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第3話 誕生披露

 サリウス伯爵邸は、夜明け前からかつてない熱気に包まれていた。


 主役であるエリスの三歳の誕生日、そしてその存在を広く世に知らしめる誕生披露パーティー。


 この日のために、使用人たちは数週間前から寝る間も惜しんで準備を進めてきた。


 会場となる大広間のシャンデリアは塵一つなく磨かれ、テーブルには領内外の豊かな実りを象徴する豪華な料理が並べられていく。


 その采配を振るうミモラとテティアの表情にも、隠しきれない気合が滲んでいた。


 正午を過ぎる頃には、辺境各地から名だたる貴族や領内の代表者、そして宗主であるエンケラド辺境伯家の面々が続々と到着した。


 彼らの目的はただ一つ。サリウス領の劇的な発展を成功させた「紅堕天使の4姫」の孫であり娘でもある。噂の『神童』を、その目で確かめることである。


 一方、その「神童」本人はといえば、朝食後から続く磨き上げの苦行に、魂を吸い取られかけていた。


 ワインレッドの重厚なベルベットドレス。緻密な刺繍が施されたレース。レッドブロンドの髪は一筋の乱れもなく結い上げられ、髪飾りとして配された魔宝石が、彼女が動くたびに眩い光を放つ。


 鏡の中の自分が輝きを増し、宝石を付け足されるたびに…


 エリスの瞳からは生気が消え…


 口元はだらしなく弛んでいった…


「お嬢様……。その、埴輪はにわのようなお顔は止めてくださいまし。シャキッといつもの凛々しさを取り戻してください!」


 専属侍女カレンが、呆れたように、しかし必死に指摘する。


 エリスは深いため息をつき、ようやく重い腰を上げた。


 鏡の中の埴輪(はにわ)のような顔は、瞬き一つの間に消え去る。そこに現れたのは、感情を完璧に制御し、気高さだけを抽出した『淑女の仮面』であった。


 セレモニー会場を見下ろす二階エントランス。テティアの優雅な口上が、静まり返った広間に響き渡る。


「……それでは、我が娘。エリスディーテ・サリウスのお披露目を行います」


 重厚な扉が左右に開き、ミモラ伯爵に手を引かれたエリスがセンターへと躍り出た。


 一階に集った紳士淑女たちは、その光景に一瞬にして呼吸を忘れた。


『紅堕天使の4姫』と恐れられる母たちの血を継ぐ少女。彼女が背負う光がワインレッドのドレスを燃えるように輝かせ、レッドブロンドの髪が後光のように彼女を包んでいる。


 その姿は、地上に降り立った幼き女神そのものであった。


 エリスは階下の人々の顔を一人ひとり、ゆっくりと見渡した。


 そして、三歳児とは思えぬ涼やかで、かつ芯の通った声を響かせた。


「皆様、本日は晴天に恵まれ、母なる祖神の祝福を受けまして、わたくしの誕生披露パーティーがこのように盛大に開かれましたこと、心より感謝申し上げますわ」


 滑らかで澱みのない、それでいて聴く者の魂に直接届くような気品に満ちた謝辞。


「さて、本日良き日に、わたくし、エリスディーテ・サリウスは三歳の誕生披露を迎えることができましたこと、感無量の念に堪えません。

 わたくしをここまで育て、支えてくださった家族と、そして、エンケラド辺境伯家、親戚・縁者の皆様。

 さらに我が家を支えてくださる領民の皆様、地縁者の皆様……。

 お時間を頂き、私めの披露をさせていただきましたこと、衷心ちゅうしんより御礼申し上げます。

 今後一層、サリウス伯爵領の発展に御厚情を賜りますよう、私、エリスディーテ・サリウスの歓迎と感謝の挨拶といたします」


 家族への謝意、領民への深い労い。その言葉の一つ一つが、何十年も政務に携わった熟練の政治家のように洗練され、重みを持っていた。


「まだまだ若輩の身。皆様のご指導ご鞭撻を、よろしくお願いいたしますわ」


 エリスは左足を軽く引き、指先まで神経の行き届いた、これ以上ないほど完璧なカーテシーを披露した。


 スカートから手を離し、ゆっくりと顔を上げたその仕草には、抗いがたい色気と品格が宿っている。


「最後になりますが、このように盛大にご準備を頂いた、当家の家臣の皆様と、大変素晴らしい料理をご準備頂いた料理人や使用人の皆様に感謝を送りたいと思います。本日の良き日を、共に過ごせたらと思います」


──再び、静寂が会場を支配した。


 誰もが唖然としていた。目の前にいるのは、本当に言葉を覚えたての三歳児なのか。可憐な百合の花を思わせる愛らしさと、周囲をひれ伏させるほどの圧倒的な威厳。その絶望的なまでのギャップに、貴族たちは品定めすることさえ忘れ、ただ立ち尽くすしかなかった。


 一方で、舞台裏でこの日を支えてきたメイドや料理人たちは、自分たちの苦労が最高の形で報われたことに感極まっていた。彼らはボロボロと涙を流し、手が痛くなるほどの拍手喝采を送っていた。


 母テティアも娘の豹変ぶりに、目を見開き空いた口が塞がらなかった。


「……あ、あら。失礼いたしましたわ」


 沈黙にハッと我に返ったミモラが、誇らしげに、かつ孫のあまりの完璧さに動揺を隠せない様子でグラスを掲げた。


「こ、この目出度き日に、我が孫エリスディーテの門出を祝し……皆様、ご唱和ください。乾杯!」


────乾杯!!!


 建物全体を揺らすような、地鳴りのごとき唱和が響き渡った。


 こうして、エリスディーテ・サリウスの名は、単なる「可愛い領主の孫」ではなく、大陸の歴史を塗り替える『神童』として、一夜にして列席者たちの心に深く刻み込まれたのである。

いつも読んでくれて嬉しいのじゃ!

それと応援してくれて感謝じゃ!

嬉しくて!妾は、張り切って

頑張るからのう!


(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐

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