疑念
最終回まで読んだら最悪な気分になる可能性があります。
### 6
翌日、俺たちは東の村に到着した。
村は小さく、のどかな場所だった。畑が広がり、家々が並び、人々が穏やかに暮らしている。
「勇者様がいらっしゃった!」
村人たちが俺たちを囲んだ。みんな笑顔で、歓迎してくれる。
「ようこそ、勇者様」
村長らしき老人が前に出てきた。
「この村は先日、魔物の襲撃を受けましてね。多くの者が傷つき、家も焼かれました。勇者様が来てくださって、本当に心強いです」
「魔物の襲撃?」
「ええ、オークの群れです。夜中に突然現れて、村を荒らしていきました」
オーク。ゴブリンより大きく、凶暴な魔物だ。
「今はどこに?」
「北の森に潜んでいるようです。このままでは、また襲ってくるかもしれません」
「わかりました。俺たちが討伐します」
俺は力強く頷いた。村人たちを守る。それが勇者の役目だ。
「ありがとうございます、勇者様」
村長は深々と頭を下げた。
### 7
北の森は薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。木々が密集し、太陽の光がほとんど届かない。
「気をつけろ、みんな。オークは知能が高い。罠を仕掛けてくるかもしれない」
リオンが警戒しながら言った。
俺たちは慎重に森を進んだ。足元に注意し、周囲を警戒する。
やがて、開けた場所に出た。そこには、数体のオークがいた。
巨大な体、筋肉質の腕、鋭い牙。恐ろしい姿だ。
「いたぞ」
ガルドが盾を構えた。
オークたちは俺たちに気づき、雄叫びを上げた。
「グオオオオオ!」
その声は、まるで人間の雄たけびのようにも聞こえた。
「行くぞ、みんな」
俺は聖剣を構えて突撃した。
オークが斧を振り下ろしてきた。俺はそれを剣で受け止め、弾き返す。そして、反撃。剣がオークの腹に突き刺さった。
「グアアアア!」
オークが倒れた。だが、その顔を見た瞬間、俺は凍りついた。
オークの顔が、一瞬、人間の顔に見えたのだ。
苦痛に歪んだ、中年男性の顔。
「ルーク、後ろ!」
リオンの声で我に返った。振り向くと、別のオークが襲いかかってきた。
俺は反射的に剣を振るった。オークの首が飛んだ。
血が飛び散る。その血は、赤かった。
いや、魔物の血は黒いはずだ。なぜ赤い?
「ルーク、しっかりしろ!」
リオンが俺の腕を掴んだ。
「あ、ああ……」
俺は頭を振った。何を考えているんだ。魔物は魔物。人間じゃない。
戦闘は続いた。エレナの矢、セリアの魔法、ガルドの盾、マルコの回復。みんなの連携で、次々とオークが倒れていく。
そして最後の一体。
俺は聖剣を振り上げた。
だが、その瞬間、オークが叫んだ。
「たすけ……て……」
その声は、確かに人間の言葉だった。
俺は動けなくなった。
「ルーク!」
リオンが俺を突き飛ばした。オークの斧が、俺がいた場所を通過する。
リオンは素早くナイフを抜き、オークの喉を切り裂いた。
オークは倒れ、動かなくなった。
「大丈夫か、ルーク」
リオンが心配そうに俺を見た。
「ああ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」
「疲れてるんだ。無理するな」
リオンは優しく言った。
だが、その目は恐怖に満ちていた。
### 8
村に戻ると、村人たちは大喜びだった。
「やりましたね、勇者様!」
「これで安心して暮らせます!」
みんなが俺を讃える。俺は笑顔を作ったが、心は重かった。
その夜、俺は一人で考え込んでいた。
あの声は何だったのか。オークが「助けて」と言った気がした。そして、あの顔。人間の顔。
いや、幻覚だ。疲れているんだ。
「ルーク」
リオンが部屋に入ってきた。
「ああ、リオン」
「今日の戦い、お疲れ様」
リオンは俺の隣に座った。
「なあ、リオン」
「ん?」
「俺、さっき変なもの見た気がするんだ」
「変なもの?」
「オークが、人間の顔をしてた気がして……」
リオンの表情が強張った。
「気のせいだよ」
「でも……」
「ルーク、お前は疲れてるんだ。魔物は魔物。人間じゃない。そんなこと、あるわけないだろ」
リオンは強い口調で言った。
「そう、だよな」
「ああ。今日はもう寝ろ。明日も旅は続くんだから」
リオンは立ち上がった。
「リオン」
「なに?」
「お前、何か隠してないか?」
リオンは背を向けたまま、動かなかった。
「隠してることなんて、ないよ」
その声は震えていた。
「本当に?」
「ああ、本当だ。おやすみ、ルーク」
リオンは部屋を出ていった。
俺は一人、暗闇の中で考え続けた。
何かがおかしい。世界が、仲間が、そして自分自身が。
だが、それが何なのか、まだわからない。




