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第1話 ターニングポイント

 未曾有の魔力災害が大陸を揺るがしてから、三年の月日が流れた。


 世界を影から操っていた闇の組織が壊滅し、表面的には平穏な日々が戻りつつある。


 しかし、その静寂の裏側で、長きにわたり大陸の精神的支柱であったリレトス聖教法国は、かつてない危機の淵に立たされていた。


 天を突くほどに巨大なリレトス大聖堂。その奥深くに位置する大司教執務室で、バロウ大司教は焦燥の極みにあった。窓から差し込む西日は赤黒く、まるで不吉な血の色のように執務机を染めている。


 原因は、毎年初夏に執り行われる『大聖浄祭』の異変だ。


 この大陸には五百年前から女神オフィリアの教えがある。災厄の象徴である『黒髪・黒目の子供』を生贄として捧げれば、女神がその穢れを天界へ持ち帰り、代わりに地へ恵みをもたらすというものだ。だが、三年前、その生贄となるはずだった『黒目の赤子エリス』を見失って以来、祭典は形骸化していた。


 代わりの生贄をいくら捧げても、大神殿のカリヨン(鐘)は沈黙を貫き、空に光の花弁が舞う奇跡も途絶えた。「女神の加護が失われたのではないか」――そんな不穏な噂は民衆の間で急速に広まり、聖教会の権威は今や砂の城のごとく崩れかけていた。


 さらに追い打ちをかけるように、半年前に教会の裏の資金源であり供物の供給源でもあった大規模な奴隷組織が、一夜にして壊滅したのだ。


 静寂を破ったのは、微かな空間の歪みだった。重苦しい空気に満ちた執務室に、何重もの遮音魔法が展開される。


「バロウ大司教。朗報にございます」


 音もなく現れたのは、聖教国最強の武力組織『七聖天』が一人、粛清部隊長のシルバーだった。彼の冷徹な声が、凍りついた執務室に響く。


「例の『黒目の赤子』、そして半年前に行方不明となった『黒髪の少女』の所在を特定いたしました」


 バロウは椅子を蹴り飛ばさんばかりの勢いで立ち上がった。その報告は、驚愕の連続だった。


 かつてアーク王国を追われた忌み子の母子は、ミレニアム共和国の『サリウス伯爵領』に潜伏していたという。


 密偵はサリウス領の境界を超えた瞬間に記憶をすべて失うという不可解な現象に見舞われたが、彼らが携えていた記録結晶の魔道具には、消される直前の真実が克明に刻まれていた。


「この記録をご覧ください」


 シルバーが起動した魔道具から、空中に青白い映像が浮かび上がる。


 そこには、レッドブロンドの艶やかな髪をなびかせ、黒髪の幼女と睦まじく戯れる幼い少女の姿があった。


「こ、これは……! この黒髪の少女は、正にミレニアム共和国で居なくなったあの時の『忌み子』ではないか! それに、この赤毛の幼女は一体何者だ?」


「はい。今は髪色を変えておりますが、この幼女こそ三年前に行方不明となった元アーレス公爵夫人、テティアの娘……に相違ありません。恐らく高度な魔法薬で正体を隠しているのでしょう。名はエリスディーテと名付けられたそうです。」


「なんという事だ……。あの女、まだ生きておったのか」


 映像が切り替わり、人口八百人ほどの真新しい村が映し出される。そこにある光景は、バロウの理解を越えていた。


 村人たちは皆、かつて奴隷として死を待つばかりだった者たちだ。それがどうだ。映像の中の彼らは、まるで光そのものを纏ったかのような安らかな面持ちで、互いに手を取り合い、平穏に暮らしている。


「おい、この小汚いネズミどもが、なぜこれほど清潔な格好で、幸せそうに笑っているのだ?」


「この村は半年前、サリウス領主一家が魔の森を自ら切り拓き、短期間で造り上げたものです。そしてこちらをご覧ください……同時期に改築された旧伯爵邸。現在は孤児院として運営されていますが、そこにいる子供たちの多くは……」


 バロウは「半年前」という言葉に、雷に打たれたような衝撃を受けた。


「ま、まさか……これも『悪神の神隠し』で消えた奴隷どもか!?」


 バロウは震える声でシルバーに詰め寄った。シルバーは表情一つ変えず、静かに、しかし肯定の意味を込めて頷いた。


 記録によれば、聖教会が血眼になって探していた黒髪の少女すらも、その屋敷で「専属侍女」として保護されているという。


「……なるほど。記憶消去の魔法で追手を眩ましていたというわけか。忌々しい! ミモラ伯爵め、女神への捧げ物を二つも横取りし、あまつさえ我らの管理していた組織を根こそぎ消し去ったというのか!」


「左様にございます。現在、領地を実質的に支配しているのは、巷で噂される『紅堕天使の4姫』……ミモラ、テティア、シルビア、メアリーの四名。我らの顧客であった貴族たちを社会的に、あるいは物理的に消し去ったのも、彼女たちの仕業と見て間違いありません」


 バロウの顔は怒りで赤黒く膨れ上がった。


「クソッ! 聖教国の顔に泥を塗り、三年間も我らを嘲笑い続けていたとは! 許し難い、万死に値する!」


 バロウは激昂しながらも、冷酷な決断を下すべく呼び出しのベルを鳴らした。召喚されたのは、もう一人の『七聖天』、懲罰部隊長のラッセルだ。


 ラッセルを交えた三人の間で、記録結晶の情報が共有される。執務室の温度が、殺気によって数度下がった。


「部隊長の両名に命ずる。直ちにサリウス伯爵領へ向かえ。目的は『生贄』となる二人の少女の確保。そして――」


 バロウの眼光が、一切の慈悲を捨てた暗黒の殺意に染まる。


「聖教国の威光を汚した報復として、サリウス一家を根絶やしにせよ。元奴隷どもを匿った罪は、領民全員の命で贖わせるのだ。一人の赤子に至るまで、完膚なきまでに粛清せよ!」


「「はっ! 勅命、謹んでお受けいたします」」


 二人の部隊長は、血に飢えた獣のような歪な笑みを浮かべ、夜の闇に溶けるように姿を消した。


 後に残された大司教は、薄暗い執務室で一人、歪んだ悦びに浸りながらワインを煽った。来たる『大聖浄祭』で、今度こそ本物の奇跡が起き、自分の権威が盤石なものになることを信じて疑わなかった。


 だが、彼はまだ知らない。

 自ら差し向けた『粛清』の刃が、地上に舞い降りた『真なる女神』……その逆鱗に触れることになることを。


 そして、その傲慢な一歩が、リレトス聖教法国という長い歴史の幕を引く、終わりの始まりであることを。

 

 サリウス家に固執した者たちの運命を左右するターニングポイントは、今、この瞬間だった。

いつも読んでくれて嬉しいのじゃ!

とうとう聖教会が動き出したのじゃ!

サリウス領の運命はどうなってしまうのじゃ!

まぁ、楽しんで貰えるように大暴れするからのう!

(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐

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