音で告げた。
「ミツルギも、そこへ座れ。話は長いぞ。……聖教法国の腐れ外道ども、妾の箱庭を荒らそうとした報い、その魂に刻んでやる必要があるのぉ」
用意されたのは、華やかな晩餐ではなく、戦いのための乾いた軽食。
そして、敵を地獄の底へと突き落とすための、完璧にして残酷な『迎撃作戦図』。
サリウス領、最長にして、最も鮮血に染まる「神罰の夜」が、今その幕を上げる。
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