3 大嫌いってどういうことですか!?
城に戻って、父にアルミナの意思を伝えたジークベルトは、後日、兄の返答を聞かされた。
「大嫌いだ、顔も見たくない相手だと、本当に兄上がそうおっしゃったのか?」
執事からそう聞かされたジークベルトは、耳を疑った。
「僕のことならわかるけど、ほとんど接点のなかったルミナのことを、どうしてそこまで……」
ジェラルドの母親は、ジェラルドを産んでからの体調が思わしくなく、数年後に亡くなってしまった。その後、現王妃が迎えられ、間もなくジークベルトを授かることとなる。
ジェラルドは新しい王妃を受け入れられず、その息子であるジークベルトのことも避けていた。
アルミナが兄のことが好きで、ジークベルトとの婚約を泣いて嫌がったことには、彼も少なからずショックを受けた。だが、それよりも幼馴染がひどく拒絶されたことが悲しかった。
(ルミナは、そこまで言われるほどの子じゃないのに……)
理由を直接問おうにも、ジークベルトは会ってすらもらえないだろう。前に兄と話したのはいつが最後だったかと、思い出すことも難しい。
「はぁ……ルミナに何て伝えよう」
自分の落ち度のせいで、彼女の人生を狂わせてしまったのに、これ以上落ち込ませたくはない。
「よし、決めた。兄上が断ったんじゃなくて、僕がルミナとの婚約を強く要望したということにしよう」
ジークベルトが、アルミナとの婚約破棄を拒絶した。アルミナからも嫌われてしまうかもしれないが、今はそれくらいしか思いつかなかった。
実際、ジークベルトも婚約の話が出た時は驚いたものの、物心ついた時から一緒にいた相手だっただけに、彼女が婚約者ならいいんじゃないかと思っていた。
それが恋愛感情とまでは言えないかもしれないが、アルミナのことを大事に思う気持ちに嘘偽りはない。
(それに、ルミナがいくら兄上のことが好きでも、ルミナのことを悪く言う人の婚約者にはしたくない)
ジークベルトはひとり決意を固めた。
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シンク公爵家の令嬢が、自分との婚約を望んでいる。
父である国王からそう聞かされたジェラルドは、心の底から嫌悪した。
「シンク公爵家の令嬢だと? 大嫌いだ、顔も見たくない。そもそも、弟の不始末をなぜ俺が片付ける必要がある。二度とその話をしないでもらいたい」
冷ややかにそう告げると、ジェラルドは足早に部屋を後にした。
「やはり無理があったか……」
今回の件は、ジェラルドには何の非もない。
しかし、婚約前の公爵家の令嬢にしたことを考えれば、王家としてはできる限りのことをする必要があった。
本来、厳重に城で管理しておくべき呪われた魔道具を、執務室とはいえ、子どもが簡単に持ち出せる場所に置いてしまったのだから。
(いくら側に置いておきたいとしても、あまりに軽率だったな)
持ち出したのはジークベルトであっても、管理不足は国王自身の問題だ。ジークベルトもまた、アルミナと同様に被害者である。
(アルミナ嬢にも、ジークベルトにも……それに、ジェラルドにも。本当に、すまないことをした)
シンク公爵家には、ジェラルドとの婚約は諦めてもらえるように頼もう。なるべく、彼女が傷つかないように、と国王は考えた。
ジェラルドは、自分の産みの母が亡くなってすぐに、現王妃を迎えたことをよく思っていない。だから、国王とも、現王妃の息子であるジークベルトとも一線を引いている。
(しかし、ジェラルドももう12歳。王太子としても、婚約者は必要だ)
アルミナに限らず、ジェラルドは婚約の話を酷く嫌った。
空になった指輪の入っていた箱を撫でて、国王は頭を悩ませた。




