11 院長ってどういうことですか!?(3)
翌日、シンク公爵家に院長が連れてこられた。
何か処罰が下されるのではないかと、諦めたような表情をしていたボサボサ頭の男は、拘束もされずに立派な応接間に通されると、ぽかんとした。
ソファに座るように公爵に促され、その向かいに幼い少女が座っているのを見て、ますます意味がわからないという顔をした。
「昨日は、強引に調査を進めてしまって申し訳なかった。この子は、私の娘だ」
少女の隣に座った公爵は、そう紹介した。
入り口には、昨日も護衛を担当していたエスパーダが立っており、目を光らせている。
「俺は、罪人ではなかったのでしょうか? お嬢様に会わせるような人間ではないと思うのですが」
吐き捨てるように言うと、院長は目を逸らした。
「クレル院長、昨日はご挨拶もなく申し訳ありませんでした。私は、アルミナ・シンクと申します」
アルミナが名乗ると、院長はちらりと目線をよこしたが、再び逸らす。
「何のために、ここに呼んだんですか。子どもを罪人に会わせるなんて、どういうつもりですか公爵様」
「娘が、君のことを気にしていてね。とても罪を犯す人には見えなかったと」
それを聞いて、院長は嘲るように笑った。
「娘が言ったから、俺は罪人ではないかもしれないって? 昨日、あれだけ調べておきながら? お嬢様が言えば覆るんですか?」
院長の怒りや、呆れという感情が伝わってくる。
記憶を読む力については、絶対に話さないこと。アルミナが父と約束したことだ。
父が責められているのを見て、ついつい事情を話してしまいたくなるが、その前に公爵が口を開いた。
「君が犯人だという証拠はたくさんあった。だが、調査が不十分だった可能性もあると思ってね。もう一度、話を聞かせてもらいたいんだ。覆るかは約束できないけど」
「私も聞かせていただきたいですわ!」
それを聞いて、あからさまに院長は顔をしかめた。
「子どもの前では話せないことだろうから、途中でアルミナは退室させる。少しだけ、この子の我儘に付き合ってくれないだろうか?」
領主である公爵にそう頼まれれば、もはや命令に近いものだろう。
断れるはずもなく、院長は小さく頷いた。
「では、早速手を見せて下さいませ!」
「はぁ?」
「手を見れば、その人がどんな人か分かると、よくお母様が話していましたの。さぁ、見せて下さいませ!」
しぶしぶ出してきた手に、アルミナはしっかりと触れた。骨ばっていて、よく日に焼けた肌をしていた。
「……やっぱり、院長はとてもよい方ですわ」
手をひっくり返したりしながら、じっと見つめていたアルミナだったが、しばらくして顔を上げた。
にっこり笑ったアルミナを見て、院長は呆れた顔をした。
「手を見たくらいで、善人か悪人かなんて分かりませんよ。安易に大人を信用するもんじゃない」
「いいえ、院長の手からは確かによい人だと分かりましたわ」
はぁ、と周囲に分かるくらい大きなため息をついて、院長は公爵に向き直った。
「公爵様、お嬢様に付き合うのはこれくらいでいいでしょうか?」
「ありがとう。アルミナ、部屋を出てくれるかい?」
素直に父の言葉に頷き、アルミナは部屋を後にした。




