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7)父の再婚

本日、2話同時に投稿いたしました。こちらは2話目です。




 エルゼリの生活は表向きこれまで通りだった。


 クレイに会ったときは魔力充填をする作業が加わった。

 魔力充填のために王宮に行く頻度が増え、週に二回通っている。授業の実技だけなら週に二度も要らないのだが、クレイはこれまではほとんど出来なかった魔法の練習をしているので魔力が必要だ。

 それに、授業では急な変更もあるので、それに対処するためにいつも魔力があるようにしていた。

 クレイは以前よりもずっと気楽に魔法を使っているという。とても楽しそうだ。

 だれもクレイが魔力がほとんど無いなどと気付かないだろう。実際、魔力はあるのだから。

 クレイは魔力を注げば注ぐほど魔力を溜めていく。

 魔力の器は生まれつき決まっているはずだ。その器がいっぱいになれば、それ以上は注げないだろうと思っていた。けれど、クレイの器は満杯にならない。

 クレイは今では並の魔導師を凌駕する魔力を持っている。

 今のところ、クレイの体調などに変化はない。むしろ快適だと言う。

 クレイは、もしかしたら、魔力がないのではなく、魔力を貯める機能に問題があったのかもしれない。それがなぜ今は問題なく溜められているかというと、魔力に治癒魔法を絡めたのが良かったからではないか。単なる推測でしかないが。これまで王家に現れていた魔力のない王族たちも皆、そうだったのかもしれない。


 ルディエ家では変化があった。父アランが再婚した。

 エルゼリは父の浮気相手と初めて会った。

 メロウ夫人に同席してもらった。

 メロウは侍女のような雰囲気でエルゼリの側に控えた。なぜか存在感を消している。

 そのせいか、メロウがいてもアランはなにも言わなかった。

 父の新しい妻は、エイク男爵家の令嬢でカロリナという。

 妖艶な美女だ。娘のリリアンもカロリナに似て美人だ。

 アランはカロリナの腰を抱いて引き寄せ、宣った。

「私の妻だ。よく言うことを聞くように。新しい侯爵夫人だからな」

 クソ親父の本領発揮だな、とエルゼリは思った。

 口も聞きたくなかったが「初めまして」と応えた。

「あなたの娘の割りに地味ね」

 カロリナが嘲るように笑う。

「私の姉になるの?」

 リリアンが嫌そうな顔をする。

 この部屋に入って数分もしないうちに、父親の愛人親子がどんな性根がよくわかった。

「それでは失礼しますわ」

 エルゼリは淑女の礼をした。

 繰り返し練習したおかげで、なんら意識しなくとも貴婦人の見本のような礼が出来る。

「やけに上品ぶってるのね」

 カロリナがなぜか表情を消して睨んでくる。

 上品ぶってる、ではなくて、上品なつもりだ。

「あんた、王太子殿下の婚約者候補の端くれなんですって?」

 リリアンがやたら上から目線で声を掛けてきた。

 ドアの方へ振り向こうとしていたエルゼリは、やむなく動きを止めて「はい」と答えた。

「まぁ、ただの婚約者候補止まりだろうけれどね」

 アランが「ハハハ」と笑う。

 こんな男が父親だなんて、亡き母を恨みたくなる。これまでも何度も思ったことだが。男の趣味が悪すぎる。

 父が母やエルゼリを蔑むのは、たぶん祖父たちに正体がばれて、思うほどは甘い汁が吸えなかったからだろう。おまけに、うちは貧しい侯爵家だ。それでもルディエ家にとってはこの父親のせいで大損害だった。

 祖父たちが手を打たなかったらもっと酷いことになっていた。

 母はすっかり欺されていたけれど、祖父たちは父を嫌っていた。

 父の正体などばれるに決まっている。侯爵家の跡取り娘なのだから、相手の男を念入りに調べるのは当たり前だ。母はけっこう美人だったのだから、もっと愛してくれる男性を探せば良かった。

 叔母が絶世の美女だったおかげで目立たなかったけれど、母も綺麗な女性だった。

「地味な母親に似てしまったみたいね」

 カロリナが、フンと鼻を鳴らす。

「私の方が王太子に相応しいと思わない?」

「そうね。リリアンも侯爵令嬢になったのだから、冴えない義理の姉と交代して貰ったらどうかしら?」

「そうだな。申し入れてみよう」

「わぁ、お願い! お父様」

「ハハハ、任せなさい。王太子もお喜びだろう」

「リリアンの方がずっと美人よ。スタイルも良いし」

「ウフフ」

 エルゼリは呆気にとられて何も言えない。

 もう部屋へ帰ろうとして、ちらりとメロウを見ると、彼女も呆気にとられていた。

 メロウ先生、そんな顔しちゃっていいの? とエルゼリは初めて見る顔に見入った。貴婦人の手本のような先生が。さすがに王家の教育係もアランたちの厚顔無恥ぶりには驚かされたらしい。

「想像を超えた親御さんたちでしたわね」

 エルゼリの部屋に避難するとメロウ夫人が早速、呟いた。

「そうですか? 私は想像の範囲内でした。『新しい侯爵夫人』という方には初めてお会いしましたけど。あの父と気の合う人ですから、そういう方かも、とは思ってました」

「エルゼリ嬢が歳のわりに肝が据わっているわけですわね」

 メロウに哀れみの目で見られた。


□□□


 腹違いの妹リリアンは王立学園に転校した。

 リリアンは、これまでは町立学園に通っていた。

 町立学園は下町のほど近くにある平民も通う学園だ。入学試験は厳しくないし、学費も高くない。

 今、エルゼリが通っている王立学園は警備は厳重で幾重にも防犯対策が施され、施設も恵まれている。その代わり、学費が高い。

 入学するには入学試験を受けなければならない。

 エルゼリは奨学金をもらう予定だった。そのために猛勉強をした。

 幸い、婚約者の支度金が貰えた。

 クレイは「私の資産から出すよ」とも言ってくれたのだけれど、王室管理局からいただいた支度金をつましく貯めたり、祖父母の遺産から出した。弁護士が財産管理をしてくれたおかげで、父には手を出せなかった金だ。

 とはいえ、家は貧しかったので、祖父母の遺産は大した額ではない。五年間分の学費には満たない額だった。もしも王子の婚約者になれなかったら、学園に通うのは無理だっただろう。

 それなのに父は、愛人の娘が入学する金は出すのだ。

 リリアンは「一般教養学科」に通うという。一番、入学試験が簡単な科だ。

 ちなみに、一番、難易度が高いのは法学科だ。さすがクレイ王子が合格した科だ。

 一般教養科に通うということは、勉強が好きとはとても思えない。そんな愛人の娘のために入学金を払うのか。

 その金があるのなら、領民に還元しろよ、とエルゼリは思う。悔しくてならない。

 それにしても、エルゼリは一つ疑問があった。

「お金があるなら、なぜ、さっさとリリアンを王立学園に入れなかったのかしら?」

 エルゼリがぽつりと呟くと、執事のジークが答えた。

「おそらく、推薦状がもらえなかったのでしょう」

「王立学園に入る推薦状ね? でも、父が書けば良いのでは?」

「アラン様は、なんら力のない婿ですよ」

 ジーク曰く。

 王立学園は良家の子息子女が通うため、身元が怪しい者は入れない。推薦状が要る。それも、町立学園の学園長や伯爵家以上の家格の家、または、ある金額以上に税を納めている富裕層などの推薦だ。

 男爵という爵位はガゼリア王国では比較的、簡単に得られる爵位なので推薦状には使えない。

 アランは婿であり、家長ではないので推薦状は書けなかった。そんな立派な知り合いもいなかったのだろう。

「今でも、アラン様は推薦状を書くことは出来ないはずなんですけどね」

 とジークは首を傾げる。

「母が亡くなって、私は未成年だし、父が暫定的に侯爵では?」

「いいえ。違いますよ。アラン様は先々代侯爵に疎まれていましたからね」

「契約魔法を幾重にもかけられていた、というアレ?」

「そうです」

 今は亡き母マローナが、アランに惚れて結婚すると言い出したとき。ルディエ家は、当然ながら、アランを調べた。

 その結果、あまりにも女誑しという評判が悪かったので許さなかった。諦めないマローナは、妊娠したから結婚すると言い出した。

 魔力の高い女は妊娠し難い。妊娠など嘘だろうと思っていたら、医師の診断書まで持ってきた。

 祖父たちはやむなく幾重にも契約魔法を重ねて、ようやく結婚を許した。

 ところが、結婚して何か月経ってもマローナの腹は大きくならない。妊娠したなどと嘘だったのだ。

 アランが賄賂をつかませて医師に嘘の診断書を書かせていたとわかった。

 結婚は無効だと祖父母は糾弾したが、今度は本当に妊娠してしまい、そのまま結婚を続けることになった。

 二人の結婚時の契約条件は幾つもあった。

 まず、アランはルディエ家名義で借金が出来ない。

 マローナも、アランのために借金することはできない。

 もしも借金をすればアランは離婚して追い出されるし、マローナは侯爵の地位を剥奪され、エルゼリに継がせる。

 不貞をしたら離婚という条件は、マローナの反対で無くなった。

 なぜなら、男は浮気をするもので、一人二人の浮気などマローナは気にしない、それくらいで離婚はしたくない、と言い張ったからだ。

 祖父母は呆れたが、まぁ良いかとその条件は引っ込めた。

 エルゼリは悔しかった。残しておけば、今頃あの父親とは無関係になれたのに。

 それから、アランには家長の権限は一切、与えない。

 万が一、マローナがアランよりも先に死ぬことがあっても、なおかつ、エルゼリがそのとき未成年であっても、アランは一時的にでも家長になることは許されない。

 エルゼリの後見人は、祖父母の友人であり有能な弁護士のテオリス・カルシュ氏となる。

 今現在、たしかにその契約の通りになっている。

「そうしたら、リリアンの推薦人は町立学園の学園長とかがなったんじゃない?」

「それが貰えるのでしたら、とっくにリリアン嬢は王立学園に移っているでしょう」

「母は父に甘かったから、推薦状を書きそうなものなのにね」

「それはないでしょう。夫の愛人の娘が貴族が大勢いる王立学園に通うなど。そんな大恥をかくはめになる推薦状など、幾らマローナ様でも署名しませんよ」

「そうなのね」

「とりあえず、世間はアラン様がエルゼリ様の後見人として一時的に侯爵の地位についていると思い込んでいるでしょうから。以前とは違うなんらかのツテを持っていても不思議ではないかもしれません」

「そうね。我が家の貴重な金を無駄遣いしているような気がしますけどね」

「実際に無駄遣いだと思いますよ」

 ジークはルディエ家の執事の割りにアランには辛辣だった。

 リリアンが同じ学園に通うなんて嫌な予感がした。




ありがとうございました。明日も夜20時に投稿いたします。

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― 新着の感想 ―
ろくでもない婚姻でしたが、エルゼリが生まれた事だけは良かったのでしょうね。 穿って考えますと、母親は、「この男となら優秀なこどもを授かれる」と、無意識に、侯爵家の血統由来の本能的直感をした、などはない…
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