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美しき恋と滅亡を招く悪役令嬢の狂宴〜国民が悪役令嬢に虐殺されたので敵国の国民を虐殺したいと思います〜  作者: よねり


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 家にたどり着くと、彼は私を乱暴に地面に投げ捨てた。

「もっと優しくしてくださいよ」

「うるせえ。重いのにここまで連れてきてやったんだ。感謝しろ」

 見上げて、初めて隊長の顔をこんなに近くで見た。フィリップ王子のような端麗な顔でも、リターのような精悍な顔つきでもなく、野生の動物のようだなと思った。もし、彼のことを知らずにいたら怖いと思うかもしれない。今にも噛みつきそうな雰囲気である。しかし、なんだか、キツネか狸のように見えて可愛いかもしれない。

 私は頭を振った。何を考えているんだ。もう、こんな風に色にボケることなんてやめたはずなのに。そうだ、少なくともクライネを救うまでは、恋をしている暇なんてないのだ。

 私は自警団に参加したけれど、実行部隊ではなくサポート部隊だ。だから、彼らとは治療の時だけしか交流がない。隊長はこんな性格だからみんなに恐れられていたし、少しくらいの怪我では治療に来なかった。だから、あまり彼のことを知らなかった。だから、知りたいと思った。もちろん、この先、自警団としてやって行くためだ。

「じゃあな。間抜け」

 彼が踵を返すと、地面に何か落ちた。血だった。

「あの、どこか怪我をしているんじゃあ……」

「あ?」

 隊長は振り返った。血が垂れた方の腕を見ると、かなり血が出ていた。よく見ると、服が裂け、その部分に裂傷ができていた。かなり大きな傷だ。こんな怪我をしたまま、私を背負ってきてくれたのか。

「痛くないんですか」

 私が言うと、隊長は裂けた腕を少し眺めて言った。

「まあ、別に」

 別にってことはないだろう。

 彼がそのまま行こうとしたので、私は慌てて言った。

「そのままにしていたら、腐って落ちますよ」

 隊長はピタリと足を止めた。

「やばいのか?」

 どうみたってやばいだろう。それくらい、隊長なんだから判断してくれと言いたかったが、機嫌を損ねたら嫌だなと思って言わなかった。

「治療しますから、寄って行ってください」

「お前みたいなやつにやってもらわなくても、舐めときゃ治る」

「ダメです。あなた方を治療するのが私の仕事ですから」

 私は隊長の腕を掴むと、家の中に入った。

「おい、やめろ」

 隊長は慌てて私の手を振り解いた。

「そこで待っていてください」

 私が救急箱を持ってくると、まだ隊長はそこにいてくれた。

「座って」

 まるで犬に命令しているみたいだった。隊長は少し迷ってから、玄関にあるスツールに座った。

「腕を出してください」

 私がいうと、彼はぶっきらぼうに腕を差し出した。玄関に血がポタポタ落ちる。

「服が邪魔だな……脱いでもらえますか」

 言うと、彼は「邪魔」の部分しか聞こえなかったのか、袖を引きちぎった。私は心の中で「え〜」と悲鳴をあげていた。

「思ったより酷いですね。ちょっと、こっちにきてください」

 まず傷口を洗わねばと思って、洗面所に連れて行こうと思ったが、彼はスツールに座ったまま動かない。

「隊長、こっちです」

「カピ」

「は?」

「俺の名前はカピだ」

 初めて知った。皆、隊長と呼んでいたから。

「わかりました。カピさん。こっちにきてください」

「さんはいらない」

 面倒な男だ。

「わかりましたから。カピ、こっち」

 また、犬に命令するみたいになってしまった。カピはのっそり立ち上がると、私の後についてきた。ひどく手間のかかる男だ。いったい、どんな人生を送ってきたのだろう。あの様子では、恋人どころか友達すらいないのではないか。いや、これは私が心配することじゃないか。

 カピの腕を洗うと、怪我をしていないところもずいぶん汚れていた。それに、ずいぶん臭った。

「カピ、最後にお風呂に入ったのはいつですか」

「さあ。雨が降った時じゃないかな」

「はあ? 雨を浴びるのは、シャワーとは違いますよ」

「じゃあ、わからん。覚えてない」

 なんてことだ。私は嫌がるカピを脱がした。

「ほら、手をどかしてください。私だって女学生じゃないんですから。こんなことで恥ずかしがりませんよ」

 カピは渋々服を脱ぐ。顕になった彼の体は、はっと息を呑むほど痛々しかった。身体中に傷があり、中には肉がえぐれている箇所もあった。

「ずいぶん、怪我をしてきたんですね」

 彼の体を洗いながら、話しかける。彼の体は岩のように硬かった。無駄な肉が一切ない。

「ガキの頃から戦場にいるからな」

「戦場? だって、この国は平和なのに」

 カピは振り返って私を睨んだ。

「何も知らねえんだな。この国がどんな犠牲の上に成り立ってんのか」

「犠牲……ですか?」

 カピは体を洗い終わるまで、もう口を開いてくれなかった。

 風呂から出てから腕を縫った。麻酔なんてなかったから、我慢してくれと言ったら、彼は縫っている間、ほとんど表情を変えなかった。さすが、噂に名高い実行部隊の暴力装置である。

「終わりましたよ」

 私が言うと、彼は長い吐息をついた。その時、痩せ我慢していたんだなと言うことに気づいた。さすがに、いかな屈強な兵士とて、針と糸で傷口を縫われて痛くないはずがない。

「悪いな」

 彼は縫った方の手を握ったり開いたりした。

 今のは感謝のつもりだろうか。これ以上は思考の迷宮に迷い込むので考えないことにした。

「あんまり動かさないでください。縫ったばかりなんですから」

 カピは動きを止めて腕を下ろした。

「それと、毎日消毒してください。傷口が塞がる頃に抜糸しますから、また来てくださいね」

「わかった」

 答えると、カピは玄関へ向かった。

「帰るんですか」

「ああ、もうここに用はない」

 変な男だ。つい、吹き出してしまった。

「何故笑う」

 カピが怒ったような顔をした。

「いいえ。今日は助けてくだすってありがとうございました」

「礼には及ばん」

 振り返らずに言うと、カピは帰って行った。

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