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第14話 赦さない

──三日目 アーク王国、シェード公国


 一行は二手に分かれた。


『アーク王国』は王族や貴族に顔が売れているミモラとテティアを避け、エリス、シルビア、メアリーの三人が担当。


 ミモラとテティアは『シェード公国』へと向かった。


 アーク王国での潜入捜査は、皮肉にもこれまでの二国に比べれば『マシ』なものであった。


 拷問や過度な虐待こそ少なかったが、それでも不当に買われた奴隷たちの境遇に変わりはない。


 三人は迅速に、闇組織を根こそぎ破壊した。


 エリスが指を鳴らすたび、豪奢な貴族の屋敷から悲鳴が上がり、白銀の炎が夜空を焦がした。


「……罪の意識すらないのが、一番の罪ですね」


 メアリーが、白銀の炎に焼かれて消滅した男の執務室で冷たく呟いた。


 一方、シェード公国に向かったミモラとテティアも、同様に粛清を進めていた。


 公国は奴隷を『労働力』として扱う傾向が強く、五体満足な者が多かったことに、二人は胸を撫で下ろした。


 だが、その安堵は一瞬。彼女たちはアジトを容赦なく殲滅し、関係者全員に神罰を下した。


「救わなきゃいけない命が、まだこんなにあるわ……」


 テティアの瞳には、母としての決意が宿っていた。


 しかし、テティア達は気づけなかった。記憶に残らない、いや、残さない、陰湿な策謀に、誰にも知られる事も無く、闇組織を復活させる凶悪な芽を遺してしまっていたことに…



──四日目最終 ミレニアム共和国


 ミモラとシルビアはミレニアム共和国では貴族に顔が売れているため、留守番組となった。


 メアリーは治療者が多すぎるために、居残り組に手を上げ救助した人たちの治療にあたった。


 ミモラは、領主権限をフル活用し、領民へ秘密を護る事を条件に事の次第を伝え協力を仰ぎ、領民をあげて共に、衣食住の準備と提供を進めた。


 エリスがアジトや貴族家、聖教会関係者の自宅から押収した金銭を惜しみなく使い救える命を救ったのだった。


「建築資材が不足しているわ、至急、魔の森を切り開くわよ!」


 掛け声と共に、ミモラとシルビアは大剣を振りかざし、烈火の如きスピードで魔の森の木々を切り飛ばし、メアリーが術式で乾燥を繰り返し、騎士団が運び出した。


 サリウス領内は空き家の改修と新たな村の建築ラッシュに見舞われ、内需拡大の好景気に…


 その、真剣な領主一家とそれを慕う騎士団の様子を見て、領主一家への忠誠心は天元突破し、強い信仰に変わるのは瞬く間だった。


 そして、領内には即席の『忘却の結界』を張り巡らせ、助けた人々と事の真実を知った領民を守るために、領内で『観たこと』、『聴いたこと』を領内から離れれば忘れる結界をエリスが張っていた。


 しかし、即席で張った術式であったため、魔道具の制約までは考えが及んでいなかった……。


──襲撃組のテティアとエリスは


 順調にアジトを準じ壊滅し、人々を助け領内へ転送した後、奴隷を購入した貴族家へ突撃…


 ミレニアム共和国の有力貴族、ダルメッシュ子爵の屋敷に転移した。


『お母様、大変なのじゃ!マーキングした子供以外にも、瀕死の子供がおるのじゃ!⋯

命が消えかけておるのじゃ!』


 そこは、豪華な屋敷の地上部分からは想像もつかない、冷たく湿った石造りの地下牢だった。


 鉄格子の奥、汚水が溜まった床に、三人の子供が倒れていた。


 その内の一人、黒髪の少女。


 エリスが即座に共有した彼女達の記憶、その黒髪の少女の記憶は、テティアの精神を崩壊させかねないほど惨いものだった。


「⋯⋯⋯⋯っ!!カレン!!」


 テティアが駆け寄り、少女を抱き上げた。


 少女の名前はカレン。エリスと同い年だ。


──カレンは、黒髪と碧い瞳を持って生まれた。


 両親は彼女を深く愛していた。だが、その黒髪という『忌み子』という珍しい容姿がダルメッシュ子爵の目に止まった。嫌、止まってしまった。


『聖教会に献上すれば、莫大な権益が手に入る』と、野心に濡れる。


 子爵の私兵はカレンの家に押し入った。家族は、抵抗する余地も無い、彼女を庇った両親を、彼女の目の前で、笑いながらなぶり殺される…


「やめて下さい!この子を連れて行かないで下さい!」


 必死に縋りつく母親、そして、私兵に立ち向かう父は、四肢を貫かれ、苦しみ喘いでも、声が枯れるまで妻と子を案じて、叫び続けたが、兵士は弄ぶように、妻と子の目の前で一刀のもと首が跳ねられた。


「やめて!助けて!お父さん!お母さん!お母さん! お、お父さん!!?」


「あ、あなたーーーーー!!!」


 カレンを母親から切り離した子爵の私兵は、手を伸ばす母親をつまらないものでも見るように、無慈悲に切り伏せた。


──ザッシュッ!!


「カ、レン……」

「おかーーーあさーーーん!!」


 慎ましくも、密かに育んだ家族の絆を無惨にも、己の欲を満たす為だけに、無慈悲に破壊されて行く…


 親子三人が慎ましやかに、隠れるように過ごした思い出の我が家は、無残にも火がかけられ、夜空を赤く染め上げた。絶望を超えて心神喪失となった僅か2歳の幼児に深い傷跡を残し、無理やり連れて行かれたカレン…


 以来、彼女はこの子爵家の地下牢に閉じ込められた。


『不吉な黒髪』『忌み子』となじられ、子爵の子供たちからさえ『動く玩具』として鞭打たれ日々虐待と拷問を受け続けた少女。


 魔法の実験台にされ、三日に一度、腐ったパンを投げ与えられるだけの、地獄。


 テティアが抱き上げたカレンの体は、羽毛のように軽かった。


 瞳は一点を見つめ、瞳孔は開き、呼吸をしているのが奇跡に思えた。


 全身は化膿した傷跡に覆われ、指の爪と足の爪はすべて剥がされていた。まだ2歳…2歳だというのに…………死すら許されぬ苦痛の檻。


「……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……許さない……絶対に許さない!!」


 テティアの声は、もはや人間のそれではなく、怒れる神の地鳴りのようだった。


「絶対に、許さない。神が許しても、母親である私が、地獄の底へ叩き落としてやる」


 エリスは無言でカレンに最上級の回復術式を施し、彼女と二人の少女を別邸へと転送した。


 そして、二人はダルメッシュ子爵の邸宅の中庭に降り立った。


 そこでは、カレンを聖教会へ高値で売る算段がついた祝宴が、賑やかに開かれていた。


「――貴方たちが、ダルメッシュの一党ですか…」


 広間に響き渡ったのは、母の怒りに無を震わせる聖母『絶対者』の、冷徹な宣告。


 エリスは屋敷全体を『隔絶結界』で封鎖し、逃走の道を断った。


 そして、眠りについていた家臣や家族たちを、強制的に精神を覚醒させる術式で叩き起こした。


「な、なんだ貴様らは!私兵!私兵を呼べ!」


 子爵が叫ぶが、私兵たちはすでに床で泡を吹いている。


『妾は女神。お主らが「忌み子」と呼んで虐げた力の、真なる源流じゃ』


「そして、子を育み、慈しむ、私は女神の聖母!」


 エリスが空中に浮かび上がる。その背後には、氷の剣を携えたテティアが、慈悲を捨てた夜叉の如き表情で立っていた。


 二人からは凄まじい魔力と神力の昂りと抑えきれない威圧プレッシャーが溢れる。正に神の怒りを体現した二人


『貴方達の魂を視たわ。……救いようのない、漆黒の澱みです。よって、魂が穢れた者に、業火よりも熱き、浄化の洗礼を与えます。……焼かれなさい、罪深き者たちよ』


 テティアの手のひらから、白銀の炎が放たれた。


 それは『肉体』には一切干渉しない。人の内側に沈殿した『罪』そのものを燃料として燃え上がる、魂の処刑場。


「ギャァアアアアアアアッ!!!」


 子爵も、その妻も、カレンを弄んだ息子たちも使用人達も、内側から噴き出す白銀の炎に包まれた。


 彼らは死ぬことができない。罪が焼かれ尽くすまで、意識は極限まで明晰なまま、己の悪行に魂を削り取られる苦痛を、永劫に味わい続けるのだ。


「……これで、カレンの、そして五百人の無念は晴れるのかしら」


 灰すら残らず消えた子爵の椅子を見つめ、テティアが呟く。


『いいや、お母様。これは始まりに過ぎぬ。根源は、こんな下卑た貴族ではない。……聖教会じゃ』


 エリスは黄金の瞳を、遥か彼方、リレトス聖教法国の本山へと向けた。


 四日間の粛清を終えたサリウス領。


 カレンは、テティアとエリスの献身的な看護と魂の回復術式により、少しずつ、魂を癒し壊れた言葉を取り戻していた。


 彼女が初めてテティアの服の裾を小さな手で掴み、『おかあ……さま』と呼んだ時。


 テティアは彼女を折れそうなほど抱きしめて、声を上げて泣いた。


 この事件を境に、大陸の腐敗した均衡は、音を立てて崩れ始めた。


『これが、人間の残酷さ、非常さかのぉ。余りにも酷いのじゃ。怒りの余り、大陸ごと消し飛ばすところじゃったわい』


「本当ね。相当な数の貴族家を消したけれど、後悔なんて微塵もないわ」


「ドラン帝国も、掃き溜めのような場所でした」


「聖教法国の地下は、今思い出しても血が逆流します」


 五人は、安らかな寝顔を見せる救われた子供たちを見守りながら、静かに語り合った。


 大陸を跨ぐ巨大な闇の組織、闇ギルド、そして彼らと癒着していた数十の貴族家や教団の者は、一夜にして歴史から消滅した。


 生き残った者達は、恐怖に震えながら『女神の浄化の炎に、悪が裁かれた』と語り継いだが、その女神の姿を明確に覚えている者は一人もいなかった。


 建物ごと消失したアジト。構成員全員が消滅した屋敷、甘い蜜に酔いしれた貴族、残虐の限りを尽くした教団。


 各国の政府は、この空前絶後の『神隠し』に激震を走らせた。


 だが、救い出された五百名以上の者たちは、サリウス領という新たな聖域で、生を取り戻していた。


 彼らは固く口を閉ざす約束をし、ある者は故郷へ帰り、ある者はこの地に根付くことを選んだ。


 そして、その多くが、慈悲深き『紅堕天使の4姫」の保護を求め、サリウス領はかつてない活気と絆という名の『深い信仰』で満たされていく。


 それは、エリスが望んだ『新しい世界』の、小さな、だが確かな第一歩であった。



いつも読んでくれて嬉しいのじゃ!


これで、二章は最後なのでのう、幕間を経て新章に入るのじゃ!


応援してくれる読者の為に…妾は…

妾は…張り切って頑張るからのう!

(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐


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