第12話 動き出す世界
その日、ガレリア大陸のみならず、世界中の国々が『絶望』をその眼に焼き付けた。
突如として上空に現れた太陽より眩い閃光。それは冥王、精霊王、熾天使といった、この世の頂点に君臨する者たちを遥かに凌駕する魔力。
直撃すれば星そのものが砕け散ったであろうエネルギーの塊を、何者かが成層圏で無造作に『破棄』したことで生じた、空前絶後の魔力災害である。
天界、精霊界、魔界、冥界――あらゆる世界の強者たちが、己の生命を脅かす未知的脅威に震撼した。一方で、『星の管理者』が不在だったことで、『星の管理者』が現れたのかとも考えた。
しかし、その魔力はあまりに高密度かつ純粋だったがゆえに、爆発の瞬間にすべての痕跡を焼き尽くし、消失した。
残されたのは、原因不明の天変地異と、全大陸を覆う底知れぬ恐怖だけ。『星の管理者』も現れ無かった。
後の歴史書には、リレトス聖教法国を中心に甚大な被害を及ぼした『空の崩落』として刻まれる。
聖教会はこれを『悪神の復活』と位置づけ、一年前のオーロラ事件を前兆とした災厄であると喧伝した。
世界は、正体不明の『悪神』の影に怯え、狂乱の渦へと突き落とされたのである。
しかし――。
この『神の八つ当たり』の真実を知る者は、大陸の片隅にいる二人の男だけだった。
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「……ベスタ(アーレス公爵)。あいつの、テティアの護衛は一体何者だったのだ」
数日後。密かに顔を合わせたゾル(カリスト侯爵)とベスタは、憔悴しきった顔で互いにグラスを傾けていた。
「……知るか。こちらが聞きたい。危うく、私の領地が歴史から消え失せる所だったのだぞ」
「あれは間違いなく人外だ。聖教会が言うように、悪神に相違ない」
「だとしたら、あの子ども……テティアの産んだ子が、悪神だというのか?」
二人は、自分たちがしでかした事の重大さに、改めて背筋を凍らせた。
「それ以外に考えられん。結婚式の当日のオーロラ。そして妊娠中、テティアは四六時中お腹に向かって『私の女神様』と語りかけていた」
「………………」
「それに、あの『何か』は、私の前でテティアのことを『母』と言い間違えおった。……もはや、確定だろうな」
「……侯爵家でもそうだった」
男二人は、同時に深い溜息を吐き、酒を煽った。
「神が子や孫ならば、世界を獲れるのではないか? 気まぐれ一つで大陸を消し去ろうとする力だぞ」
「冗談ではない。悪神は悪神だ。肩入れして、諸共消されてたまるか」
「……あやつは『聖教会を滅ぼす』と言っていた。近い未来、間違いなくそうなるだろう」
「ああ……。あの大聖堂も、一瞬で煤になるのだろうな……」
「「……このことは、墓場まで持っていこう」」
立場も家格も捨て、ただ一人の人間として「触れてはならない神域」に触れてしまった後悔。
公侯爵という地位にありながら、自分たちの矮小さを痛感した二人の男は、ただただ震える手で、苦い酒を喉に流し込み続けるしかなかった。
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