勇者1号
真実へと
荒野は、想像以上に酷かった。
地面は焼け焦げ、木は一本も生えていない。
所々に死体が転がっていた。
兵士の死体、民間人の死体。
腐敗して、悪臭を放っている。
俺は吐き気を堪えながら歩き続けた。
これが、戦争の真実だ。
これが、勇者が作り出した世界だ。
やがて、遠くに城が見えてきた。
黒い城。尖塔が天を突き、周囲には高い壁が聳えている。
魔王城。
いや、違う。
あれは、ただの城だ。
人間が住む、普通の城。
俺は城に向かって歩き続けた。
### 7
城の門の前に、兵士たちが立っていた。
彼らは俺を見ると、剣を構えた。
「勇者が来たぞ!」
「迎撃しろ!」
だが、俺は剣を鞘に収めたまま、前に進んだ。
「戦わない。話がしたい」
「何?」
兵士たちは戸惑った。
「魔王に会わせてくれ」
「馬鹿な……お前は勇者だぞ。魔王を殺しに来たんだろう」
「違う。真実を知りに来た」
兵士たちは顔を見合わせた。
やがて、一人の兵士が城の中へ走っていった。
しばらくして、戻ってきた。
「魔王様が、お前に会うと仰っている」
「本当か?」
「ああ。武器を置いて、ついて来い」
俺は聖剣を地面に置いた。
もう、必要ない。
兵士に導かれ、俺は城の中へ入った。
### 8
城の内部は、予想外に普通だった。
豪華な装飾も、不気味な雰囲気もない。
ただの、城だった。
廊下を歩きながら、兵士に聞いた。
「なあ、魔王ってどんな人なんだ?」
兵士は苦笑した。
「魔王なんていないよ」
「え?」
「あそこにいるのは、ただの老人だ。この国の象徴みたいなものさ」
「じゃあ、なんで魔王と呼ばれてるんだ?」
「あんたたちがそう呼んでるからだよ」
兵士は肩をすくめた。
「戦争ってのは、敵に名前をつけないと成立しないからね」
俺は言葉を失った。
やがて、大きな扉の前にたどり着いた。
「ここだ。入れ」
兵士は扉を開けた。
俺は深呼吸をして、中へ入った。
### 9
部屋の奥に、一人の老人がいた。
いや、老人というより、病人といったほうが正しいかもしれない。
彼はベッドに横たわり、無数の管に繋がれていた。
機械が規則的な音を立てている。
生命維持装置だ。
「よく来たな、勇者」
老人が言った。その声は弱々しかった。
「お前は……」
俺は老人の顔を見て、凍りついた。
その顔は、俺の顔だった。
いや、違う。
俺が年を取ったら、こんな顔になるのかもしれない。
「驚いたか?無理もない。私とお前は、同じ存在だからな」
「同じ……?」
「ああ。私は勇者1号。お前の前任者だ」
勇者1号
「座れ。話をしよう」
老人は隣の椅子を指した。
俺は座った。
「お前は、真実を知りたいのだろう?」
「ああ」
「なら、全て話してやる。この茶番の全てを」
老人は咳き込んだ。
機械の音が一瞬乱れた。
「まず、お前が知るべきことは……この戦争は、茶番だということだ」




