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第5話 襲撃と最凶親子

 茜色に染まる空が夜の帳に飲まれようとする頃、馬車は領境の峠の入り口へと差し掛かった。


 その瞬間、三人は同時に不穏な魔力の揺らぎを感知した。


(監視者は後方に三人と離れた位置に一人……距離に変化なし。だが、前方に十三人の潜伏者がいるわね)


 テティアは探索魔法で冷徹に戦況を把握する。


 一方、エリスはさらに高次の『俯瞰術式』を展開し、遥か後方の街まで意識を飛ばしていた。


(……ふむ。先ほどの神官たちはカリスト侯爵家へ向かったのじゃ。お母様の父君が言っていた通り、聖教会の動きは早いのう)


 エリスは、まだ不自由な赤子の体で力の最適化を試みていた。空間把握、魔力回復、そして術式の具現化。


(……こうか? おっ、神気に近い感覚じゃな。念じるだけでことわりを上書きできるとは、お母様の手本があって良かったのじゃ。なかなかに便利よ。……おっと、来たな)


 突如として、大気を圧するほどの濃密な殺気が街道を埋め尽くした。


「止まれッ!」


 地を這うような野太い声が響くと同時に、漆黒の装束に身を包んだ武装集団が路を塞いだ。


 御者が慌てて手綱を引く。嘶く馬。急停車した凄まじい衝撃で、豪華な車内が大きく傾いた。


「きゃっ!?」


 衝撃でメアリーが前のめりに倒れ、クーファンが床を滑る。


「メアリー、大丈夫!? エリスちゃんは!?」


「あう〜♡〜〜、きゃっきゃっ!」


(…!?喜んでいる場合じゃないのじゃ!御者が危ない!『空間隔絶術式』発動!)


 馬車に放たれた魔法は術式によって弾かれた。御者に斬りかかった斬撃をも跳ね返した。


(ふぅ〜、危機一髪じゃったわい!?妾だけを狙ってるというわけじゃないようじゃの!なら迷う必要は無さそうじゃ!!)


 心配するテティアを余所に、エリスは戦いを楽しんでいるかのような笑顔だ。


(……お母様とメアリー、そして妾を狙う不届き者どもめ。姿形も残さぬわ!消し炭にしてくれよう ……ぬっ!? お母様、単身で飛び出すのか!?危険なことは…………!?)


 エリスの驚きを他所に、テティアは魔法触媒のロッドを手に馬車を飛び出した。


「数、十三……。殺す覚悟で来たのなら、焼かれる覚悟もできているわね!」


(お母様!空間隔絶結界を張ってるのじゃ!内側からの攻撃も跳ね返してしまうのじゃ!?)


 母親の突然の挙動に冷や汗を掻きつつ、冷静に対応した(妾偉いのじゃ♪)


 テティアが『火炎壁ファイアウォール』の術式を構築した瞬間――。


(お母様の魔力を触媒に、妾の術式を転写・隠蔽……よし! 『魔力吸収融合』『障壁無効化』、そして――!)


「――えっ!? 魔力が消えた?」


 術が発動する直前、テティアの魔力が一瞬にしてエリスの方へと吸い込まれた。


 驚いて馬車の中へ飛び退いたテティアが見たのは、片手を虚空に掲げ、二人分の魔力を極限まで練り上げた我が子の姿だった。


(……この子、既に自我があるのね)


 エリスの瞳に宿る神々しいまでの魔光。彼女が脳内で略式展開を宣言する。


煉獄炎蓮華れんごくえんれんか、座標指定』――!!


 襲撃者たちが馬車に斬りかかろうとした瞬間、足元に巨大な術式陣が展開した。


 爆発的な発光。業火は白きはすの花をいろどり、その蕾から溢れ出すピンク色の炎は、鉄さえ瞬時に蒸発させる超高温の熱波となった。


 空間隔絶結界に弾き飛ばされた襲撃者たちは、悲鳴を上げる暇もなく、白い炎の花弁に包まれて跡形もなく消滅した。


 加護による感覚共有で、テティアは戦慄した。


(倒したのは十五人……ニ人足りないわ。……いいえ、エリスが逃げた監視者に何かするのね?………へぇ〜こうやって、干渉するのね…凄いわ!)


 エリスは逃走する二人の監視者を見据え、冷酷に術を放つ。


(『座標指定』『魂魄縛鎖こんぱくばくさ』。……逃さぬぞ。そのまま主人へ恐怖を届ける『傀儡』となるが良いのじゃ!)


 監視者の背に吸い込まれた術式陣。


 彼らは一瞬の悪寒を感じたが、それが魂を縛る呪いであるとは気づかず、ただ死に物狂いで馬を走らせるのだった。

ここまで読んでくれてありがたいのじゃ!

よかったらのぅ評価もお願いしたいのじゃ⭐

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