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第1話 安息地

 「テティアお嬢様、どうぞこちらへ」


 老執事が恭しく馬車の扉を開け、足元に踏み台を置く。


 テティアはその差し出された手を取り、凛とした足取りで新天地へと降り立った。


 御者へ感謝の言葉をかけ、メアリーからエリスの入ったクーファンを受け取ると、三人は重厚な正面玄関をくぐった。


 玄関ホールには、エンケラド辺境伯家の家族が並び、一行を待ち構えていた。


 「ようこそ、歓迎するわ。テティア」


 穏やかに微笑むのは、当主夫人のセイラ。陽光に踊る赤い髪と、慈愛に満ちた金色の瞳。


「主人は仕事、長男と末の娘は貴族院で不在だけど、後で紹介するわね。……お帰りなさい、私たちの家へ」


 一列に並んだ侍従やメイドたちからも「おかえりなさいませ」と温かい声が飛ぶ。拒絶される不安を抱えていたテティアの胸に、安堵が広がった。


(第一印象が大事よね!)


 テティアは元公爵夫人の矜持を胸に、優雅な所作でカーテシーを決めた。


「セイラ叔母様、この度は亡命へのご助力、心より感謝申し上げます。準備が整うまで、何卒よろしくお願い致しますわ」


「いいのよ、貴女は私の大切な姪なのですから。何かあればいつでも頼って頂戴」


 叔母に促され、一同は応接室へと移動した。


 ソファに腰を下ろしたセイラが、興味深げにクーファンを覗き込む。


「……早速だけど、テティア。その子を見せてもらえるかしら」


 テティアは緊張で身を強張らせながら、エリスを抱き上げた。


 産着から覗くのは、艶やかな黒髪と、底知れぬ輝きを湛えた黒い瞳。


「まあ、本当に真っ黒なのね」


 セイラの言葉に、テティアは無意識に腕を強めた。だが、返ってきたのは侮蔑ではなく、感嘆の声だった。


「安心なさい。この国では、髪や目の色が暗いだけで異端扱いなんてされないわ。ダークグレーやダークブラウンの人だって大勢いるもの。色を忌避するのは、聖教を国教とする一部の国だけの、歪んだ教えよ。お姉様ミモラが貴女をここに送ったのも、そのためですもの」


 テティアとメアリーは目を見合わせ、心の底から安堵の溜息を漏らした。この国こそが、彼女たちの待ち望んだ安息の地だったのだ。


~~~~~~


 その後、新しい部屋でエリスの世話をしながら、メアリーは一人、鬱々と考え込んでいた。


(う~む。メアリーはどうしてこんなに思い詰めておるのじゃ?)


 エリスは、侍女の心の奥底に渦巻く黒い霧を察知し、『思考読解』の術式を展開した。


 見えてきたのは、メアリーの情熱的な記憶。


 孤児院で闇奴隷商に攫われた幼き日のメアリー。


 そこへ颯爽と現れ、組織を壊滅させ、自分を救い出してくれたのが――まだ少女だったテティアだった。


 あの日、自分を抱き寄せたテティアの凛々しさに、メアリーは性別を超えた恋に落ちたのだ。


 以来、今日まで忠実に仕えてきた。だが、エリスが生まれてからというもの、テティアの愛の全ては赤子へと向けられている。


(私は……エリス様に、嫉妬しているの……? なんて醜いのかしら、私は……!)


 必死に感情を押し殺し、自己嫌悪の淵に沈むメアリー。


(そうか……。妾は色恋の機微はまだわからぬが、この忠誠心には報いてやりたいのぉ。……ふむ、ならば心の枷を少し外して、素直にさせてやるかのぉ)


 エリスは小さな手をメアリーの額の方へ向け、神聖な魔力を編み上げた。


『メアリーよ。自分に嘘をつくのは止めるのじゃ。もっと正直に、真っ直ぐに――術式展開!』

いつも読んでくれて難有いのじゃ!


お母様の心にあった不安も和らいだようで何よりじゃ!なのに、メアリーの心はお母様一色なのでのぉ、何故か苦しんでおる。お母様が大好きなら、我慢せんでええのにのぅ…なら心の枷を解き放ってやったのじゃ!妾は偉い!皆も褒めるのじゃ!


応援してくれる読者の為に…妾は…

妾は…張り切って頑張るからのう!

(*´ω`*)/応援これからも頼むのじゃ⭐

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