11 院長ってどういうことですか!?(2)
その日の夜、瞼がもう少しでくっつくという頃に、シンク公爵は帰宅した。
窓から父の姿を捉えたアルミナは、眠い目を擦りながら急いで出迎える。
「お父様、おかえりなさい。それで、あの、お話ししたいことが」
「今日はもう遅い。明日ではだめかい?」
公爵も疲れた顔をしていた。アルミナにもそれは分かったが、早く伝えなければ手遅れになるかもしれないという思いが、彼女を駆り立てる。
「お願いします!!」
アルミナの必死な様子を見て思うところがあったのか、公爵は止めようとするメイドたちを手で制し、執務室へ連れて行った。
「それで、アルミナ。何か見えたのかい?」
公爵は、昼間のアルミナの行動と、何かを訴えようとする様子を見て、おそらく記憶を読み取ったのだろうと気づいた。
アルミナは、まずウラギ司教から読み取った記憶を伝える。
「あんなに優しそうな方がこんなことをするとは信じられないのですが、見たのです。ウラギ司教様は、孤児院に使われるはずのお金を自分のものにしていました」
それを聞いた公爵の顔が険しくなる。いつも穏やかな父がそんな顔をすることに一瞬怯みながらも、アルミナは言葉を続ける。
「孤児院の院長だというあの男の人は、子どもたちを必死に守ろうとしていました。ウラギ司教がした悪いことは、すべて院長がしたことにされています。あの方は無事ですか?」
ボサボサ頭の男は、見た目も態度も誤解を招きやすいものだったが、ウラギ司教の悪だくみから子どもたちを守っていた。
ウラギ司教は、支援金を自分の懐に入れたり、孤児院の子どもたちをお金と引き換えに怪しい人たちに渡してしまったり、本当に昼間と同一人物かと疑いたくなることをしていた。
アルミナの話を聞いた公爵は、思案した後、言葉を選びながら答えた。
「その話が本当なら、このままだと院長が悪者にされてしまうかもしれない。アルミナ、今の話に嘘はないんだね? もし間違った情報であれば、大変な問題になってしまうよ?」
アルミナは読み取った記憶をよく思い出しながら、力強く頷いた。
「はい、お父様。間違いありませんわ」
子どもとはいえ、希少魔法をもつアルミナの話を無視するわけにはいかないと判断した公爵は、非常に悩んだ。
アルミナの力を危険なことには使わせたくないと思う反面、この問題を解決するためにはアルミナの力が必要だと感じていた。
昼間の一件があってから、シンク公爵は教会、孤児院、そして院長のことを調べた。残されていた証拠は、院長が支援金を自分のものにしていた、院長が子どもたちを物のように扱っていた、などというものだけだった。
孤児院の子どもたちに聞いたときも、無言で頷いていたので、それが真実だと疑わなかった。
もし、脅されていたら? 証拠が書き換えられていたら?
「アルミナ、教会に行こうと言い出したのは、やはり孤児院の件があったからだね?」
静かに、ただし確信を持って公爵は尋ねた。
うっ、と言葉に詰まる娘を見て、ため息を漏らす。
孤児院の関係者と接触するチャンスを伺っていたのだろうと薄々感じていたものの、同行を許したのは公爵自身だ。しかし、司教という大物が関わっていたのは想定外だった。
「一度関わってしまったからには、公爵家の人間として最後まで責任をとる必要がある」
娘のことが可愛いのに変わりはない。しかし、この地を治める人間として、無実の領民が裁かれそうになっていることに気づきながら、見なかったことにするわけにはいかなかった。
「アルミナ、協力してほしい。ただし、希少魔法の使い手だということがばれないようにね」
それを聞いたアルミナは、ぱっと表情が明るくなる。
真に裁かれるべきなのは誰なのか。慎重に作戦会議が行われた。




