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美しき恋と滅亡を招く悪役令嬢の狂宴〜国民が悪役令嬢に虐殺されたので敵国の国民を虐殺したいと思います〜  作者: よねり


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 父が行商から帰ってきて、久しぶりに家族で食卓を囲んだ時、私はふと、父が以前言ったことを思い出した。

「ねえお父さん」

「何だい」

 父はヤギのミルクで作ったシチューにパンを浸して食べるのが好きだった。そうすると、父の髭にシチューがついて白髭になる。それをみて、子供の頃の私はよく笑ったものだった。

「前さ、お城で花嫁を探してるって言ってたじゃない」

 父はパンを咀嚼しながら中空を見上げた。

「そんなこと言ったかな」

「ほら、お母さんが、フィリップ王子と私が結婚したらって言ってたじゃない」

「ああ、あったね、そんなこと」

 母が声を上げる。父よりも母の方が声が大きい。この二人は、どんな風に出会って、どうして結婚したのだろうか。いつか聞いてみたい。

「ほら、お父さん。お城で花嫁候補を探してるって」

 そう言われて、やっと思い出したのか、父は手を打った。その仕草を見てリターを思い出す。

「そんなことあったなあ。それで、それがどうかしたのかい」

「あんた、やっぱりフィリップ王子と結婚したくなったのかい?」

 母がチャチャを入れる。

「違うよ。その話ってどうなったのかなと思って」

 父が考えるように天を仰いだ。

「そういえば、あれっきり話を聞いていないな」

「最近もまた、花嫁候補を探してるの?」

「いや、そんな話は聞かないなあ。どうしてだい?」

 ウナンシュテンの話はやはり虚言だったのだろうか。

「いや、学校時代の級友がお城にオーディションに行くって言ってたから」

「あら、そんなお友達がいたのかい」

「友達っていうか……まあ、バッタリあったのよ、昨日」

「そうなんだ。お父さんが知らないだけで、定期的にやっているのかもしれないな」

「その割に、フィリップ王子ったら浮いた話がひとつもないじゃないの」

「それもそうだな」

「昔っからフィリップ王子ったらね……」

 また、母の家庭教師時代の話が始まった。


「最近どうなのよ」

 カフェに着くなり、フレンダンが言った。噂話に飢えているときの切り出し方だ。

「どうって、どうもしないわ」

「最近、どうも物騒で噂が全然入ってこないのよね。つまんない」

「フレンダンは彼がいるじゃない。彼とはどうなったのよ」

 フレンダンは大きくため息をついた。

「そんなの、とっくに別れたわよ。思い出させないでちょうだい」

「えー。早くない?」

「そんなことないわよ。普通よ、普通」

 フレンダンはコーヒーにこれでもかというほど砂糖を入れながら言った。見ている方が具合が悪くなりそうな量だ。

「最近、なんだか物騒な話ばかりよね」

「それ、さっきもの言ったよ」

「だってさぁ、なんか戦争が起こるみたいな感じらしいわよ」

「戦争?」

 フィリップやリターのことが頭に浮かんだ。

「一体、どこと戦争するっていうの」

「わかんない。でもさ、なんだか物々しい雰囲気なのよ。お城もピリピリしてるしさ」

 フレンダンはコーヒーを一口啜ると、さらに砂糖を入れた。

「グロスアルティッヒ本国も戦争の準備をしてるみたいなのよ」

「それって、大事じゃないの」

「そうよ、大事よ。だから、あんたたちも、自警団とかいって遊んでる場合じゃないんじゃないの」

「別に遊んでるわけじゃないわよ」

 私は頬を膨らませた。フレンダンの真似である。

「じゃあ、最近のテロってどこかの国が仕掛けてるってこと?」

「さあね。国はそう思ってるんじゃないの」

 それが本当だとしたら、大変なことになるかもしれない。生まれて初めて戦争を体験するのだ。

「あれ?」

 フレンダンがカフェの外を見て声をあげた。

「なに?」

 彼女の視線の先を辿ると、奴隷が歩いていた。額の印から、王族が所持している奴隷に違いない。

「どうかした?」

 奴隷を凝視したまま固まったフレンダンの目の前で手を振る。彼女は、私の問いかけには答えず、カフェから飛び出して行った。

「ちょっと待ってよ」

 慌てて会計して彼女を追いかけると、フレンダンが奴隷の前で通せんぼしていた。

「何よ」

 声をかけると、フレンダンは奴隷を指差して言った。

「この子、ウナンシュテンよ」


「こんなことして大丈夫かな」

 私たちは、ウナンシュテンをフレンダンの家に連れて帰った。これでは誘拐である。城の奴隷を誘拐したのだから、罪に問われてしまうだろう。それでも良いとフレンダンは言った。

「だって、これって、噂が本当だったってことじゃない?」

 城で人間にトレパネーション手術を施して奴隷にするという話である。

「そうかな。この子だって、似てるだけかもしれないよ」

「そんなことないって。ほら」

 フレンダンは奴隷の腕をつかむと、袖を捲り上げる。そこにはほくろが三つ、三角形に並んでいた。

「これ、ウナンシュテンの腕にもあったもの」

「たまたまかもしれないし」

「だいたい、この顔見てわからない?」

 奴隷は髪の毛を剃られており、頭の形が丸わかりになる程ツルッとしていた。ウナンシュテンはくどいほどの巻き毛だったから、印象がまるで違う。それに、化粧を落とした顔も見たことがないので、それがウナンシュテンかと言われてもいまいちピンとこない。

「わかったわ」

 フレンダンはドレッサーから化粧品を持ってくると、ウナンシュテンに化粧を施してゆく。そして、化粧が終わると巻き毛のウイッグを被せた。

「ほら」

 たしかにウナシュテンだった。

「すごい。あなたすごいわね」

 フレンダンの化粧の技術に拍手したい気持ちだった。

「ほら、やっぱりそうじゃない。これは事件よ」

 フレンダンはウナンシュテンに鏡を見せた。

「ほら、あんた、ウナンシュテンでしょ」

 鏡を見た彼女は、最初は無反応だったが、やがて体を震わせ始めると叫び出した。私たちは慌てて彼女の体を抑えた。しばらくすると、彼女は大人しくなった。

「こんなことって……」

 私はフレンダンを見て言った。彼女は顎に手を当てて、何か考えているようだった。


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