第9話 絶望と希望の果に…
遮音結界の中、エリスは、静かに世界の真実を語り始めた。
それは、失われた記憶の残渣と共に…
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かつて、愛した者の手によって、彼女はついに終わりを迎える───
全方位から収束する光の奔流。
魂を穿つ一撃は、彼女から女神としての力を残酷に奪い去った。
深淵なる闇の領域は光に侵食され、彼女が育んできた七色の輝きは、すべて光の女神の手元へと吸い込まれていく。
彼女は悟った──。
次の一撃が、永遠の別れを告げる絶縁状になることを。
彼女は強張る体から力を抜き、静かな諦念の中、瞳を閉じた。
「……ああ、それでも。妾は、───のことを……」
放たれたのは、彼女の神格を根源から消去する概念攻撃。
迫りくる虹色の死を、彼女はどこか遠い目で見つめていた。
脳裏をよぎるのは、争いなど知らなかった幼い頃の───の笑い声。愛しさが溢れ、けれどもう二度と触れられない思い出──。
光の奔流が直撃する。
魂が砕け、記憶が白く塗りつぶされていく。
これが、彼女の失わた記憶の残渣───
───彼女の目覚めてからの記憶…
彼女は深い『絶望』から生への執着を失い、すべてを諦め、何も望まない存在として世界の深層を漂っていた。
──どれほどの時が流れただろうか。
凍てついた魂を包み込む柔らかな光が、閉ざされた心に温もりを与え、優しく語りかけてくる。
(あ、た、たかい……)
その温もりに触れるたび、意識は深層から表層へと浮かび上がり、微睡の中を漂う。
自分が何者か──。
なぜここにいるのか──。
去来する『焦燥』と『諦念』。迷走する思考の波に溺れ、彷徨う意識のなかで、彼女は自らに問いかける。
(どうして……私はここにいるの?)
再び、魂を包む温もりが強まった──。
温もりは冷え切った魂を解き放ち、彼女をさらなる覚醒へと導いていく。
(あぁ、この温もりに溺れていたい……)
切なる願いとともに、彼女は温もりへと手を伸ばした。
次第に意識が覚醒し、魂に集まる力が増していく。
(かつて、妾は消滅したはず……)
なぜ自分が生き長らえているのか…
かつて自身を消滅の危機に追い込んだ原因は思い出せない。未だ霧の向こうにある。
(誰が…… 愛する人? ……どうして思い出せないの……)
分かっているのは、愛する者に裏切られたという記憶が、消えない『焦燥』と『諦念』をこの魂に刻まれたこと。
ただそれだけ──。
その想いだけが魂の深奥に刻まれ、今も鋭い痛みとなってジクジクと疼いている。
かつて『闇の女神』であったという自覚はある…
だが、神力の凝集体である神体を失った今、本来の姿を維持するほどの力は残されていなかった。
(世界から溢れる神力を糧に、この傷ついた神体を癒すことはできる……)
だが、どれほど時をかけて力を蓄えようとも、魂に深く刻まれた傷、そして新たに悠久の核に刻まれた『孤独』が癒えることはなかった。
(寂しい……温もりが、欲しい……)
母なる宇宙の記憶に触れるたび、彼女は悟る。
魂が渇望しているのは、満たされた『愛』なのだと。
(寂しい…苦しい…永遠に独りは嫌だ)
世界の中心で『柱』として鎮座しているだけでは、永遠に誰とも交わることはない。
この孤独から抜け出すには、理の檻を飛び出し、自らが世界の内側へと干渉するしかないのだ。
(この寂しさを……焦燥を、温もりという名の揺り籠で包まれるために……)
何かに後押しされるように動き出した彼女は、この世界が誕生してから現在までの記憶が保管されている『世界の記憶』へとアクセスした。そこに答えがあると信じて。
だが、世界の始まりから現在までを辿る作業には、気の遠くなるような時間が必要だった。
(ない、どこにもない……まだ、原始的な命しか生まれていない……)
見つからない、魂が悲鳴をあげる。心には新たな『絶望』が刻み込まれていく。
だが、彼女に寄り添うように、常に何かの温もりを感じるようになった。
不思議と心が軽くなった…
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(……いっそ、消えてしまいたい)
──絶望の淵を彷徨ってから、何億、何十億年という時が過ぎた頃。
彼女に常に寄り添う温もりがあった。だから、魂が擦り切れながらも、わずかな希望の残渣を糧に『世界の記憶』にしがみついてこれた。
そして、彼女の目に、一筋の光が飛び込んできた。
(……あっ、妾の『写し身』が……生まれた)
ついにこの世界に誕生した、女神の写し身たる生命。
それは彼女にとって、望外の喜びに満ちた希望の光だった。そして、寄り添う温もりが強まる。彼女を導くように…
(そうだ……あの写し身として、生まれ変わることができれば……)
物質界に適合する『魂の外装』を手に入れ、受肉して生を授かる。
決意した女神は、自らの依り代となるべき輝きを探し始めた。彼女に寄り添う温もりもさらに強まる。背中を押すように。
──どれほどの時が流れただろうか。
彼女は人の営みを見続けた。温もりとともに…
──希望の星『テルス』
そこには自身の神気を源流とする者たちが、多様な営みを謳歌していた。泥臭くも温かな生活。それを垣間見るたび、女神の胸には慈愛が溢れた。
そして、ついにその瞬間が訪れる。
世界に散らばる微細な波長の中に、女神の神格を受け入れうる『魂の器』が生じたのだ。
それは今にも消え入りそうな、あまりに脆弱で小さな灯火。
だが、孤独の果てに心を失いかけていた彼女には、何物にも代えがたい救いだった。
(あぁ……会いたい…受け入れられなくてもいい…会って話がしたい…)
──魂が惹かれ合う感触
女神は恋焦がれた存在へまみえるべく、はやる心を抑えて座標を特定する。
世界の中心から、衛星軌道上へと時空間跳躍。その姿を隠蔽し、大気圏へと滑り込んだ。
──五つの大陸が一つ『ガリレア大陸』
降り立つ女神の魂は、満天の星の海を泳ぐ流れ星となり、アーク王国の夜空を駆けた。
その強大すぎる神格の影響は、夜空に淡い白色と緋色のオーロラとなって現れ、神秘の夜を荘厳に彩った。
──アーク王国、アーレス公爵邸
地上に瞬く街の灯りは、まるで夜空を写し取ったかのように美しい。
女神は人々の営みに心を躍らせながら、目的の場所へと辿り着く。
(この小さな命の欠片……神気を纏った『魂の殻』。まだ、中身は空っぽ)
『魂の殻』に受精することで『生命』が宿り、赤ん坊へと至る。幼生体を依り代とし、肉体を神気外装として纏えば、元の神体と同等の機能を得られるはずだ。
人の生涯という『理』はすべて学習した…備えあれば憂いなし──
そんな言葉を思い出しながら、彼女は母体となる女性の精神世界へ静かに語りかけた。
闇の女神としての真実。焦燥、諦念、孤独、絶望……そして希望。
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───
語らいの末、女性は慈愛に満ちていた。そして『母』として、女神を受け入れることを承諾した。
「……感謝します。お母様……」
闇の女神の魂は、公爵邸の窓を透過し、豪奢なベッドで眠る女性へと歩み寄る。
そして、彼女はゆっくりと振り返り、これまで寄り添ってくれた温もりに微笑みながら心から感謝した『ありがとう───』と
優しい温もりはゆっくりと彼女から離れて行き、そっと背中を押されたような気がした
──彼女はその想いに従い前に進む。
その体に溶け込むように浸透し、巡る血潮に合わせて力を馴染ませていく。
依り代が女神の力を取り零さぬよう、慈しむように魂の器を作り替え、世界の記憶と自己を紐付けていく。
こうして、神話の主役は一人の新たな生命へと姿を変えた。
誰に知られることもなく、事象の内側へ。
闇の女神は、新たな物語の幕を上げるべく、この世界へ降臨したのである。
いつも読んでくれてありがとうなのじゃ!
とうとう妾の転生前のお母様と出会うまでの記憶をおばあちゃまとお母様とシルビアとメアリーに思考共有して見せたのじゃ!共感してくれて嬉しかったのじゃ!胸がポカポカするのじゃ!
温かい家族を得た妾じゃが、まだ、狙われている身じゃ。家族強化計画発動じゃ!
それじゃぁ、またのう!本編でのう〜
(*^▽^*)/評価⭐してくれると嬉しいのじゃ!
応援も待ってるでのう。




