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第13話 殲滅

──翌日。


 王都の喧騒から離れた廃倉庫の前。認識阻害の術式を幾重にも纏った五人の前に、三台の大型箱馬車が現れた。


 馬車の厚い木壁には、外に音を漏らさないための防音魔石が埋め込まれている。


 しかし、その術式を突き抜けて五人の耳に届くのは、微かな、だが魂を削るような絶望的な呻き声だった。


 降りてきた六人の男たちが、慣れた手つきで建物の隠し扉の鍵を開けた瞬間、少女の姿をした『絶対者』エリスの指が動いた。


『睡眠誘導――そして、記憶抽出メモリー・エクスポート


 パサリ、と糸の切れた人形のように、男たちが崩れ落ちる。エリスはその無機質な瞳で彼らを見下ろし、一人一人の頭を無慈悲に踏みつけるようにして、その脳内から汚濁に満ちた記憶を直接吸い上げた。


 共有された記憶の断片は、四人の脳内に濁流となって流れ込む。


 そこには大陸全土、草の根まで広がる巨大な闇のネットワーク――『人身売買』『魔力搾取』『非道な実験』が網の目のように映し出されていた。


「ミモラ様……この者たちの処遇は?」


 メアリーが、氷点下の低い声で尋ねる。彼女の持つ剣が、怒りに震えて微かな音を立てていた。


「……生かしておく理由、一点も見つからないわね。エリス?」


 母テティアの問いに、エリスは冷たく微笑んだ。その瞳はエリスと同様の黄金に輝き、神罰の時を告げている。


『死すら生ぬるいが、まずはこの者たちの死体を、奴ら自身のアジトへの「転送門」として利用してやるのじゃ。……行くぞ、お母様たち。大陸の闇は一度滅ぶのじゃ』


 転移した先は、ドラン帝国の地下深く。

湿り気を帯びた空気と、鉄錆、そして腐敗した血の臭いが立ち込める『地下闘技場』だった。


 視界に飛び込んできたのは、無数の牢屋。そこに押し込められた奴隷たちは、ある者は片目を失い、ある者は指を削がれ、人間としての尊厳を無残に剥ぎ取られていた。


「なんて酷いことを……」


 テティアが唇を震わせ、言葉を失う。


 エリスは奥歯を噛み締めながら、周囲に満ちる悲鳴を念話で遮断した。


 そして、怯える奴隷たちの意識に、直接温かな光を流し込む。


『お母様もおばあちゃまたちも、呆けてる場合ではないぞ!まずは彼らをここから出すのじゃ!』


 エリスの鋭い叱咤に、正気を取り戻した四人は、電光石火の速さで牢屋の鍵を破壊していった。


 突如現れた救済者に困惑する奴隷たち。


 だが、エリスが直接魂に『助けに来た』と語りかけると、彼らの瞳に絶望ではない、微かな希望の灯が宿る。


 全員の同意を得るや否や、エリスは大規模式を展開し、百数名の奴隷を安全なサリウス領へと転送した。


『お母様!おばあちゃま!シルビア!メアリー!これは訓練でもあるのじゃ。ここに残った屑どもの記憶を読み、網の目を洗い出すのじゃ!』


 怒りを力に変えた四人は、逃げ惑う運営者たちの記憶を蹂躙するように読み取った。


 エリスはそれらの情報を瞬時に処理し、帝国内に潜伏する関係者すべてに『死の刻印』を施していく。


 そして、闘技場全体を強固な隔絶結界で包囲した。


 エリスが右手を掲げる。


『浄化の洗礼シルバー・パニッシュメント


 刻印された者たちは、反撃の機会すら与えられない。彼らが犯した『罪業カルマ』そのものが発火点となり、内側から白銀の炎が噴き出した。


 それは肉体を焼くのではない。魂に刻まれた『罪業カルマ』を燃料とし、その罪を清算するまで消えることのない業火。


「「「ギャアアアアッ!」」」


 絶叫が結界内に響き渡り、過去の罪を叫び、赦しを請い、壮絶に苦しみ続けて、存在そのものが虚空へと消滅し、冥界に送られていった。


 アジトに保管されていた不正な金貨、宝石、魔法具はすべて、サリウス領の国庫へと転送される。


『この汚れた金は、救った奴隷や子供たちの未来への償い金とするのじゃ。一銭たりとも、この屑どもには残さぬ』


──そこから、粛清の行軍が始まった。


 エリスたちは記憶の糸を辿り、深夜にかけてドラン帝国内に点在する100以上のアジトを壊滅させた。


 一箇所、また一箇所と闇が消えるたび、エリスの瞳には冷徹な光が積もっていった。



――二日目、リレトス聖教法国。


『なんじゃ……これは……。人間とは、ここまで堕ちるものなのか?』


 帝国での惨状を乗り越えたはずの五人が、その光景を前にして吐き気を催した。


 表向きは清貧と慈愛を説く聖教会の司教。その豪華絢爛な邸宅の地下には、世にも凄惨な『悦楽の地下室』が存在していた。


 鎖に繋がれた20名の女性と少年少女。


 両目をえぐられ、四肢を切断され、肉塊のように扱われている者たち。


 部屋の隅に積み上げられた木箱からは、腐敗臭が漂う。


 そこには、『使えなくなった』とされる命が、物のように捨てられていた。


「エリス、早く、早く彼らを!」


 テティアが叫び、必死に治療術を施す。


 だが、肉体は塞がっても、彼らの瞳には光が戻らない。


『酷すぎる……魂が、完全に壊れておる。修復すら拒絶するほどに……』


 四人はエリスから『魂の共鳴回復術式』を学び、必死に彼らの精神を繋ぎ止めた。


 しかし、受けた傷があまりに深く、急激な回復は魂そのものを霧散させかねない。


「……サリウス領で、長い時間をかけて癒しましょう。私が、一生をかけてでも支えます」


 ミモラが静かに誓う。エリスは亡くなった者たちの遺体を、敬意を込めて空間保存術式で回収した。


 その時、エリスの中で何かが弾けた。


(妾の、この世界の生命の写し身を、このような……ゴミ屑のように……)


 怒りの沸点が臨界を超えた。


 幼女の姿が歪み、膨れ上がる。背中から漆黒の二対四翼が展開され、大気を震わせる。


 全身から黒い雷が放たれ、邸宅が揺れる。


 エリスの漆黒の瞳が、真紅の憤怒へと染まり、大陸全土を灰に帰す禁忌術式『滅びの炎』の構築が始まった。


 いち早くエリスの闇落ちに気がついたテティア


「エリスちゃん!ダメ!落ち着きなさい!!」


 テティアが叫びながら、猛烈なプレッシャーを押し除けてエリスの元へ走り寄った。


 そして、その小さな背中を、壊れ物を扱うように、だが力強く抱きしめた。


『お……お、お母様……』


「大丈夫よ、エリスちゃん。ここにいるわ。私たちが、あの子たちを救うのよ。滅ぼすのではなくて、救うために来たのでしょう?」


 エリスは母の胸にしがみつき、声を押し殺して泣いた。


『なんで……なんでじゃ!人間は、同じ人間に、こんな酷いことができるのじゃ!?妾の創ったこの世界のどこで、間違ったのじゃ!?』


 テティアは何も言わず、ただ強く抱きしめ続けた。


 その場にいた全員が、エリスの悲痛な叫びに、己の心も焼かれるような焦燥を覚えた。


 以降、五人の行動から迷いが消えた。


 慈悲を捨てた彼女たちは、熾烈な速度で教団の闇を暴き、粛清を加速させた。


『浄化の洗礼』はより苛烈になり、罪が深い者ほど、白銀の炎は永く、永くその魂を炙り続けた。


 聖教会の階位が高ければ高いほど、その内側から溢れ出す汚濁はひどく、エリスの心は冬の海のように凍りついていった。

いつも読んでくれて嬉しいのじゃ!


今回は、妾も我慢の限界だったのじゃ。妾のかわいい写し身達がこれほどの苦しみを味わっていると思うと、また、闇落ちしそうなのじゃ。

気分を取り直して…


応援してくれる読者の為に…妾は…

妾は…張り切って頑張るからのう!


(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐

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