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勇者2号  作者: ドネルケバブ佐藤


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5/13

人間として

次の話はもしかしたら読みたくない方があるかもしれません。

# 4


三日後、俺たちは森の中で魔獣の群れと遭遇した。


巨大な狼のような姿をした魔獣たちが、唸り声を上げながら俺たちを囲んだ。


「包囲されてる……十体以上だ」


ガルドが盾を構えた。


「魔法で援護します」


セリアが杖を構えた。


戦闘が始まった。


俺は聖剣を振るい、魔獣に斬りかかった。一体の腹を切り裂くと、黒い血が噴き出す。


だが、次の瞬間、その血が赤く見えた。


「くっ……」


俺は目を閉じ、頭を振った。また幻覚が始まった。


薬を飲んでいるのに、効果が薄れている。


背後から魔獣が飛びかかってきた。エレナの矢がその目を射抜き、俺を救った。


「ルーク、集中して!」


「わかってる!」


俺は再び剣を振るった。


だが、魔獣を斬るたび、その鳴き声が人間の叫び声に聞こえる。


耳を塞ぎたかったが、戦闘中にそんなことはできない。


ただ、剣を振るい続けた。


やがて、全ての魔獣が倒れた。


俺は膝をついた。息が上がっている。体は無事だが、心が疲弊していた。


「ルーク、大丈夫か?」


リオンが駆け寄ってきた。


「ああ……少し、疲れた」


「無理するな。休憩しよう」


リオンは俺の肩を支えてくれた。


その手は、いつもより強く震えていた。


### 5


休憩中、リオンは俺に薬を差し出した。


「もう一口飲め。効果が薄れてきてるみたいだ」


「わかった」


俺は薬を飲んだ。


すぐに世界が輝き始めた。さっきまでの幻覚が嘘のように消える。


「リオン」


「ん?」


「この薬、何が入ってるんだ?」


リオンの表情が一瞬強張った。


「ただの強壮剤だよ。勇者の体を維持するための」


「そうか」


俺は薬瓶を見つめた。


小さな青い瓶。これが俺を支えている。


だが、同時に、何か大切なものを奪っているような気もした。


「ルーク、変なこと考えるなよ」


リオンが心配そうに言った。


「考えてないさ。ただ、最近調子が悪くて」


「なら薬を増やそう。朝昼晩、三回飲むんだ」


「そんなに?」


「ああ。お前は強大な力を使ってる。それだけ体への負担も大きいんだ」


リオンは俺の手を握った。


「頼む、ルーク。俺の言うことを聞いてくれ。お前を……失いたくないんだ」


その声は切実だった。


まるで、何かに怯えているような。


「わかった。お前の言う通りにする」


「ありがとう」


リオンはホッとした表情を見せた。


だが、その目の奥には、深い絶望が見えた気がした。


### 6


北の砦に到着したのは、その三日後だった。


砦は巨大な石造りの要塞で、周囲には深い堀が掘られ、壁には無数の兵士が配置されていた。


「勇者殿、お待ちしておりました」


砦の司令官が出迎えてくれた。白い口髭を蓄えた、厳格そうな老将軍だった。


「明日、魔王軍との大規模戦闘が予定されています。勇者殿には最前線で戦っていただきたい」


「わかりました」


俺は頷いた。


「敵の数は?」


「およそ500。大部隊です」


500。今までで最大の戦闘になる。


「大丈夫です。俺が全て倒します」


俺は自信を持って言った。薬のおかげで、頭は冴えている。恐怖も迷いもない。


「頼もしい。では、明朝、出撃していただきます」


### 7


その夜、俺は一人で砦の壁に立っていた。


遠くに見える平原。明日、あそこで戦いが起きる。


「ルーク」


背後から声がした。リオンだった。


「眠れないのか?」


「ああ、少しな」


リオンが隣に立った。二人で、暗闇の平原を見つめる。


「なあ、リオン」


「ん?」


「俺たちは正しいことをしてるよな」


リオンは答えなかった。


「魔物を倒して、世界を救う。それが勇者の使命だ」


「……ああ」


リオンの声は小さかった。


「でも、時々思うんだ。もし、もし全部間違ってたらって」


「間違ってなんかいない」


リオンは強い口調で言った。


「お前は正しい。お前は勇者だ。それだけは間違いない」


「そうか」


俺は深呼吸をした。


「リオン、お前は俺の親友だよな」


「当たり前だろ」


「なら、教えてくれ。俺が知るべき真実があるなら」


リオンは長い沈黙の後、口を開いた。


「真実は……お前は世界を救う勇者で魔王を倒せば世界は平和になる...それだけだ」


「ルーク……」


リオンは俺の方を向いた。その目には涙が浮かんでいた。


「お前は、幸せか?今の生活が、幸せか?」


「わからない」


俺は正直に答えた。


「薬を飲んでる時は幸せだ。世界が美しく見える。でも、薬が切れると、全てが恐ろしくなる」


「なら、薬を飲み続けろ。それがお前のためだ」


「でも……」


「頼むから、それ以上考えないでくれ」


リオンは俺の肩を掴んだ。


「俺は、お前に人間として生きてほしいんだ」


「人間として?」


その言葉の意味がわからなかった。


だが、リオンの目は本気だった。


「リオン、お前……何を言ってるんだ」


「いや、なんでもない。忘れてくれ」


リオンは俺から離れた。


「おやすみ、ルーク。明日に備えて休め」


「ああ……」


リオンは砦の中へ消えていった。


俺は一人、夜空を見上げた。


星は冷たく光っている。

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