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美しき恋と滅亡を招く悪役令嬢の狂宴〜国民が悪役令嬢に虐殺されたので敵国の国民を虐殺したいと思います〜  作者: よねり


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 前庭では、先程よりも多くの人々が倒れていた。犠牲者がどんどん増えているらしい。

「どうして……」

 近くにいた修道士に尋ねた。

「何があったんです」

 修道士は顔を青くしてうずくまった。

「一度は回復したはずなのに……何故かまた苦しみ出したんです。それまで平気だった人たちまで」

「医師は」

 修道士は首を振った。修道院の医師も、医師学校を卒業して独立した医師もかけつけていた。彼らも修道士と同じように項垂れ、首を振るばかりだった。彼らは、口を揃えて、できることは全てやったと漏らした。

「一体何が起こっているの」

 頭をよぎったのは、最近周辺国で起こっている合成麻薬のことだ。しかし、聞いていた感じと違う。麻薬中毒者が街に溢れて、街の一角がスラム化しているという噂だった。城で貴族が毒のようなものにやられたなんてニュースはきいたことがなかった。

 つまり、それとこれは別の事件である。

 視界の端に、クライネとジジ王女たちが歩いてくるのが見えた。

「こちらに来ないで」

 私は声を張り上げて警告した。

「感染するかもしれない」

 私の警告が聞こえていないかのように、彼女らは歩みを緩めない。

 やがて、彼女らは近くで苦しんでいる人を見下ろした。口元を押さえているが、笑っているように見えた。

「近寄らないほうが良いです。王女様」

 ジジ王女はジロリと私を睨みつけるとキャッキャと笑った。

「大丈夫。私にこの毒は効かないから」

「毒? どうしてですか。何か知っているんですか」

 問い詰めるように尋ねると、ジジ王女は不機嫌そうな顔になった。

「うるさいわね、この平民は。つまらないこと言わないで。この毒は私が作ったからに決まっているじゃない」

「は……?」

 耳がおかしくなったのかと思った。今、彼女はなんといったーー?

「どうしてそんなこと……」

 絞り出すように言うと、ジジ王女はまるで害虫でも見るような目で私を見た。

「面白いからに決まってるじゃないの。貴方、お馬鹿さんね」

 怒りで息ができなくなった。苦しくて、その場にうずくまってしまう。

 クライネが私を見下ろしていた。

「クライネ……」

 必死に手を伸ばす。クライネに触れる瞬間、彼女はサッと身を翻した。

「さあて、ショーは終わったから帰りましょう」

「ショー? 人の命をなんだと思っているんですか。いくら偉いからって、こんなこと許されるとでも……」

「許されるに決まっているじゃないの。貴方、本当にお馬鹿さんなのね。私が誰かわかっているの?」

 ジジ王女はピカピカの革のブーツで、うずくまっている私の頭を蹴った。私は倒れ込んだ。

「無礼な口を利いていると、殺すわよ」

 耳元で囁くと、彼女は優雅に歩いていった。その後ろを、クライネがついてゆく。

「クライネ!」

 私の呼びかけに、彼女は振り返りもしなかった。

 私は這うようにして彼女を追いかけた。前庭を抜けたところで、彼女らは馬車に乗った。馬車から再び城を眺めると、ジジ王女は狂ったように笑った。

「ジジ!」

 数人の男女が、武器を手に追いかけてきた。きっと、先ほどの私とのやりとりを聞いていたのだろう。彼らはきっと毒にやられた人たちの遺族に違いない。

「主人を返して」

 女が叫んだ。

「私の娘も返せ」

 彼らは口々に恨みを口にした。

 ジジ王女は彼らを見下ろすと「ルル」と言った。すると、彼女の従者が馬車から降りた。その手には、短剣が握られていた。

 従者の女はボディガードだったのか。あまりにも麗しい見た目をしているので、荒事には向いていないように見えた。しかし、その考えはたった数秒で覆されることになった。

 目にも止まらぬ速さで、ルルと呼ばれた従者は、遺族たちを皆殺しにしたのだ。しかも、ただ殺しただけではない。見たものが一人残らず、吐き気を催すような、残忍な殺し方だ。すでに死んでいるのに、内臓を引き摺り出し、性器を切り取り、それらを口に突っ込んだ。

 その様子を見て、ジジ王女は再び笑った。息ができないほどに激しく。

 イカれている。彼女らに人間の心はないのか。

 ルルが戻ってくると、ジジ王女は彼女の頭を掴んでキスをした。彼女らはお互いの舌を強烈に絡み付けて、お互いを食い合っているかのように貪った。ルルの手は血に塗れていて、ジジ王女の顔を赤く染めた。それを手につけて、ジジ王女はルルの顔に塗る。そうしてキスをした。

 醜悪だった。私には彼女らが人間ではない何かに見えた。口元を蠢く舌は意思を持っているかのように不規則に、醜怪に、下品に、低劣に、卑猥に、浅ましく見えた。

 あとからやってきた復讐者たちは、無惨な殺され方と、彼女らの狂った姿を見て、戦意を喪失したらしい。それほどまでに、ルルの殺し方は残虐だった。

 ようやく長いキスが終わると、ジジ王女はルルの手についた血を綺麗に舐めとった。その口に、再びルルがキスをする。

 ああ、狂っているーー。彼女らは狂っている。私は初めて、グロスアルティッヒ連合国という国家の歪みを感じた。

 私はなすすべなく、その場にへたり込んでいた。手をつくと、そこは血溜まりだった。急に、血と臓物と汚物の臭いが鼻についた。

 込み上げてくる嘔吐感に抗う前に嘔吐していた。胃が、食道が熱い。苦しくて息を吸うと、また臭気が私の鼻を攻撃する。胃の中が空っぽになっても許してはくれなかった。

 ようやく嘔吐が収まる。顔を上げると、ジジ王女がこちらを見てニヤついていた。彼女は楽しんでいるのだ。人が苦しんでいる姿を見るのが好きなのだ。

 遠くから重い足音が聞こえてきた。あの足音は騎士だ。甲冑が石畳を踏みつける音。

「リター」

 先頭にリターの姿が見えた。彼は一瞬、私のことがわからなかったようだが、呼びかけると驚いた顔をした。

「どうしてここに?」

 彼は私を助け起こすように、背中に手を添えた。

「毒の被害者がいるってきいて、慌てて薬を持って駆けつけたの」

「なるほど。君は薬師だったね」

「それより、みんなを毒殺したのはあの人よ」

 私が指をさした方向を、リターは見た。

「おい、リター。どうした」

 聞き覚えのある声だ。あの声はーー。

「フィリップ王子」

 呼びかけると、彼もリターと同じように驚いた顔をした。

「どうしてこんなところに」

 言うことも同じだ。騎士というのは、そういうテンプレートみたいなものを覚えさせられるものなのだろうか。

「そんなことより……」

 私が指をさすと、フィリップはジジ王女の方を向いた。ジジ王女は、不快そうな顔で、フィリップを見下ろしていた。

「ジジ王女。ああ、愛しの我が君」

 まるで歌うように、フィリップは彼女に近づいた。

「ねえ、その人はみんなを殺したのよ。毒で殺したの」

 私が必死に訴えるが、フィリップの耳には届いていないようだった。馬車の前に跪いて、必死に何か愛の言葉を投げかけている。こんな血生臭い場所で、狂った姿の女を相手に。

 やはり、王族というのはみんな狂っているのだろうか。

「ねえ、リター」

 声を掛けるが、リターは答えなかった。私を抱き上げると、門の外へ運ぼうとした。

「いや、やめて。クライネが馬車に乗っているのよ。私、彼女を助けないと」

 ボカボカ殴ったが、リターの足は止まらない。

「あの女を逮捕してよ。殺人犯よ」

 まるで私の声なんて聞こえないみたいに、リターは無反応だった。

 やがて、門の外にたどり着くと、リターは優しく私を地面に下ろした。

「一人で帰れる?」

 無理だと言ったら、一緒に帰ってくれるのーーなんて可愛げのあることを、言えるような女ではなかった。

 私は立ち上がると、リターを睨みつけた。いつものような、優しげな笑顔は見せてくれなかった。無表情で、無感情な顔をしていた。城の中へ戻ろうとするのを阻止するように、私の前に立ち塞がっていた。

 私は諦めて彼に背を向けた。体がひどく痛かった。

「すまない」

 背後から、普段の彼からは考えられないような小さい声がきこえた。

 私は振り返らなかった。


 悔しかった。自分が上手くやれなかったことでも、ジジ王女の馬鹿にしたような態度に負けてしまったことでもない。

 クライネのことだ。どうして、彼女のことをもっと気遣ってあげられなかったのだろう。

 全てをうまく行かせようとして、私は全てを無くしてしまった。

 どうしてこんなにうまく行かないのか。

 私の次の目標が決まった。

 クライネを助けにいくことだ。

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