第6話 新たな力
伝説に謳われる災厄の一端――『魔赤竜』。
(この中で、一人の被害も出さずにあの大質量を捻り潰せるのは、お母様だけなのじゃ。…サクッと、美しく倒してくるのじゃ!)
エリスの絶対的な信頼。それはテティアにとって、どんな神の加護よりも力強い。
彼女の微笑みは、不敵なまでの深さを増した。右手の手の甲にある紋章を袖で隠しつつ、内に眠る膨大な魔力を起動させる。
隣で大剣を肩に掲げ、不敵に笑う母ミモラを見て、テティアとエリスは驚きに目を瞬かせたが、母ミモラを静かな視線で制した。
溶岩のように脈打つ真紅の鱗は、周囲の空気を歪めるほどの高熱を放ち、その黄金の双眸には生けるものすべてを屠るという絶対的な殺意が宿っていた。
絶望が騎士たちの顔を土色に染めたその瞬間、テティアが魔赤竜の前に果敢に踊り出てた。
刹那、テティアの姿が戦場から掻き消えた。
エリスの念話が、精密な術式の構成図をテティアの脳内に投影する。
「さあ……踊りなさい!」
テティアの凛とした声が響き渡り、人智を超えた『神の術式』が発動した。
『守護の檻』、そして『氷獄の序曲』
凛烈な声が響き渡ると同時に、世界はその色彩を塗り替えられた。
まず、馬車と騎士たちを覆うように、物理・魔力を問わずあらゆる干渉を遮断する鉄壁の半透明ドームが瞬時に展開される。
守りを完璧なものとした直後、魔赤竜の足元から周囲百メートルにわたって、禍々しくも美しい『氷の花』が爆発的に咲き誇った。
「グォオォォオオッ!?」
竜が驚愕に咆哮する。
その鱗に触れた氷の花弁は、一瞬にして超高硬度のダイヤモンド・カッターへと変じ、嵐のような乱舞で竜の硬鱗をズタズタに切り刻んだ。
絶対零度の冷気が傷口から侵入し、炎の化身たる巨躯を、本能的な恐怖と痺れが支配する。
動きを止めた竜を見据え、テティアは右手に純白の氷剣を創生した。
身体強化、そして魔力を物理的な防護へと変換する『魔装鎧』を纏う。
彼女の周囲の重力はすでにエリス直伝の術式によって制御下にあり、テティアは一蹴りで天高く、雲を突き抜けるほどの高度まで跳躍した。
「『飛翔豹槍刺』!」
テティアの合図と共に、空そのものが牙を剥く。
上空から降り注いだのは、極大の『雹の槍』。魔力によって密度を限界まで高められた槍は、隕石のごとき破壊力で竜の両翼を地面に縫い付け、空の支配者から自由を奪い去った。
テティアは空中で鮮やかに回転し、流星のごとき速さで急降下する。その華奢な足から放たれた渾身の踵落としが、竜のこめかみを捉えた。
──ズドォォォォォンッ!!!
大地が爆ぜ、魔赤竜の巨躯が地面にめり込み、巨大なクレーターを穿つ。
のたうち回る竜が放った死に物狂いの尾の一撃。森を数百メートルにわたって薙ぎ倒すその破壊を、テティアは指先一つで生み出した氷壁で涼しげに防ぎきった。
彼女は剣を天に掲げ、慈悲のない断罪を宣告する。
「『陽光束線戟』!」
上空に浮遊させていた幾千の氷鏡が、太陽光と大気中の魔力を一点に収束。
それらは極細の、しかし太陽表面を超える超高温の『熱線』として束ねられ、竜の頭上に降り注いだ。
「ギャァアアアアアアアッ!!!」
熱に耐性があるはずの魔赤竜が、己の属性を遥かに凌駕する熱線によって、肉体を内側から焼き焦がされる絶叫を上げる。
「騎士団! 動きを止めたわ、今よ――総攻撃!!」
テティアが結界の一部を解除し、騎士たちの背を叩く。主君の神々しいまでの武勇に魂を射抜かれた騎士たちは、弾かれたように躍り出た。
何故か母ミモラとシルビアが大剣を振りかざし先頭を切って躍り出た……
テティアは、一瞬驚きに固まったが、エリスの念話で直ぐ様再起動を果たした。
「「「うおぉぉおおおおお!!!」」」
士気は爆発し、満身創痍の竜に鋼の刃が次々と叩き込まれる。
「お母様!シルビア!騎士長! 咆哮とブレスが来るわ、結界内へ総員撤退を!」
テティアの鋭い警告。母ミモラを含め騎士団が一糸乱れぬ動きで後退した直後、竜の口内に凝縮された死の光が『獄炎ブレス』となって放たれた。
だが、それはテティアの展開する『隔絶結界』に触れた瞬間、パチンと虚しく弾け飛んだ。
ミモラとシルビア、騎士団が再び竜の前に躍り出て、連撃を繰り返す。
満面の笑みで迎え撃つ母ミモラとシルビア。その卓越した連携攻撃が輝く、それに追随する騎士たちが連撃を浴びせる
テティアは仕上げの術式を静かに、かつ神速で組み上げる。
「逃がしません……『百華氷刺斬』、そして『極冷氷檻』!」
狂い咲く百の花弁が竜を微塵切りにし、間髪入れずに絶対零度の檻がその身を完全に封じ込めた。もはや魔赤竜に、咆哮を上げる力すら残っていない。
「お母様!シルビア!騎士長! 止めを刺します。総員、下がって!」
騎士たちが飛び退いた直後、天が割れた。空一面が紫電に覆われ、巨大な渦を巻く。
「術式――『聖雷滅戟』!」
暗雲の深淵から放たれた極大の雷。それは神の指先のように正確に、氷の檻ごと魔赤竜の命と肉体を綺麗に刈り取った。
……静寂。
あとに残されたのは、真っ白に浄化された大地と、あまりの出来事に言葉を失った人々。
「「「テティア様、ミモラ様、シルビア様、万歳!! エンケラドに、サリウスに栄光あれ!!」」」
生き残った歓喜と、目の当たりにした『新しい主』への心酔が爆発した。二十名の騎士たちは武器を掲げて叫び、メイドたちは涙を流して安堵した。
テティアは静かに着地すると、乱れた髪を指で整え、何事もなかったかのように微笑んで鎧を解き、メアリーのもとへ歩み寄った。
(……お見事じゃ、お母様。なかなかの暴れっぷりであったな。これなら、どこへ行っても安心なのじゃ)
クーファンの中から届くエリスの温かい賞賛。
テティアは頬を赤らめ、はにかむように目を細めた。その姿は、先ほどまで竜を屠っていた破壊の女神とは程遠い、慈愛に満ちた一人の母親の姿であった。
母ミモラとシルビアは満面の笑みでハイタッチをしていた。それに気付いたテティアは慌てて、二人に迫った
淑女の鑑と褒め称えられたお母様が、満面の笑みで大剣を振り回し、なおかつ、騎士よりも練度が高い姿を見て黙ってはいられなかったテティア
「お母様!これは一体どういう事ですか!?」
「あらあら、まあまあ」
ミモラは頬に手を当て、反対の手には、大剣を杖代わりにしている
「あらあら、まあまあじゃありません!突然大剣を振りかざして、シルビアと嬉しそうに突撃してくるなんて!肝が冷えましたわ!」
「ウフフ♪これがエンケラド流というものですわ」
「そうです。お嬢様」
テティアは、初めて母ミモラと専属侍女のシルビアが武闘派である事を知ることになった。
その後、騎士達から過去の二人の武勇伝を聞き戦慄したテティアとエリスの母娘であった。
いつも読んでくれて難有いのじゃ!
お母様の暴れっぷりどうじゃった?妾の加護が良い働きをしておるのう。しかし、おばあちゃまと、シルビアが嬉々として参戦して来るとはのう…今後も楽しみじゃな!
また、本編でのぅ〜またのぉ〜評価⭐も待っておるのじゃ〜(*´∀`*)/




