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06

夕食は、廃プラスチックを燃料にした青い炎で焼いた、犬の肉片だった。


肉はゴムのように硬く、鉄の味と、剃り残した毛が焼けた臭いがした。陽太郎は口の中でそれを転がし、この犬が花火のように爆散した光景を脳裏から追い出しながら、無理やり飲み込んだ。


肝臓レバーも食え」ザルがナイフの先で真っ黒な塊を押しやってきた。「ビタミンAと重金属が豊富だ。目にいいぞ」


陽太郎はその塊を見つめた。


「テメェの目は死んだ魚みてえに濁ってる。こんな暗がりで視力が落ちたら、それは死刑宣告と同じだ」


陽太郎は歯を食いしばり、目を閉じて肝臓を丸呑みした。強烈な苦味が脳天を突き抜ける。


【システム】

新規スキル:[鉛の胃袋 (Lead Stomach) - Lv.1]

説明:低レベルの有害廃棄物を即死せずに消化可能。毒耐性+2%。

副作用:永続的な口臭。


「最高だな」陽太郎は汚い水を一口飲んで、そのおぞましい味を流し込んだ。「俺は着実に立派なゴキブリへと進化してるよ」


……


スラムの闇を、まだらな懐中電灯の光が切り裂いた。一人の男が彼らの焚き火に近づいてきた。


前世紀の遺物のようなボロボロのスーツを着て、襟元は垢で黒ずんでいる。手にはワニ革――あるいはワニに似た何かの怪物の革――のアタッシュケース。頬はこけ、末期の肝臓病患者のように肌が黄色い。


「ハンマー使いのザル、それに……」彼は陽太郎を横目で見て、軽蔑の笑みを浮かべた。「……ペットか」


ザルは立ち上がらなかったが、手は既にハンマーの柄にあった。「何の用だ、スキニー・ボブ。俺は生命保険には入らねえぞ」


ボブは『クックッ』と笑った。空っぽの肺が擦れ合うような乾いた音だった。


仕事ジョブがある。特殊回収任務だ。エリアは地下鉄9号線」


「9号線は酸の海だ」ザルは背を向けて肉を焼き続けた。「他を当たれ」


「報酬はB級エネルギーパック数個。それと……」ボブは声を潜め、アタッシュケースを開いた。中には鮮紅色の錠剤シートが輝いていた。「……軍用アドレナリン、2シートだ」


ザルの目がピクリと動いた。陽太郎は彼女の呼吸が変わったことに気づいた。それはジャンキーの渇望――いや、薬物を求めて悲鳴を上げる肉体の反応だった。


「軍用アドレナリンだと?」ザルが囁く。「本物か?」


「機甲軍団の倉庫からの横流し品だ。48時間の覚醒と、腕を切り落とされても痛みを感じない鎮痛作用を保証する」


ザルはしばし沈黙した。そして勢いよく立ち上がり、焚き火を蹴り消した。


「乗った。いつ出る?」


「今すぐだ。クライアントがお待ちだ」


……


陽太郎は不安に押しつぶされそうになりながら、後ろをついていった。「おい、地下鉄だって? それってダンジョンだろ? たった二人で……」


「四人だ」ボブが言い、スラムの端に停めてあったボロボロのトラックへ案内した。


荷台には、二人の先客がいた。


一人は、ミイラのように頭から足先まで包帯を巻いた痩せ男だ。目と、裂けたような口だけが見えている。彼は絶えず小刻みに震えながら、空の注射器を弄んでいた。


「こいつはニードル(針)」ボブが紹介した。「回復役ヒーラーだ」


「医者なのか?」陽太郎が聞いた。


「注射屋だ」ザルが荷台に乗り込みながら言った。「テメェが死にかけた時、心臓に直接モルヒネと興奮剤をぶち込んで無理やり走らせる役だ。聖なる癒やしなんて期待するなよ」


もう一人は、太ももまで垂れ下がるほどの太鼓腹をした巨漢だった。だが、その腹は脂肪ではない。透明な皮膚の下で、緑色に発光する液体がたぷたぷと揺れている。


「そしてこっちがブーマー(爆弾魔)」ボブが男の腹を叩いた。「魔法使い(メイジ)だ」


「魔法使い?」陽太郎は眉をひそめた。


「腹の中に爆発性のスライムを飼ってて、共生してるんだ」ボブはさも日常茶飯事のように説明した。「必要な時、爆発する酸をゲロとして吐き出す。射程は5メートル。撃つたびに本人も10%の自傷ダメージを受ける」


ブーマーが『ゲプッ』とげっぷをした。口から緑色の煙が漏れ、トラックの天井を焦がした。


「悪夢みたいなパーティーだな」陽太郎は頭を抱え、隅っこに縮こまった。「戦闘狂のジャンキー、ヤク中の偽医者、歩く自爆兵器、そしてゴミ拾い。このパーティーの生存率はマイナス無限大だろ」


……


トラックは巨大な穴の前で停まった。地下鉄9号線の入り口だ。


エスカレーターは錆に侵食され、ギザギザの刃の山と化している。だが、最も恐ろしいのは壁だった。


コンクリートが肉化している。赤黒い肉苔がタイルを覆い、生物的な脈動を繰り返している。垂れ下がった電線は、まるで飛び出した小腸のようだ。


「目標:地下3階でスタックした404号車両のブラックボックス回収」ボブはそう言うと、運転席のドアを閉めた。「俺はここで待つ。ブツを持ってくる前に死ぬなよ」


彼らは降りた。地下の空気は濃密で、蒸し暑く、空っぽの胃袋のような臭いがした。


「行くぞ」ザルが先頭に立ち、ハンマーを構えた。「ニードル、中衛。ブーマー、俺の後ろ。ゴミ虫、殿しんがりだ」


……


彼らは深く潜っていった。足音が響き、壁の肉が『グチュ、グチュ』と蠕動する音と混ざり合う。


「このダンジョン……」陽太郎はヌルヌルした壁に触れないようにしながら囁いた。「まるで巨大な怪物の大腸の中を歩いてるみたいだ。レベルデザインが病的すぎる」


「黙れ」ニードルが黄色い液体の入った注射器を構え、震える声で言った。「うるさい。奴らに聞かれる」


「奴らって?」


突然、ブーマーが立ち止まった。彼は腹を押さえ、顔面を蒼白にした。


「お……俺、吐きそうだ」彼は呻いた。


「今吐くんじゃねえ、バカ!」ザルが振り返って怒鳴った。「弾薬を節約しろ!」


「ちが……弾じゃなくて……」ブーマーが前屈みになり、盛大に嘔吐しようとしたその時だった。


ブーマーの足元の地面が、ぱっくりと開いた。


機械的な落とし穴ではない。


コンクリートの床が、折れた鉄筋を牙に見立てた巨大な口となって裂けたのだ。床全体に擬態した、超巨大なミミックだ。


『バクンッ!』


スローモーションも、「助けてくれ」という悲鳴もなかった。


巨漢のブーマーが、その穴へと垂直に落下した。コンクリートの口が勢いよく閉じる。骨が砕け、肉が潰れる音。そして、分厚いコンクリートの下から、くぐもった『ボンッ』という爆発音が響いた。腹の中のスライムが、圧力に耐えきれずに誘爆したのだ。


床がわずかに揺れ、隙間から緑色の煙が『プシュッ』と漏れた。そして、静寂。


パーティーの魔法使いブーマーは、一発も撃つことなく、床に捕食されて死んだ。


陽太郎は凍りついた。顔から血の気が引いていく。


「あいつ……死んだのか?」


ザルは仲間を飲み込んだ床を見つめた。叫びもしない。ただ、不快そうに舌打ちをしただけだ。


「火力を失ったな」彼女はライターを落とした程度のことのように言った。「ニードル、興奮剤はあと何本ある?」


「さ、三本……」ニードルはガタガタと震え、床を見つめたまま、安全だと思われるタイルへケンケンで移動した。


「オーケー。プランBだ」ザルはハンマーを前に向けた。「走るぞ。床が開いたら壁に跳べ。壁が開いたら、怪物の口に飛び込んで喉に詰まることを祈れ」


「どんな作戦だよそれ!」陽太郎は叫んだ。パニックで声が裏返る。


「死にかけの奴の作戦だ」


ザルが走り出した。


陽太郎も弾かれたように追った。足元を見る勇気はない。駅全体が目を覚まそうとしている気配を感じた。肉の壁が収縮を始め、天井から酸の雫が滴り落ちる。


【システム通知】

環境検知:生きた胃袋 (Living Stomach)

状態:消化プロセス開始


「クソ脚本家めえええ!」陽太郎は涙目で走りながら絶叫した。「運営にクレーム入れてやる! この難易度は理不尽だ!」


だが、彼の声を聞く者はいない。トンネルの奥底から、残忍な神の空腹を告げるような、轟音のような唸り声が響いてくるだけだった。

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