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11)聖女マリーベル

本日、二話同時に投稿いたしました。こちらは二話目です。

恋愛脳がうざい子です。すみません。





 一目惚れだった。

 光でできているみたいに綺麗な王子様。

 孤児院に、王妃様と一緒に視察に来られたのだという。

 まだ十二歳の王子は、マリーベルの一つ年上だった。

 でも大人みたいに凜としている。きっと、心が大人だからで、子供なのに心をそんなに歳を取らせることができるなんて、さすが王子様だと思った。

 羨ましくて格好良くて、王子殿下ということ以上に遠い人に見えた。

 男爵の庶子など無理に決まっていると思っていたけれど、マリーベルは聖魔法の使い手だという。


 マリーベルの父親はアンテ男爵で、母は侍女だった。

 正妻は伯爵家が実家で、苛烈な女性だ。浮気相手を許すような女じゃない。

 幾らかの金を貰い男爵家を出た母は下町でマリーベルを産んだあと、商家の使用人として働いていた祖父母を頼り、古びた実家に出戻ってそれなりに幸せに暮らしていた。

 母は子育てが一段落すると料理屋で働き、組合の職員をしていた男性と再婚。小さな幸せを噛み締めている。


 マリーベルは十二歳のときの魔力鑑定で、聖魔法属性を持っていることがわかった。

 もしも出世したら、王子に相応しくなれるだろうか。ときおり、家から国教施設に通って修行することになった。

 魔法の修行を続けるうちに、妙な夢を見るようになった。ところどころ、鮮明に画像が浮かぶ。

 クレイ殿下と寄り添う自分の姿に、彼は運命の人なのだとわかった。声も聞こえる。台詞のような声。

 意味がわからない。わからないなりに、その台詞をまるごと覚え込むようにした。

 いつか王子に囁けばいい、そう本能が告げる。本能でなければ、なんらかの神のお告げだ。

 立派な聖女になれたら、きっとこの恋は成就するのだろう。


 その頃には家族が増えていた。父と母と祖父母と、あとから生まれた弟と妹。大家族だ。

 小さい家でちょっと大変だけれど、皆仲良く暮らしてる。

 マリーベルだけ、家族と距離を置いている。

 マリーベルは王子と運命を共にする聖女だ。下町の家族の中で埋もれてはならない。


 下町の、少し良い宿屋の息子ロイが幼なじみだった。下町ではそこそこ美男で元気な少年。

 マリーベルを気に入って「嫁にしてやるよ」と悪ガキのイジメから守ってくれたり、母たちに「まぁ、仲良しさんね」と生暖かい目で見られたり。少し鬱陶しかった。

 そうしているうちに、家に国教の神官たちがやってきた。

 マリーベルが十三歳のときだった。

「マリーベル嬢は聖女になられる方です。アンテ男爵が引き取りたいと仰ってます」

 両親は「娘は渡せません」と気丈にも逆らった。

 祖父達も「孫はうちの子です」と断った。

 でも、マーベルは神官たちの方へ歩み寄った。

「マリーベルっ!」

 幼い弟妹まで名を呼んだ。

 私の居場所はここじゃないとしか思えなかった。

「お父さん、お母さん、お祖父さん、お祖母さん。それから、エリナ、マース。私、聖女になりたいの。実のお父様のところに行かせて」

 十三歳まで一緒に暮らした家族だったけど、最後まで本当の家族とは思えなかった。

 父達は「お前が望むなら」と、ようやく神官の差し出した書類に署名した。


 マリーベルの予想とは違って、馬車は男爵家ではなく神殿に向かった。

 マリーベルは神殿付きの侍女たちに手伝われて禊ぎをし、聖女の白い服に着替えさせられた。

 胸が高鳴った。

 マリーベルに似合った。自分は聖女なのだと思った。

 アンテ男爵が神殿に呼ばれた。

 テーブルの上に書類が置かれ、神官長が頬笑む。

 アンテ男爵は渋い顔だ。

「これに署名すると、お前は『下界から離れて神殿のものになる』らしいが。マリーベル。それで良いのだな」

「下界から離れる?」

 ずいぶん大げさな言葉だ。

「はい」

 マリーベルはなにも迷わなかった。

「わかった。これでアンテ家とお前は無関係だ」

 実の父は小さく吐息をついて書類にサインした。

 親の辛そうな顔を見たのは二度目だ。

 母と義理の父に泣きそうな顔をされながら下町を出て。この神殿で実の父から無関係だと告げられる。

 どちらもマリーベルが自ら望んだことだけれど。寂しいとか、思わなかった。

 これで、あの夢の恋を成就できる。そう思った。


 聖魔法の指導係は小うるさい魔導教師だった。

「無理しないでください!」「魔力切れには気を付けて!」と、ことある毎に言われた。他の家庭教師たちもやたら厳しい。

 今まで町立学園でのん気に過ごしていたマリーベルにとっては地獄の特訓だ。マリーベルは数学も暗記ものの歴史も外国語も苦手だった。

 今までは幼なじみのロイにおんぶに抱っこで、面倒を見て貰っていた。大事にしてくれてたロイのありがたみを失ってから思い知る。

「聖女様、ペンが止まってますよ」

 神殿付き教師に睨まれた。

 勉強が終わると聖魔法の治癒の修行も兼ねて貧民街に行く。神官と神殿付きの護衛を引き連れて。

 王都の中心街から外れて道が狭くなる。

 下町を抜けてすぐのところに国教施設の支部がある。治安が最悪になる手前だ。まだ下町の辺りは王都警備の衛兵が頻繁に回っているので、それほど酷くないのだ。

 おかげで、マリーベルたち家族も安心して暮らせていた。けれど、ここから先は駄目だ。マリーベルも近づかないように言われていた。

 この国教施設が目印だ。

 施設の前の広場も綺麗だ。

 治癒師が来ることを告知してあるので、人が集まって来ている。

 神官がすでに浄化をかけ始めていた。

 この浄化を受けて、すっきりするためだけに来ている人もいるという。肌や髪の匂いは消えるし、不衛生なために悪化していた傷の膿みも、軽症ならこれだけでだいぶ良くなるらしい。

 貧民窟だ。人の匂いは消しても町はまだ匂う。すえたような匂い。浄化魔法かけてもすべては消えない。

 空気がだいぶ良くははなっている。それは認める。まだ息が吸える。

 神官が再度、浄化魔法をかける。

 マリーベルは促されて用意された椅子に座り、一人一人浄化魔法をかけていく。

 傷の具合などは神官が聞き取り、マリーベルが治癒魔法を施す。

 初めての修行だった。

「疲れすぎないようにしてください。無理をしてはいけませんよ」

 神官にうるさく注意されながら治癒をする。

 少しくらい無理しないと、修行にならないような気がする。

 いつまでもこんなところで燻っていたら、王子の側に行けない。

 運命はのんびりしていたら逃げてしまう。

 帰還して一息つくと、さっそく神官に「学園に通いたい」と申し入れた。

 神官は「では、近くの町立学園に入れるように手配を」と言いかけたが、マリーベルは首を振った。

「王立学園に入りたい」

「王立学園ですか」

 神官は渋い顔をした。

 マリーベルは教師たちからも色々と言われた。

 まず、王立学園は試験がある。マリーベルの学力では無理。

 それに、聖魔法の修行は成人するまでにある程度やっておかないと伸びないという。

 聖魔法の能力が伸びないのは確かにマリーベルも困る。

 神官長は王立学園の学園長に掛け合ってくれた。

 とりあえず、高等部の一年目は勉強はまだ易しいので、両方掛け持ちでできるようにしましょうと言って貰えた。

 それから高等部の一年に入れる歳まで勉強して入学した。

 マリーベルの能力では掛け持ちは無理だとわかった。

 聖魔法の修行も、マリーベルが思うほどは成果が出ない。

 あの運命の夢を見なくなった。

 運命が変わってしまったんだろうか。王子の隣にいるのはマリーベルだったというのに。


 年度末試験の結果もさんざんで、二年でもまた八組。最下位クラスだ。

 もう、特例の期間は終わり、学園にしっかりと通えるようになった。

 それでわかったことがある。

 王子様には会えない。王子には相応しい婚約者候補がいるという。

 クレイ王子は法学科だった。

 マリーベルは、クレイ王子とレイン王子が似ているのなら、あの夢はレイン王子を示している可能性もあると思い付いた。

 孤児院の視察で見た王子はクレイ王子だったが、近付くことなど出来なかった。少し遠目だった。顔を間近で見たらはっきりしただろうに。

 レイン王子は騎士科だ。

 騎士科の学生は王立学園に併設された訓練場の辺りにいることが多く、これまた見に行けない。

 同じ学園に婚約者の候補がいるのだから、きっと王子は彼女らと過ごそうとするだろう。王子には近づけないが、令嬢は魔導科で同じだ。クラスは違うが、まだ可能性がある。

 マリーベルは、令嬢の近くにいようと考えた。




ありがとうございました。聖女のイタイ恋の行方・・、完結は2話後になります。

明日も夜20時に投稿いたします。

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