【1ー2】不思議な少女
さく、さく、と土を踏む音を聞きながら、優香はどんどん山奥に入っていく。
何故か優香は迷いのない足取りで山の中を歩けている。それはきっと、幼い頃1年間毎日通っていたからだろう。ローファーが土で汚れるのもかまわず、優香は歩き続けた。
木々をかき分け、開けたところに出る。
目の前には、記憶にある洋館。違うところといえば、絡みあう蔦が増えたことぐらいだろうか。
服についた葉っぱを指でつまみながら、優香は館に向かって歩き出す。
☆─☆─☆
(……あれ、は)
隅々まで張り巡らされた結界が誤作動を起こしたというので窓の外を見てみたら、懐かしい人影が見えた。
あぁ、この瞬間を何年待っていたことだろう。何度想像しただろう。
××に抗ってでも、彼女がここを訪れてくれることを、何百回、何千回、何万回と想像した。それが、現実となっている。
窓に手をついて、じっと外を見つめる。
少女の口角がムズムズと上がっていく。
そして、花が綻ぶように笑った。
(……やっと)
(………………やっと、来てくださった)
☆─☆─☆
さて、館の門の前に立ったはいいものの、優香は自分が何をしたかったのか曖昧になっていた。
ただの気まぐれで起こした行動。それに伴った感情はないと思っていたのに。
───酷く、この場所が懐かしく……離れがたい。
優香がじっと門を見つめながら立ち尽くしていると、キィィ……と何かが開く音がした。
ずっと開けられていなかった扉が、開くような音だ。優香は思わず門の先の玄関を見つめた。
そして、幼い頃のように見蕩れた。
流れるような銀髪に、神秘的な碧い瞳。緑を混ぜたような青色に、光が反射してキラキラと輝いている儚げな少女。
年齢は優香と同じくらいだろうか。
(……綺麗)
ぼーっと見蕩れていると、少女がこてん、と首を傾げた。訝しげられている。優香はハッと我に返り、ぶんぶんと頭を振った。
少女はそんな優香を見つめ、花が綻ぶように笑う。
「……こんにちは。また、来てくださったのですね」
ドクン、と胸が高鳴るのを感じた。
鼓動は段々と早くなっていき、思わず右手で胸を抑える。そうしないと、心臓が飛び出てきてしまうと本気で思ったのだ。
優香は衝動のまま、少女に手を伸ばす。門……鉄格子で遮られるが、かまうものか。
鉄格子の隙間から手を伸ばし、掠れた声で呟く。
「……君は……」
そう口から出た瞬間、ガンッと殴られたかのような痛みが頭に走った。
思わず頭を抱え、膝をつく。
ガンガンガンガンと連続で殴られるような激痛に、優香は思わず顔を歪ませた。
段々と力が抜けていく。
倒れる前に見た彼女の瞳は、涙の膜が薄くはられていた。
(…………"また"、私は君を泣かせてしまった)
そう最後に思い、優香は意識を手放した。