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12)宴の前の静けさと・・

本日、二話同時に投稿いたしました。こちらは一話目です。




 エルゼリは王宮でクレイの成人の宴で着るドレス選びをすることになった。

 シェリーから「エルは、変な横やり入れないで、大人しくお任せにしたほうがいいわよ」と忠告を受けていたので、最初に「似合うドレスをお願いします」とだけ告げ、あとは王妃様やデザイナーの人にひたすら頷いておいた。


 ドレス関係が王妃の満足のいくまで検討されたのちエルゼリは解放され、いつものようにクレイの応接間で一息ついた。

「エル、学園では聖女に会うかい?」

 お茶を飲みながらクレイに尋ねられた。

 突然の問いにエルゼリは目を瞬いた。

「いえ、会わないです」

 エルゼリはすぐに答えた。

「そうか。実はね、国教の方から聖女を私の婚約者に、という話が出たのだが王家としては断ったんだ。正確には『検討する』と言ってはあるが間もなく断る予定だ。けんもほろろに即答すると国教との関係上マズいからね。でも、私の婚約者がエルゼリと決定しているのに横槍を入れるように申し入れてくるなんて礼儀知らずだろう。聖女は同じ学年の魔導科だ。学園で会うとしたらエルゼリが大丈夫か気になってね」

 クレイの説明を聞き、エルゼリはさすがに不安になった。

 顔に不安が出てしまったのか、クレイが切なげにエルゼリの髪を撫でる。

「そんな顔をしない。エルゼリ以外が私の妻になるなんて考えられない」

「あ、ありがと、クレイ」

 エルゼリがはにかむ。クレイは自信なげに小さくなっている愛しい婚約者を抱きしめた。

「あの、学園では聖女には会わないわ。確かに同じ学科で同じ学年みたいだけど、クラスが違うから」

 クレイに抱きしめられて落ち着くと、エルゼリはぽつぽつと話し始めた。

「そうだったね」

「ええ。彼女、一年のときは学園に来てなかったでしょ。国教施設で特別訓練を受けるからって」

 クレイは、エルゼリの話を頷きながら聞いていた。

 学園での聖女の評判はさまざまだとシェリーから聞いている。学園にあまり来なかったために情報は少なく、概ね好意的に受け取られているようだ。

「二年になっても選択授業を選ぶ基準が違うらしくて。彼女とは、選択授業では会わないんですよね。基本教科は、クラスが違うから教室も違うし。食事のときも会わないし。私の友人が『彼女は正体不明だから近づかない方が良い』と忠告してくれてて。お食事のときはこちらが避けてるというのもありますけど」

「それは良かった」

 クレイは満足そうに頷いた。

 聖女は、治癒術科ではなく魔導科に入学していた。

 その代わり、選択授業では治癒に関わる授業をとっている。

 成績が振るわないので魔導科にしたのだろう。

 魔導科であれば、珍しい魔法属性を持っていると入りやすい。


 クレイは、ときおり上がってくる聖女の情報に目を通した。

 気にも留めていなかった「聖女」に関して、時間を使うのも無駄だ。けれど、エルゼリが関わってくるのなら話は別だ。

 エルゼリとの結婚は確定だ。決して揺るがない。なぜ、聖女との婚約話が出てくる。

 王室管理室も「まず、検討するまでもなくお断りでしょうけど」と、報せてきていた。

 クレイは、報告書をぺらりとめくった。

 この「聖女が強く望んだ」というのはなんなんだろう。会ったことも無いというのに。父上が「もう婚約者は決まったので」と丁重に断ったらしいから、これで済んだのなら良いが。国教側がその返答で納得したという報せがないのが気になる。


 クレイは聖女マリーベルの報告書をぱたんと閉じた。


□□□


 マリーベルは王子の顔もほぼ確かめられないままに年の暮れが過ぎ、冬季休みが終わった。

 せめてどちらかの王子の顔を確かめられれば良かったのに、年月が過ぎていく。

 ようやく食堂で、レイン王子の顔を遠目に見ることは出来た。

 綺麗な、かわいい王子様だった。

 レイン王子の母である側妃は綺麗でかわいい人だと聞いたことがある。母親似らしい。

 さすが王子様。桁外れに目立つ容姿だった。

 でも、夢の王子とは違った。

 これではっきりした。

 レイン王子は評判が悪いこともわかった。乱暴で、暴行事件を起こして母親の実家にもみ消してもらっていた。

 そんな乱暴な王子はいくら綺麗でも嫌だと思った。


 聖女のマリーベルには、取りまきがたくさん出来た。ちやほやされるのは慣れないが気分は良い。

 楽しく月日が過ぎ、また新しい年になった。

 今年、マリーベルは十六歳になる。

 そんなおりに、取りまきから話を聞いた。

「クレイ王子の最後の婚約者候補が辞退してしまったらしい」と。

 クレイ王子はお体が弱く、王太子になれないという。

 そんな噂が流れ、婚約者候補たちは潮が引くように逃げていった。

 夢の言葉が思い出された。

 そうだ、クレイ王子は、身体が弱いわけではない。魔力がほとんどない。

 王子をお慰めするのが、聖女の役目。

 聖魔法の治癒で魔力を注ぐと、王子のわずかしかない魔力を補うことが可能だ。

 神官長に相談してみよう。丁度良いことに、婚約者候補が消えたのだから。

 神官長は何度も「それは無理でしょう」とマリーベルを諫め、渋い顔をしていたが、

「まぁ、言うだけなら良いでしょう。まだ婚約者ではなく、婚約者候補の段階らしいし」

 最後には折れてくれた。

 けれど、結果は惨憺たるものだった。

「王子殿下の婚約者はもう決まっておりますので、断られました」


□□□


 クレイはシェリーから、

「聖女がエルゼリ様に近づこうと試みているようです」

 と報告を受けていた。

 今のところシェリーが避けている。

 授業ではエルゼリとマリーベルが一緒になることはなく、昼休みや放課後に気を付ければ良い。

 シェリーはエルゼリの手を引いて、追いかけっこを見事に逃げ切っていた。

 エルゼリの方でもクレイから聖女に気を付けるように言われてるので、必死にシェリーに付いて逃げていた。


□□□


 ベラニカは息子のレインが王太子になれる可能性がある、そう聞いた。

 元気よく育ちすぎてしまったレイン。第一王子のクレイは優秀で落ち着いた性格も良い。第二王子には王太子は無理だと思っていたが、ここにきてクレイ王子の病弱説が流れている。

 チャンスだと思った。


 ベラニカは王室管理室から「王室の予算は決まっているので側妃個人が使える金は年間、金貨百枚まで」と言われていた。

 ベラニカはそれに猛反発した。あまりにも少ない、と。けれど、王室管理室は撥ね除けた。生活費は別に出ることになっている。催事のおりは「衣装代」も出る。

 あくまで、それは側妃の小遣いだ。充分であろう、と。

 ベラニカは王室管理室の妄言など無視し、出入りの商家で好きなだけ使いまくった。

 結果、商家から王室管理室財務部に請求書が届いたが断られた。

 商家はベラニカの実家にまで払って欲しいと願い出た。

 セガル家は「嫁いだ娘の借金は関係ない」と突っぱねた。

 側妃の醜聞は巷にも知られることになり、国王が立て替えた。

 のちに、国王の立て替え分は王室管理室が半分支払ったが、代わりに、

「向こう十年、側妃どのの小遣いはありません」

 と宣言された。

 出入りの商家もベラニカのところには来なくなった。

「ベラニカは金を払わない」と有名になってしまった。

 国王もあれきり、ベラニカには一つも贈り物を寄越さなくなった。

「立て替え分の金で一生分の贈り物はやった」

 と言われた。ケチにもほどがある。


 ベラニカは自分の子であるレイン王子が王太子になれば「王太子手当」がつくし、彼が国王ともなれば国母としてまた手当が貰えることに目を付けた。

 とはいえ、我が子を推すための手立ても無く、周りに愚痴をこぼすくらいなものだ。

 ベラニカの実家はそれなりに勢力のある侯爵家だが、レダーニャ王妃の家も負けない家なので勢力争いで優位に立つのは難しい。おまけにレインの評判が悪いことにベラニカは気付いてしまった。


 それが、可能性が出てきた。けれど、疑問もある。クレイ王子はそこまで病弱だろうか。

 変だな、と思った。まだ王太子から外すと決めるほどに病弱とは思えない。

 なぜだろう。

 最近、王太子の婚約者にと、聖女の名があがった。

 聖女が密かにクレイ王子の治療をしているのだろうか。その可能性はある。

 ベラニカは聖女を連れてくるように家臣に命じた。


 マリーベルという少女は家臣が多少、乱暴に連れてきてしまったらしく怯えきっていた。

 そこまで怯えさせるつもりはなかった。ただの平民だとしても、国教が絡んでいるので面倒だ。

 とはいえ、これだけ怯えていれば正直に情報を晒すだろう。都合が良いと考え直した。

「お前、第一王子に治癒を施しているのだろう」

 ベラニカが問い質すと、びくりと聖女は震えた。

「い、いえ、まだです。これからです」

 聖女は必死に答えた。

 正直に答えていると思われたが、言ってることがおかしい。

「どういうこと? 治癒をしているのだろう?」

「ま、まだ、お会いできていませんが、こ、これから頻繁にお会いして」

「どういうことだ? 今は国教の治癒師がおこなっているのか」

「そ、それは、私にしかできません」

「どんな治癒なの?」

 よほどの大病なのか。それなら、一刻も早く治癒すべきだろうに。

「そ、それは、あの」

「さっさと言え」

 家臣が苛々としてナイフを見せた。

「ひっ。ち、治癒、というか、魔力を注ぐ、のです。聖魔法を使えば、溜められる魔力をお与えできますから」

「なんだ?」

 家臣がなにか言おうとするのを、ベラニカは止めた。

 ベラニカは思い当たることがあった。

 ずっと疑問に思っていたことだ。

 ベラニカは側妃になる前は王太子妃の候補だったことがある。それで、妃になるための教育は受けていた。

 最後のほうでは、契約魔法を使って、王家の秘密に触れることも学んだ。

 まだ妃になる前だったので、そこまで機密という感じではなかったが一応秘密だった。

 その中に、過去の王兄殿下が記したという資料が幾つかあった。年代はまちまちだが、優れた治水計画に関してや街道整備などについての資料だ。

 内容はベラニカには小難しいし興味もなかったが、こんな優れた計画を建てられる王兄が王にはならなかったのはなぜだろうと疑問だった。

 その資料のものは、どれも王位に付かなかった王兄の記したものだったからだ。おまけに、なぜか機密だ。

 あまりに謎だったので資料の王兄を覚えておいて調べたら、体が弱かったから弟に王位を譲ったことになっていた。だが、どの王兄も功績を残している。弟の王が愚王だったために追いやられて、結局王位についた王兄もいた。

 体が弱かったというのは嘘ではないか。弱い王兄ばかり功績を残せるものか。

 どういうことだろうか。

 クレイ王子のことでも妙な噂がある。魔法が下手すぎる、というものだ。

 魔力はふつうにあるはずだ。そう聞いている。あれだけ優秀な王子なのに魔法は下手だ。

 王族で魔法が下手というのはあまり聞かない。魔力は潤沢で教師が幼いころから付くのだから、下手になるのはありえない。不真面目なレインでも魔法は上手い。

「なるほどね」

 ベラニカはにたりと笑った。

 聖女がその笑みにさらに体を震わせる。

「第一王子は、魔力がない、そうだわよね」

 ベラニカが問うと、聖女は震えながら、俯く。

「言わないと帰れないわよ」

 ベラニカの声が低くなる。家臣の男が聖女の顔の前にナイフをちらつかせた。

 掠れた声で「はい」と答えるのが聞こえた。



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