終焉
### 7
部屋の奥に、王が座っていた。
だが、王は一人ではなかった。
周りには大臣たち、そして軍の上層部がいた。
「よく来たな、勇者2号」
王が言った。
「いや、ルークと言ったか」
王は冷たく笑った。
「この戦争が茶番だということも、勇者が生体兵器だということも」
俺は拳を握りしめた。
「なら、なぜこんなことを」
「必要だからだ」
一人の大臣が言った。
「我が国は武器産業で成り立っている。だが、平和な時代に武器は売れない」
「だから、戦争を作った」
別の大臣が続けた。
「敵国と協定を結び、定期的に戦争を行う。そうすれば、武器は消費され、経済は回る」
「狂ってる……」
「狂ってなどいない。合理的な判断だ」
軍の将軍が言った。
「戦死者は必要経費だ。彼らの犠牲の上に、国家の繁栄がある」
「ふざけるな!」
俺は叫んだ。
「人の命を何だと思っている!」
「資源だよ」
王が冷たく言った。
「国家を維持するための、資源だ」
「くそっ……」
俺は剣を抜いた。
「この真実を、世界に伝える」
「無駄だ」
王は笑った。
「誰が信じる?お前は薬で狂った殺人鬼だ。お前の言葉など、誰も信じない」
「そんな……」
「それに、お前を生かしておくわけにもいかない」
王が合図をすると、部屋の周りから兵士たちが現れた。
数十人。全員が武器を構えている。
「さあ、死ね。そして、次の勇者3号が生まれる」
「勇者3号……」
「ああ。このシステムは永遠に続く。勇者は作られ、利用され、使い捨てられる」
王は勝ち誇ったように笑った。
「それが、我々の世界だ」
### 8
俺は包囲されていた。
逃げ場はない。
剣一本で、数十人の兵士には勝てない。
「くそ……くそ……」
これで、終わりか。
リオンの願いも、勇者1号の遺志も、全て無駄だったのか。
いや、違う。
まだ、できることがある。
俺はポケットからリオンの遺書を取り出した。
破れて、血で汚れた遺書。
「リオン……お前は言ったな。人間として生きろと」
俺は遺書を握りしめた。
「なら、俺は人間として死ぬ」
俺は剣を地面に突き立てた。
「殺せ。だが、俺は抵抗しない」
「何?」
王が戸惑った。
「俺はもう、誰も殺さない。殺すのも、殺されるのも拒否する」
俺は目を閉じた。
「これが、俺の答えだ」
静寂が流れた。
やがて、王が言った。
「撃て」
銃声が響いた。
### 9
だが、弾は俺に当たらなかった。
目を開けると、兵士たちが銃を下ろしていた。
「なぜ撃たない!」
王が叫んだ。
「撃てと言っている!」
だが、兵士たちは動かなかった。
「俺たちは……もう嫌なんです」
一人の兵士が言った。
「人を殺すのも、命令に従うのも」
「黙れ!お前たちは兵士だ!命令に従え!」
「いいえ」
別の兵士が言った。
「俺たちは人間です」
次々と、兵士たちが武器を地面に置き始めた。
「何をしている!反逆か!」
王が叫んだ。
だが、兵士たちは俺の周りに集まってきた。
「勇者様……いや、ルーク」
一人の兵士が俺に言った。
「あなたが教えてくれました。人間として生きることを」
「俺が……?」
「ええ。あなたが武器を捨て、殺すことを拒否した姿を見て、俺たちも気づいたんです」
「もう、誰かの道具として生きたくない」
「俺たちは、人間だ」
兵士たちの目には、決意が宿っていた。
「くそ……くそ……」
王は玉座から立ち上がった。
「貴様ら、全員処刑だ!」
だが、その時、謁見の間の扉が開いた。
そこには、大勢の民衆がいた。
「民衆まで……何故ここに……」
「あなたたちの会話、全部聞こえていましたよ」
一人の老人が前に出てきた。
「この城の壁は薄い。王の声も、大臣の声も、全部外に漏れていた」
「嘘だ……」
「戦争が茶番だったこと、私たちの家族が無駄に死んでいたこと、全部わかりました」
老人は王を睨んだ。
「もう、終わりです。この狂った支配は」
民衆がどっと押し寄せてきた。
王と大臣たちは、兵士たちに取り押さえられた。
### 10
全てが終わった。
王は退位し、大臣たちは逮捕された。
戦争は終結した。
敵国にも真実が伝わり、向こうの指導者たちも追放された。
平和が訪れた。
だが、俺の心は晴れなかった。
俺は王城のバルコニーに立っていた。
下には、歓喜する民衆がいる。
「ルーク様!」
「勇者様!」
彼らは俺を称えている。
だが、俺は勇者なんかじゃない。
ただの殺人鬼だ。
何百人も殺した、罪人だ。
「なあ、リオン」
俺は空を見上げた。
「俺は、人間として生きられたか?」
答えは返ってこない。
「俺は……これからどうすればいい?」
そんなことを考えていると、背後から声がした。
「ルーク」
振り返ると、あの老婆がいた。
息子を俺に殺された、あの老婆。
「あなたは、よくやったよ」
老婆は優しく笑った。
「世界を救った」
「救ってなんか……俺は、ただ……」
「わかってる。あんたは苦しんでる」
老婆は俺の手を握った。
「でもね、苦しむことが大切なんだよ。それが、人間ってことだから」
「人間……」
「あんたは、もう兵器じゃない。ちゃんと、人間だよ」
老婆の言葉が、心に染みた。
「ありがとう……ございます」
俺は涙を流した。
老婆は俺の頭を撫でてくれた。
まるで、母親のように。




