幕間 相対する光の贖罪
私には姉がいた…今はもういない……そう、私が手に掛け殺したから…
姉を手に掛けた直後から、私に溢れ出ていた『酷薄』と『絶望』の権能も少しづつ凪のように落ち着きつつある。
だから今、私の思考は巡り出した…
皮肉にも『慈愛』と『希望』という愛を冠する姉の権能と、絶望を冠する私の権能と相反するものだった。
その為、与えられる愛が深く重いほど私は情け容赦なくその希望を絶ち切る選択しか選べなかった。
傍にいるだけで、姉を傷つけ、絶望を与えたくなる。だから、姉から距離をとった。
成長した私達は別々の神界を創造した…
それでも、姉は私を愛するのを止めなかった…
とうとう、姉の愛深き故に、私の権能は『絶望』を齎さんと私の自我を押し退け溢れ出た…そして姉を殺めた…
──これは、そう、権能を言い訳にした全て私の行いなのだ…罪悪感から逃れるための保身でもあった。
幾ら後悔しても、懺悔しても、赦しを得たい相手が存在しない。悔いても、悔いても、悔いきれない想いが溢れる…
残酷な事に、この現実から逃れられない…涙に暮れる日々、何度、姉のように消滅しようと自死を図ろうとも、それを権能が邪魔をする。
こうして、私は少しずつの魂を損耗しながら永き刻を生きながらえてしまった。
───姉を失ったあの瞬間に思いが巡る…
─
──
───
溢れ出た権能を糧に、無抵抗な姉を甚振り続け、より残虐な方法を選択し続けた。絶望を与える歓びに私と権能が打ち震える。
そして、終焉の刻を迎える。姉の神格を根源から消し去る為に編み出した概念攻撃、最後の絶望を与えることに愉悦と共に歓喜する。
私が放った絶望を乗せた虹色の死を、姉はどこか遠い目で見つめていた。
姉は脱力し抵抗する事もなく光に呑み込まれた。垣間見た姉は凄く寂しげに慈愛が籠もった瞳をしていた。
魂が砕け、光の粒子に変わる姉に心を奪われた…何故…という想いと共に……
『くっ……。闇の神界よ、妾に仇なす外敵を退け、永久に閉じよ!』
姉の意識が霧散していく中、その消滅と引き換えに神界の外郭が封鎖されたのを、私は神覚で察知した。
姉は、異分子である私を闇の神界から弾き出すため、外部からの干渉を完全に断絶したのだ。
崩れゆく神界を見渡し、消えゆく姉に目を向ける。
神格外装の殆どが損壊し、光の粒子へと還りつつある姉。どんなに無念に満ちた顔で逝くのかと、私は嘲笑を浮かべてその瞳を覗き込んだ。
「っ!?……っ」
だが、姉の顔に悔恨の色は微塵もなかった。それどころか、姉は私を、震えるほど愛おしげに見つめていたのだ。
理解が及ばず、呆然と立ち尽くす。
姉は、何かに祈るようにゆっくりと、静かに瞼を閉じた。
「……この異層に、お姉様はいらないの。私(光)だけが存在すればいいのよ……」
(これでよかったのよ。同じ異層に神は私一人で十分。……なんなのよ、このモヤっとした気持ちは)
──思考の波に、一瞬だけ飲まれた。
再び姉の最期を見やる。今度の彼女は、血が滲むほどに唇を噛み締めていた。
(そう! 私はその顔が見たかったのよ! もっと悔しがりなさい!)
やがて、存在が完全に消失するその刹那。
姉は、春の陽だまりのような笑みを浮かべ、一粒の涙を頬に伝わせた。
そのまま光の残渣となって、あまりにも儚く消えていった。
『………………』
私は後悔しない。間違っていない。
「姉妹ごっこは、もう終わり。お姉様……永遠にさようなら」
最後まで見届けた私は、胸に沸く不快な感情に無理やり蓋をした。無理に気持ちを切り替え、冷え切った達成感を愉悦だと言い聞かせる。
崩壊を始めた闇の神界に巻き込まれるのを嫌い、自身の神界へと急ぎパスを接続。神領界跳躍術式を展開し、統治する光の神界へと帰還した。
光の宮殿に戻った私は、豪奢なソファに身を投げ出した。だが、脳裏には姉の最期の表情がこびりついて離れない。
頭を振って思考を振り払おうとするが、胸のつかえは取れなかった。生まれて初めて味わう感情に、私は戸惑うばかりだった。
(え〜い! どうしたっていうのよ!? お風呂に入って気分転換よ!)
浴槽に浸かりながら、視覚を光の異層界の外へと投じる。闇の神界は既に崩壊したのか、そこには底知れぬ虚無が広がっていた。
(神格が消滅したら、神界も何もかも消えちゃうの……!?)
私は愕然とした。あまりの衝撃に浴槽の床で滑り、頭まで湯船に浸かってしまう。
慌てて飛び出し、即座に身体を乾かして衣服を纏った。
「……ど、どういうことなのよ!? 崩壊した後の神気や闇の神界の力の源はどこへ行ったのよ!」
姉を殺害後、闇の神界そのもの自身に取り込むつもりだったのだ。
だが、目の前にあるのはただの「無」だった。
膝から崩れ落ちる。永きに亘って戦い続けた日々が、虚無の中に消えていく。そして、姉を殺害する理由(言い訳)を失った私…
漣立つ私の権能が、日を追うごとに凪いでいく…
(……お姉ちゃん……)
───
──
─
これが、権能の力に溺れ、姉を失った時の私の記憶───
姉が消滅してから、果てしない時が流れた。私の内に潜む権能は穏やかなままだ…
母なる世界からのエネルギー供給も、徐々に減りつつある。
理由は、分からない。
思い当たるのは姉の消失。それ以来、何もかもが空転していた。母なる世界を模して世界を創造しても、そこに生命が宿ることはなかった。
何が足りないのか。答えはいつも、姉の不在に突き当たる。
(お姉ちゃんの言う通り、光と闇で一柱の神だったのかな……。今さら、手遅れだけど……)
懺悔と後悔の日々──
自死することも許されず、もはや何をする気力も起きず、ソファにもたれて、だらしなく足を投げ出した。何か温かい声が聴こえたような気がした。
かつて姉がいた場所、今は虚無となったあの空間に、気まぐれに視覚を飛ばした。
直後、全身に電撃が走った。驚愕に目を見開き、言葉を失うほどの衝撃を受ける。
「えっ! ウソ! 闇の神界が……復活してる!?」
ソファから飛び起きる。
即座に神領界跳躍術式を展開したが、術式は無情にも弾かれた。世界の「理」そのものが、彼女の侵入を拒んでいる。
何度も術式を組み替え、理を書き換えようとしても、外郭に触れることすら叶わない。温もりが強く彼女を包む…
だが、諦めることなどできなかった。
諦めることなく、幾億の時を費やした。温もりだけは傍らにいつもあった。温もりが導き指すように…
ある時、マーキュリアスは気づいた。復活した闇の神界は、もはや神界ではなく「母なる世界」と同質の波長を放っていることに。
それは、生命の鼓動だった。
「うっそ〜〜〜!?」
自分には成し得なかった偉業。姉は消滅の果てに「母なる世界」の域へと至り、新たな世界を産み落としたのだ。
世界に愛し子が誕生すれば、その祈りによって神の位階はさらに上がる。
(これじゃ、本末転倒じゃない……。私は最初から間違ってたのね。これだけ拒まれているのが、その答えよね……)
全てを悟った彼女は、魂が罅割れ絶望の果に自死を試みるが、次は温もりによって阻まれた…私は後悔と懺悔の日々に沈むだけだった。
姉が創造した世界から溢れ出る「記憶の欠片」を拾い集め、その中を覗き見ること。それが、孤独な光の女神の唯一の日課となった。
──生命が溢れ、女神の写し身が誕生した。
「きゃぁ〜〜〜!! お姉ちゃんやったね! 愛し子が誕生したわよ!」
──文化が育まれ、文明が誕生した。
「へぇ〜、文明ができるまでってこんなに時間がかかるんだ。せっかくできても、あんな統治じゃ滅びを待つだけよね」
──魔王が倒され、冥王の粛清が行われた。
「魔王って阿呆よね、天使に騙されるなんて。あれは冥王……ううん、星の調整者かしら。人間ってだめね。お姉ちゃん、なんで干渉しないの?」
──そして……闇の女神(姉)が、転生した。
強く温もりが、私を包み込んだ、何かを伝えるように…
「えっ!? お姉ちゃん!! 転生したの!? 全然回復できてないじゃない! それに……権能が変わってる。闇と光の女神……? 道理で、私一人じゃ生命を創れなかったわけだ……。……私も、お姉ちゃんの世界に行きたい!」
(赦してくれるか分からない。でも、お姉ちゃんの傍にいたい。今度こそ、支えたい!)
光の女神は、自身の神格魂を除いた全ての神界、神気、そして神威をエネルギーへと還元し、母なる世界へ祈りを捧げた。
「私は、お姉ちゃんに取り返しのつかないことをしました。もう神じゃなくていい。ただ、転生したお姉ちゃんの傍に行かせてください。私の全てを、お姉ちゃんに譲渡します」
祈り続ける私を傍には寄り添う温もりが常にあった。いつも私を見守るように。
真摯に、ただ姉を想って祈り続けた。
姉が転生して3年が過ぎた頃。
祈りの果てに、私ははふわりとした浮遊感に包まれた。瞼を開けると、そこにはかつて焦がれた「姉の世界」が広がっていた。
──母なる世界は、彼女の願いを聞き届けたのだ。
神の魂ではなく、一介の「普通の魂」への転落だと理解する。でないと、姉の世界にはは入れないからだ。
それでも構わなかった。いや、それこそが姉への贖罪なのだと受け入れた。
かつて光の女神だった魂は、産声を上げる日を温もりと共に待つ。
──姉との再会は、そう遠くない未来。
引き合う魂に導かれ、物語は再び動き出す。
読んでくれてありがとうなのじゃ!
う〜ん何か胸騒ぎがするのぅ。妾の神覚にビンビン感じるのぉ。何かが迫ってそうじゃ。
まぁええ!読み進めてくれたら何とかなるのじゃ!
いつも応援してくれて嬉しくてのう!
張り切って筆耕に励んでおるのじゃ!
主に作者がのう(*´ω`*)/応援してくれると妾も頑張って活躍するでのぅ⭐
頼むのじゃ!




