真実
うーん...
「茶番……?」
「ああ。両国は実は裏で繋がっている。戦争は演出だ」
老人は弱々しく笑った。
「目的は一つ。在庫兵器の処分だ」
「在庫兵器……」
「両国とも、大量の武器を作りすぎた。だが、平和な時代にそれらは必要ない。だから、消費する必要があった」
老人は天井を見上げた。
「そこで考えられたのが、この戦争だ。架空の敵を作り、兵士を送り込み、武器を消費する」
「そんな……馬鹿な……」
「馬鹿なことだよ。だが、真実だ」
老人は俺を見た。
「そして、その戦争を効率的に進めるために作られたのが、『勇者』だ」
「勇者……」
「勇者とは、生体兵器のコードネームだ。人間を改造し、薬物で制御し、殺戮マシーンに変える」
老人の言葉が、心に突き刺さった。
「薬は認知を歪める。人間を魔物として認識させる。そうすれば、良心の呵責なく殺せる」
「くそっ……」
「私も、かつてはお前と同じだった。勇者1号として、数百人を殺した」
老人は目を閉じた。
「だが、やがて薬の効果が薄れた。真実が見え始めた。そして、私は気づいた。自分が殺人鬼だったことに」
「それで、あんたは……」
「逃げ出そうとした。だが、捕まった。そして、罰として、ここに閉じ込められた」
老人は生命維持装置を指した。
「私は『魔王』にされた。次の勇者が倒すべき、象徴的な敵として」
「なんてことだ……」
「そして、お前が勇者2号として作られた。私を倒すために」
俺は頭を抱えた。
全てが、茶番だった。
正義も、悪も、全部嘘だった。
「なあ、教えてくれ」
俺は老人を見た。
「俺はどうすればいい?この狂った世界で、俺は何をすればいい?」
老人は長い沈黙の後、口を開いた。
「私を殺せ」
「何?」
「私を殺して、お前が魔王になれ。それが、我々勇者の役割だ」
「冗談じゃない!」
俺は立ち上がった。
「もう誰も殺したくない!」
「だが、それしか道はない」
老人は悲しそうに笑った。
「私を殺さなければ、お前は任務不履行で処分される。私を殺せば、お前が次の魔王として、ここに閉じ込められる」
「そんな……」
「どちらを選んでも、地獄だ」
俺は拳を握りしめた。
「なら、俺は第三の道を選ぶ」
「第三の道?」
「ああ。この茶番を終わらせる」
俺は老人を見た。
「あんたを救い出す。そして、この戦争の真実を世界に伝える」
老人は目を見開いた。
「無理だ。お前一人で何ができる」
「一人じゃない」
俺はポケットから遺書を取り出した。
「リオンが、俺に託してくれた。人間として生きろと」
「リオン……お前の監視役か」
「ああ。彼は命を賭けて、俺に真実を教えてくれた」
俺は遺書を握りしめた。
「だから、俺はあきらめない。この狂った世界を、変える」
老人は涙を流した。
「馬鹿な奴だ……だが、頼もしいな」
老人は手を伸ばした。
俺はその手を握った。
「ありがとう、勇者2号……いや、ルーク」
「ルーク……俺の名前を知ってるのか」
「ああ。私はずっとお前を見ていた。この装置を通じて」
老人は機械を指した。
「お前が苦しむ姿を見て、私は何度も自分を呪った」
「もう、いい」
俺は老人の手を強く握った。
「一緒に、ここを出よう」
「ああ……」
### 12
だが、その時、背後で扉が開いた。
「感動的な再会だな」
聞き慣れない声が響いた。
振り返ると、黒いスーツを着た男が立っていた。
「誰だ、お前」
「私は司令官だ。お前たち勇者を管理する者」
男は冷たく笑った。
「勇者2号、いや、ルーク。お前は任務を放棄した」
「ああ、放棄した。もう人は殺さない」
「残念だ。お前は優秀な兵器だったのに」
男は懐から拳銃を取り出した。
「ならば、処分する」
銃口が俺に向けられた。
「待て!」
老人が叫んだ。
「彼を殺すな!」
「黙れ、勇者1号。お前も失敗作だ」
男は引き金を引いた。
だが、弾は俺に当たらなかった。
老人が、俺の前に飛び出したのだ。
「がはっ……」
老人の胸から血が流れた。
「勇者1号!」
俺は老人を抱きしめた。
「馬鹿な……なぜ……」
「お前には……未来がある……」
老人は苦しそうに笑った。
「私の分まで……生きてくれ……人間として……」
「くそっ……」
俺は涙を流した。
「馬鹿な真似を」
男が再び銃を構えた。
だが、その時、城全体が揺れた。
「何だ?」
男が戸惑った。
窓の外を見ると、城が炎に包まれていた。
「火事だ!誰か放火したのか!」
混乱が広がる中、俺は老人を抱えて立ち上がった。
「逃げるぞ」
「無理だ……もう……」
「諦めるな!」
俺は老人を背負い、部屋を出た。
### 13
廊下は煙に包まれていた。
兵士たちが右往左往している。
「勇者だ!」
「捕まえろ!」
だが、俺は構わず走った。
老人を背負って、必死で。
階段を降り、外へ出る。
城の外は地獄だった。
炎が燃え盛り、兵士たちが逃げ惑っている。
「どこまで……逃げるんだ……」
老人が弱々しく言った。
「わからない。でも、止まらない」
俺は走り続けた。
そして、城門を抜けた瞬間、背後で大きな爆発音が響いた。
振り返ると、城が崩れ始めていた。
「これで……終わりか……」
老人が呟いた。
「いや、始まりだ」
俺は老人を抱えて、荒野を走った。
どこへ行くのかわからない。
だが、止まらない。
リオンが教えてくれた。
人間として生きろと。
なら、俺は生きる。
この地獄を生き抜いて、真実を伝える。
そして、二度とこんな悲劇を起こさせない。
それが、俺の贖罪だ。




