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1 呪いの指輪ってどういうことですか!?

 魔法により栄えた国、レティシア。

 古代より魔法文明が受け継がれ、今でも数多くの優秀な魔導士たちが暮らしている。

 そんな魔法国には、()()()()魔道具も少なからず存在している。中でも、(のろ)いに関わるものは、王家が厳重に管理しているため、一般に目に触れることはない。


「そ、そんな話、聞いてませんわーー!!」


 お目にかかることなどないと思っていた呪物が、自分の左の薬指でギラギラと黄金の輝きを放っている。

 現実を受け入れられない公爵令嬢アルミナは、公爵家の応接間で絶叫した。


****


 時は遡りーー

 レティシア王国有数の公爵家の令嬢であるアルミナ・シンクは、今日7歳の誕生日を迎えた。


「お誕生日おめでとう、アルミナ。お母様に似て美人で、可愛らしい、愛する娘よ。何より、今日まで元気に育ってくれたことが、お父様は嬉しいよ」

「何よりも大切な、私たちの宝物。誰よりも幸せに、大きくなってね」

「ありがとう、お父様、お母様!! 私は、二人の娘に生まれて、とーっても幸せです!!」


 優しい両親から愛情をたっぷり注がれて育ったアルミナは、元気で明るく、甘えん坊に育った。

 親の贔屓目ということを除いても、父親の言う通り、アルミナは美しく、可愛らしい容姿をしている。母譲りの流れるようなブロンドの髪と、くりっとしたまつ毛の長い空色の瞳。りんごのように赤く染まった、ふくふくした頬。

 本人の生まれもっての愛嬌もあって、アルミナは公爵家の人間たちから可愛がられてきた。


 今日は誕生日ということで、メイドたちの気合も入っており、薄桃色のフリルドレスに身を包んだアルミナは主役として相応しい出立ちとなっている。

 娘の誕生日を盛大に祝いたいと、送れるところには招待状を送りまくった公爵の影響で、公爵家には続々と名だたる貴族たちが押し寄せていた。

 アルミナにとっては、大人たちの顔はよくわからないので、つまらなそうにキョロキョロと辺りを見回していた。


「アルミナ、今日は殿下も来てくださることになっているから、探しておいで」


 公爵家のホールが人でいっぱいになってきたころ、その対応に追われていた公爵がそう言ってウインクした。ウインクが苦手な父の不格好な様子を見て、アルミナはくすりと笑う。


「ちょっと行ってきます」


 父の言う殿下とは、レティシア王国の第二王子ジークベルト・レティシアのことだ。

 シンク公爵が宰相をしていることもあって、同い年のジークベルトとはアルミナも面識があった。暇があれば一緒に遊ぶ仲で、幼馴染というやつだ。

 お互いに勉強が苦手だったり、悪戯が好きだったりと似たもの同士であり、喧嘩もしょっちゅうだが、一緒にいると退屈しなかった。


 大人たちの間をかき分け、壁際の少し人がまばらな場所に移動すれば、夜空の星を思わせる銀髪に、レティシア王家の色である黄金を瞳に宿す少年が立っていた。


「誕生日おめでとう、ルミナ」

「来てくれてありがとう、ジーク」


 挨拶を済ませると、ジークベルトはジュースの入ったグラスをアルミナに手渡した。


「はい。さっきもらっておいたんだ」

「ありがとう、気がききますわね」

「お腹も空いてるんだろ?」

「流石、よく分かってますわね。お父様たちのお話には混ざれないし、今日はプレゼントとお料理を楽しみにしてたんですから!」


 あははっ、とジークベルトはお腹を抱えて笑う。


「もう、あなただって変わらないでしょ!?」

「あは、あははっ、いや、ごめんって。お詫びに好きなものとってきてあげるから、機嫌直してよ」

「むぅ……じゃあ、ショートケーキとチョコレートケーキと、チーズケーキとーー」

「ケーキばっかりそんなに食べて。また怒られるんじゃないの?」

「誕生日くらい許されますわ」


 やれやれ、お腹を壊さない程度にねと言いながら、ジークベルトは要望に応えるべく人混みの中に消えていった。


 7歳になったアルミナは、相変わらず大人たちの話はよくわからないものの、少しであれば何を言っているのか分かるようになってきていた。

 ジークベルトを待つ間、周囲の会話に耳を澄ませる。


「公爵と公爵夫人は、いつ見ても相思相愛で羨ましいですわ」

「アルミナ様もすっかりお綺麗になられて」

「聞きまして? ジークベルト殿下との婚約のお話が挙がっているとか」


 それを聞いて、アルミナはジュースを吹き出した。


「ルミナ、大丈夫!? せっかくのドレスにシミができちゃうよ」


 ちょうどケーキをとって戻ってきたジークベルトが、何事かと駆け寄ってくる。先ほどの会話を聞いてしまった気まずさから、アルミナは視線をそらす。


「とりあえず、着替えておいでよ」


 ジークベルトが近くにいたメイドに事情を説明すると、休憩室にしていた応接間へ連れていかれ、すぐに着替えさせてもらうことができた。

 部屋の外で待機していたジークベルトに声をかけると、彼は見せたいものがあると声を潜めた。

 これは、絶対に何か面白いものだと直感したアルミナは、人払いをし、応接間へジークベルトを招き入れた。


「さぁ、これで私たちだけになりましたわ。それで、見せたいものって?」

「ふっふっふ、見たら驚くぞ? 父上の執務室にあったものを、こっそり拝借してきたんだ」

「そ、それって大丈夫なんですの?」

「仕事には関係なさそうだったから、大丈夫さ。帰ったらすぐに返すし」


 そう言って、小さな木箱を机の上に乗せた。

 ジークベルトが蓋をあけ、二人でそれを覗き込む。


「これは……指輪?」

「ああ、きっと父上と母上のものだと思う」


 そこに収まっていたのは、黄金の美しいペアリングだった。装飾はないものの、よく磨かれている。


「でも、国王陛下と王妃殿下は指輪をしていたはずですわ」

「確かに……じゃあ、お祖父様たちのものかな」


 しばらくじっと観察していたが、どちらともなく()()()()()()と、悪戯心が疼いた。


「すぐに返すんだし……ルミナ、左手を出して」


 言われるままに手を差し出すと、ジークベルトは箱から指輪を取り出し、アルミナの薬指に指輪をはめた。

 驚くべきことに、大人サイズだった指輪は、アルミナの指に通した途端、彼女の指のサイズにぴったり合うように変形した。


「えっ、どういうこと!?」


 驚くアルミナ。ジークベルトもまさかと思って、今度は自分の左の薬指に残っていた指輪をはめた。

 すると、やはり自分の指のサイズにぴったり合うように指輪の形が変わる。


「これ、もしかしなくても、魔法がかかってる?」


 魔法大国レティシア。別に魔法や魔道具の存在は珍しくない。子どもだって知っている。


「ねぇ、ジーク。これ、外れませんわ……」

「まさか!?」


 慌ててジークベルトも指輪を外そうとするが、びくともしない。

 魔法や魔道具は珍しくないが、それがもし呪われたものだとするならば、話は別だ。


「これってもしかして呪われた指輪だったりしませんわよね!?」

「ま、まさか! だって、呪物は王家が管理しているから簡単に外に出るものじゃ……」


 元々、この指輪はどこにあったか。

 国王の執務室にあったのではなかったか。


「ジークは、王家の人間でしたわね……」


 じとり、とアルミナに睨まれ、ジークベルトは縮こまる。


「ま、まだそうと決まったわけじゃない! 父上に相談してくる!!」


 遅れて誕生日パーティーにやってくることになっていた国王陛下ーーつまりは、ジークベルトの父親に、怒られることは覚悟して、指輪の件を打ち明ける。

 すると、しばらくして国王陛下と王妃殿下、そしてアルミナの両親までもが応接間へやってきて、国王夫妻とジークベルトが土下座するという、あってはならない事態に直面することになった。


「顔をあげてください、陛下!!」


 慌てて公爵が声をかけるものの、それを遮るように続いた陛下の言葉に驚愕した。


「その指輪は、王家に代々伝わる()()()()()()()!! 一度はめてしまったら最後、どちらかが死ぬまで指輪を外すことはできないのだ!!」


 それを聞いて、アルミナは絶叫する。


「そ、そんな話、聞いてませんわーー!!」

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