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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

わたしのルシル

作者: 生姜

わたしとルシルのお話。


貴方の存在に救われました。

貴方の笑顔に私も笑顔が溢れました。

貴方の温もりも匂いも忘れたくありません。


貴方と過ごした日々はとても輝き続けています。


貴方がいなければ、私は愛を知らなかったでしょう。


貴方に愛され、私は愛の存在を知ることができました。


貴方が私の全てです。


いつまでも愛しています。


辛い時寄り添ってくれてありがとう。


悲しみも喜びも怒りも沢山のことを貴方と経験出来ました。


だいすきよ、あいしてる。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ずっと一緒にいられると思ってた。


当たり前の存在だと、ずっとずっとこの幸せが続くのだと決め込んでいた。


楽観的だった。


今、たらればを考えても貴方は戻ってこないもの…



病気を知ったのはわたしが専門学生の時。


姉が里帰り出産をするのに母の住んでいる家に帰っている時のこと。


「なんか、ルシル痙攣してたよ」


と最初は言葉で伝えられていた。

私はどうせルシルが足をつってビクリとしていたくらいだろうと思っていた。


考えを改めたのは動画が送られてきてから。


痙攣、どころではなかった。


バタリ横に倒れ、手足をバタつかせ、もがいているルシルの動画を見てからだった。


授業の休み時間に見てはダメだった。


わたしは激しく動揺し、涙が止まらなかった…


その日の授業の内容など頭に入ってはこなかった。




今思えば、あの小さい身体にどれだけのものを背負わせていたのだろうと後悔しても足りないくらいだ。


ルシルの病気が発覚する2年前、両親が離婚した。


その1年後に、母が住んでいた家から出た。


ルシルは保健所からもらってきた犬。

元々は捨てられていた子。

全てが狂い出したのは私の発言。

老犬にとっての新しい環境、家が変わることがどれほどのストレスなのか…私は全く理解をしていかなかった。


自分のことばかりで、ルシルの負担を何も考えていなかった。


犬を飼いたいと言ったのは母。

散歩とかお世話はするからとルシルを父と一緒にいらせるのか、ルシルを捨てる事と一緒なのでは…

ルシルのことが大切なら一緒にいるべきだと


言わなければよかったのかもしれない。


母とルシルが、一緒に引っ越して半年経った頃。

酷い雷雨の日だった。

私は学校の長期休暇が終わり、また遠方へ。

母は仕事。


ルシルが1人でお留守番をしてる日だった。


今まで住んでいた家と環境が違い、1人でどれだけの恐怖だったろうか。


ルシルがいなくなっていた。


ルシルは真っ黒な中型犬。


首輪がスッポリと抜け、どこにもいなくなっていた。


首輪を付けていない黒い犬が犬を飼っていない人からしたらどれほど怖いことか。


最初は近所のお家の玄関に入り勝手に座りこんでいたらしい。(想像しただけでも可愛いルシル…)


近所の人はたまったもんじゃ無い。

首輪もつけていない、まぁそこそこデカい黒い犬が居たら私もちょっとビックリするもの。


うちの玄関に座っていたけれど、追い出したわ。


と母は言われたらしい。


母は首輪とリードを持って自転車を漕いでずっと探していた。


その日のうちにルシが見つかってどれほど安心したことか。


夜に、その日の一連の話を聞いてどれ程ビビり散らしたことか。


み、見つかって本当によかった…


私は即帰れる距離には居ない。

田舎から都会の専門学校だから。

新幹線と電車を乗り継いでも片道5時間。

飛行機で帰っても4時間はかかる。


その一件があって数ヶ月後の事。


姉が安定期に入り、里帰り出産するのに母の家に帰っていた時の事。

姉は1日をルシルと過ごす。

だから早く気づけたのかもしれないけれど。


姉も私も普段から沢山ルシルの写真を撮る。

動画も連写もめちゃめちゃする。


送り合ったり、ビデオ通話してルシルを見たり…


電話してる時に言われた。


「ねぇ、今日のお昼くらいにルシが痙攣してたよ。」


「痙攣??足でもつってたの?あんまり酷い様なら病院に行ったほうがいいよ。」


「結構ビクンビクンしてた。」


姉の語彙力の無さと、私の楽観的な考え方をこれほどまで悔いたことはない。


次の日またなってたら動画撮って送ってよって言って電話が終わった。




次の日の授業中に姉から動画が送られてきた。


いつも連絡をとっているから友達にも姉妹仲良いよねって言われながら。


動画を見た。


そこには横たわりビクビクと痙攣しながらもがいているルシがいた。ヨダレも垂れ流しながら、目を見開き口をハクハクとしているルシが送られてきた。


何が起こっているのか理解ができなかった。


嘘でしょ…


ナニコレ…


ルシ…死なないよね?


自然と涙が止まらなかった。

次の授業に来た先生もギョッとしてた。

それでも周りも気にすることができず、泣いていた。

私が泣いても何も解決しないのに。


病院の先生にも動画を見せたと言っていた。


てんかんだと。


でもこの病気で死ぬことはないって言われた。

発作の時に頭をぶつけたり高いところから落ちちゃったりして骨折したり、あたり場所が悪ければ亡くなったり…

と言われたらしい。

ルシの発作は結構激しいみたいで、発作中のルシは記憶は無いらしい。


だからなんで自分がヨダレまみれなのかとか…

身体痛いなぁとかなんでなんだろうってなるみたい。


発作中は触らない様に、と病院の先生に言われた。

食いしばりや粗相もしてしまう。


飼い主が噛まれない様に気をつけてね、と言っていた。


発作を抑える薬も貰った。


てんかんの原因は脳に腫瘍があったりだとか、精神的なものだったりとか精密検査をしてみないとわからないと言っていた。


精密検査の全身麻酔は犬にとってあまり良く無い。


ルシはもう若くも無いし、麻酔や手術に耐えられる体力があまり無いかもしれない。


それか入院をして点滴生活になると言われた。


入院にしたら発作が起こらない様、朦朧とした意識の中生活していく形になると告げられた。


そんなの生きてるって言えるのかな…


ルシはそれを望むのかな…


我々人間のエゴで延命するべきなのか、とか沢山考えた。私の一存では決められないから皆んなでも話し合った。


取り敢えずは薬で抑えようって。


ルシのことが気になりすぎて、就活どころでは無かった。


取り敢えず帰らなきゃ。

地元で適当に職を探さなきゃ…って。

私は地元に戻ったことは一切後悔していない。


ルシを看取るんだって。


自分の夢はその後でも追えるからって。


自分の夢なんかよりルシと少しでも長く一緒にいたかったから。発作の薬代も結構高いし。


ルシのためなら全然構わないもの。

ルシの代わりになるものなんて何も無い。


ただ帰ろう。

ルシとの時間を大切にしたいと。


卒業して就職するまでの約半月ほど、

ルシとのんびり過ごすことができた。


姉も無事に出産し、子供が安定するまではいると言っていた。


「ルシ臭いねぇ、お風呂入ろっか!」


ルシはお風呂大嫌いだもの。


浴槽にルシを入れてシャワーをかけてゴシゴシ洗ってた。

姉もサポートで手伝ってくれた。

ルシはいやー、いやー!って鳴いてた。

すぐ諦めてたけど。


ルシは置いていかれるのがトラウマ。


姉は子供が泣き出したから途中退場したら、ルシはもうパニックで。

すごく暴れて泣き叫んで…


わたしもいるよルシ…

大丈夫戻ってくるよって声かけてた。


本当は2回くらいシャンプーしたかったけど一回でやめて、しっかりと泡を流してルシを拭いた。


お風呂は嫌いだけど、拭かれるのは大好きで。

雨の日もバスタオル持って広げたら突進してくるくらい。

ゴシゴシ拭いてあげた。


ルシは本当に可愛いなぁ。


毛の生え替わり時期で、袋を持ってルシの毛をむしってた。ルシは黒色だけど生え替わりの時は浮いてなのかグレーぽくなっててそこを中心にむしり取ってた。

ルシはされるがまま。


ブラッシングもしてツヤツヤになって。


「ルシはイケメンね、素敵だわ。

私と結婚してよ」 


割と本気でプロポーズしてた。


だってルシだもの。


眼球に入れたって痛いけどルシなら平気だもの。


可愛いなぁ。


ルシと日向ぼっこする事も。

散歩行く事も。

一緒に遊ぶ事も。

時には物壊しちゃったり…

ルシが怪我しそうになってヒヤヒヤしたり、

ちゃんと見てなくて盗み食いしたり、

ルシと一緒に怒られたり…

並んでお昼寝したり。


帰ってきてよかったって。

こんなにも幸せだった。


でも現実は残酷で。


ルシはお風呂がストレスだったのか、夜に発作がでた。

粗相しちゃって体が尿まみれだった。


「ルシ…今日お風呂入ったばかりなのに…

ごめん、ごめんねルシ。嫌だったよね。怖かったもんね。」


もう一度お風呂場でお湯だけかけて拭いた。


なんでルシばかりこんなに辛い目に遭わなければならないのだろうか…

私が代わってあげたい。


ルシのいるスペースは四方クッションを置いていてぶつかっても大丈夫にしてある。

床も板を敷いてフラットにもしたし、そこでルシと並んで寝るのも好きだった。


ルシは私の精神安定剤。


仕事が始まるまで、ルシと長く過ごせる。


朝起きてルシと散歩行って、春だから公園に咲いてある桜をバックにルシの写真を連写したり。


下からアングルでよく撮ってたり結構変な体勢で写真撮ってたから、側から見ると犬の写真撮影に力入れすぎな人。

いいよね…

だってルシ可愛いんだもの。


写真に映るルシも呆れ顔。

また僕を撮ってるのか、と。

早くしてよ、僕黒いから日向はちょっと暑いよ。って

眩しそうな顔してた。


ルシは本当に天使だわ。


太陽の光を上手く利用して、ルシに後光が差してるみたいに撮るのが好きだった。


お昼はルシとお庭で日向ぼっこ。


ルシ、ルシは本当に可愛いねぇ。

結婚しよう。


たまにお母さんの仕事を朝車で送って、帰りにルシも車に乗せて一緒に迎えに行ったり。


夕方皆んなでお散歩したり。


ルシのご飯中つんつんしたり、ガン見したり。

ルシはご飯中何しても怒らない子だったから、撫で回したりしてた。邪魔だよって困った顔してた。


私がお風呂入る前にルシと遊んだり。

お湯が貯まるまでルシの所で寝転んでたり。


お風呂場からルシがいる所が丸見えだったから、

裸見られて毎回きゃっ!ルシのえっち。って言ってた。

ていうかみんな言ってた。


毎日毎日、ルシの写真たくさん撮ってた。


ルシの発作は治らない。


薬が強いのか、発作の後はフラフラしたり、体に力が入らないみたいだった。


ヨダレで顔の毛カピカピだったし。


それでもルシは可愛いの。


薬飲んでから、ハイになってるルシも可愛いの。


ルシが元気ならそれでいいもの。


病院で体重が増えると薬の効果が薄れるって言われて、体重も気にし出した。

でも痩せすぎも良く無いからねって。

体重管理とっても難しいのに。


ルシの発作の時は動画で撮って病院の先生に見せてた。

薬が体に異常をもたらしていないか検査したり。


どんどん量は増えて行った。


これ以上は増やさない。と遅効性の液体の薬も増えた。

薬代も3万円ギリいかないくらいまで増えていた。


自分の生活なんて最低限でいい。


ルシが生きて居てくれるなら。



私は仕事が始まった。


結構な肉体労働で、接客でもあるし初日から大変だった。

初日から辞めたかったもの。


合わない職場の代表だった。


泣きながら帰り、ルシの所でお風呂の時間まで寝て。

ルシは隣で寄り添って寝てくれてた。

それだけでどれ程救われてきたか。


「ルシぃ…」


仕事なんて全然楽しくなかった。

でもルシがいるから頑張れた。


接客は好き。

でも社員や社長の考え方がどうしても気に入らなかった。


なんで社長のくせに聞こえるように悪口を言ってくるのか。

私じゃなくて教えてくれる人を何故怒るのか。


私は影でコソコソされるより直接言われる方がいい。


だって私弱く無いもの。


遠回しにじわじわ攻撃される方が苦痛だった。

総合してみんな嫌いだったけれど。


ルシとの生活はそれでも幸せだった。

朝起きて散歩して、出社して即帰ってルシの散歩して。


夢の中でも働いてて、プライベートでもすれ違う人に

いらっしゃいませって言いそうになってて。

精神的に無理だった。


だから一ヶ月で辞めた。


中々濃厚な一ヶ月だった。


それから1月は就活してた。


ルシと過ごす時間が増えて嬉しかったけれど。

生活は苦しかった。


5/26

ルシのお誕生日。


ペットも食べれるケーキをお店に頼んで

夜ご飯の時、ルシにあげた。


イチゴは嫌いみたいで食べてくれなかったけど。

鼻に生クリームついてるルシは、

史上最強に可愛かった。

本当に天使。


姉が持ってる一眼で写真を撮ったり。

幸せな1日でした。


暑いから冷房のついている部屋でルシと添い寝したり。


ルシと過ごす毎日が輝いて居た。


ルシに私が腕枕したり、上目遣いで見てくるルシ飛ぶほど可愛かった。


置いている姿見に映る自分が不思議だったのか、鏡の後ろ側に回ってたりどうなってるの?って顔してて可愛かったなぁ。


夜、寝てる時もルシのいる所に耳を澄ましていた。

いつ発作が起こるかわからないから。


ルシの発作は様々だった。


バタバタと激しくもがいたり、

全身に力が入り、硬直し震えていたり。


ガシャンっ!!!!とお水が入っている器が

ひっくり返る音が聞こえたり。


散歩中発作が起きたり。


散歩中ほど危険なことはない。

怪我しないように細心の注意を払う。

頭をぶつけないように。

ルシが怪我しないように。


お水でびっしょりしていようが、

オシッコまみれになっていようが、

うんちしてうんち踏んでいようが。


ルシが生きているならなんでもよかった。


私は無事仕事も見つかり、元々住んでいた実家から父が家を出た。


「ルシ、よかったねぇ。前の家に戻れるよ。帰ろうルシ。」


引っ越しは新しい会社の人たちが手伝ってくれた。


「ルシ、帰って来れたね。

これからはお家の中で一緒にいられるね」


引っ越しの日、お昼ご飯食べ終わった時。

人の多さやらでストレスだったのか、

会社の人たちの前で発作が起きた。


みんな言葉を失っていた。


会社の外国人の力持ちの人も何人か引っ越しを手伝ってくれていた。

その人たちも驚いていて。


「死ンダカ?」


「ううん、死なないよ。病気なの。」


うんちもしてたから爆速で拾って。

ルシがヨダレまみれでぐったりしてたから、

タオルで拭いて。

オムツ変えて。


会社の人たちに謝った。

急に発作を目の当たりにして驚いただろうし、

不快な人もいたかもしれない。


でも、そんなの気にするなって言ってくれた。

なんて優しい人たちだろうか。


それからは、母、ルシ、わたしの生活が始まった。


ルシは夜寝る時は私のベッドで一緒に寝た。

ルシは布団の中には入って来なかったから。

そのまま布団の上に丸まっていた。


いくらダブルベッドといってもど真ん中に丸まられたら私は動けないから。

寝相もルシのおかげで改善された。


寝起きで発作が起きた時はビビり散らしたけど。


ルシは13歳。


一緒に過ごしているほんの数ヶ月で、ベッドに上がらなくなり、散歩の距離も短くなった。


足取りもフラフラとし、散歩中にトイレをしなくなった。


仕事が変わって朝が早くなった。

5時に起き、ルシの散歩に行ってから準備をする。


フラフラしたり、座り込んでしまうから抱えて全力疾走して帰ったり。


ルシの準備をして、ご飯あげて。

自分もご飯食べて、化粧して。


バタバタと大変な時間だった。


ルシはどんどん老いていっていた。


ご飯食べるのもゆっくりだし、日中は発作が起きていて、帰るとうんちまみれだったり。オシッコまみれだったり。


土日とか祝日は、母は彼氏の家に行っていなかったからルシとずっといた。

中々ご飯食べてくれなくて。

お散歩でもトイレしてくれなくて。


それでも発作は治らない。


ルシの方が絶対辛いのに。


「ルシ、早く食べて。お願い、ルシと過ごす時間ををもう少しだけ下さい。」


悲しいよ。

どうしてるしなんだろう。


ただの老犬とは違う。


薬のせいなのか。



全ては私のせい。


ストレスも溜まっていく。

朝もご飯を中々食べてくれないから、量を減らしたり。

お母さんに時間ないから後はあげてて。とか言ったり。


自分のことも手一杯だった。


ルシが亡くなる1週間前。


もう自力では歩けていなかった。


尻尾持ってたり、支えたりしてなんとか歩いていたルシが。

自力で広い座敷を回っていた。


「ルシ!歩けたねぇ、偉いね!!」


とても嬉しかった。


その日はルシルを抱えてお庭で日向ぼっこをした。


それが最後の日向ぼっこと知らずに…


「ルシ、今日はとっても良い天気だねぇ。」


ルシは静かに寝ていた。


良く寝るようになった。

あまりに寝てるから死んだのでは、と怖くなり鼻先に手を当てて呼吸してるかとか。

瞼を引っ張って目を見たり、白目剥いててホッとしたり。

寝てる時、動物は白目剥いてるから。


仕事から帰って、ルシの所で膝枕をし、ポンポンとゆっくり撫でていたらすぐ寝たり。

ルシの睡眠がだんだんと増えていた。


その日の夜、ルシが泣いていた。

掠れた声で…

私たちに何かを伝えるように…

遠吠えの様な泣き方で…


私も母も姉も、涙が止まらなかった。


まだ、お願いだから死なないで。と



焦りを感じながらも1週間生活をしていた。


ルシはもう長くはないかもしれない、と姉に言い。

実家に帰ってきていた。


ルシが亡くなる日。


どうしても仕事に行きたくなかった。

朝ルシルはまだ浅いが息をしていた。


「ルシル、仕事行ってくるから待っててね。」


その日の出社中、魂が引き裂かれる思いで車の運転をしていた。怖い、怖いよ。

何度途中で仕事から帰ろうとしたことか。



10時ごろ仕事中、母から電話が来た。

1番聞きたくなかったこと。

泣きながらルシルが亡くなったと告げられた。

母は出勤したが、怖くなってやっぱり帰ったと言っていた。


だが、ルシルを看取ることは出来なかったと言っていた。


「ルシっまだ温かいけどっ、もう息してないの…」



私は元々14時に上がる予定だった。


上司にも犬が亡くなったことを告げ、

帰る?って聞かれたけど14時までは仕事をした。


殆ど手につかなかったけれど。


涙を抑える事に必死だった。


そっとしてくれる環境でよかった。

下手にに慰められでもしたら、なんとか保っていた心が壊れてしまいそうだった。


帰りにお花屋さんに寄って帰った。


青いデルフィニウムと

白いレースフラワーを買って。


春らしい花で。

ルシは男の子だから青いお花を。


押し花とイラストを描いている人に、

ルシの笑顔だった写真を送って描いてもらった。


まだまだ泣かないと…

ルシに早く会いたくて急いで帰った。



家につき急いでリビングへ行ったら、

横たわるルシ。


母は泣いていた。

姉も泣いていた。


そっと花を置き、ルシルの頬を撫でた。


「ルシっ………看取ってあげられなくてごめんねっ」


グズグズと鼻水が止まらなかった。



それ以上に涙も止まらなかった。

とめどなく溢れる。


ルシに顔を寄せ、泣きじゃくる。


「ルシっ、ルシ!……あぁああああっ!!!」


ごめんね、が1番だった。


ルシはこんなにも細かったのだろうか…

こんなにも小さかっただろうか…


ごめんねルシ。


朝、仕事休めばよかった。


貴方がいなければ…

私はどうすればいいのかわからない。


ルシの火葬は明日。


今日はルシの隣で布団を敷いて寝る。


最後の夜。


ルシの足はもう冷たかった。




ルシと過ごす最期の日。

とてもいい天気だった。


暖かく春の日差しが優しく照らす。


ルシの火葬まだまだ時間がある。


黒いワンピースに袖を通す。


「ルシ、私と最期の散歩に行こう。」


ルシをブランケットに包み、

抱えて公園へ行った。


母も一緒に。

母に写真を撮る様にお願いした。


途中で公園に咲いてある雪柳をお母さんが

少し折ってルシルの頭に乗せていた。


「ルシ、可愛いよ。綺麗だよっ」


母も私も、何をするにしても涙が溢れた。


近所のおばさま達にも会った。


「…あら、ルシくん最期の散歩なのね。一緒に散歩したの覚えてる?」


と涙を流しながらルシの頭を撫でてくれた。


ルシル、こんなにも貴方はみんなに大切に

愛されていたんだよ。


悲しい事に、時間は止まってくれない。


家へ、帰り着いた。



「ルシ、帰り着いたよ。いい天気だったね。おばさま達にも最期に会えたね。」




帰り着いて、火葬場に行く準備をした。


ペットの火葬場は家から車で30分程。

それは山奥にある。


途中から一本道になった。


早咲きの桜が満開になって道を

色鮮やかに暖かく染めていた。


「ルシ…お花がとっても綺麗だよ。

いい天気だし、お花も綺麗だし素敵だよ。」


泣きながらルシに話した。


ルシを抱いていられるのもこれが最期。


ルシの香りも、もう今後嗅げない。


もふもふしたルシも最期。




最後のドライブも呆気なく、到着してしまった。


最期に思い切りルシを抱きしめた。


ルシを準備されていた台に乗せた。


手続きをし、お経が唱えられる。


ルシは13歳だった。



ルシを火葬する前の最後の挨拶。


枕花で、デルフィニウムとレースフラワーを

ルシが抱きしめる様に置いた。


みんな最期に、

ルシルを撫でたり、顔を寄せたりした。



ルシは元気な時は18キロの筋肉質な犬だった。


最後の体重は、わずか12キロほどで…




みんなの大切な大切なルシル。


13年間、貴方は楽しく過ごせましたか?

私の家に来て、幸せでしたか?



ルシル、私の家族になってくれてありがとう。

私を大切にしてくれてありがとう。

私を愛してくれてありがとう。

辛い時、寄り添ってくれてありがとう。

一緒に添い寝してくれてありがとう。

日向ぼっこしてくれて、ありがとう。


もっともっと、ルシとの思い出をたくさん作りたかった。


社会人になって、車も持ってルシとどこに出かけよう。

どこに遊びに行こうって考えるのとても楽しかった。


叶わなかったけれど。



貴方と過ごせて私は幸せでした。

本当の意味で、愛される事を知りました。

不甲斐ない貴方の姉でごめんね。

楽しさを教えてくれてありがとう。

たくさんの思い出を分かち合えてとても幸せよ。


ルシがいなければ私はこんなにも素敵な事を知らずに生きていたでしょう。


貴方より尊いものはありません。

貴方より大切なものなど存在しません。

家に帰るのも、貴方の存在があったからです。

あいしています。

だいすきです。




火葬のボタンを押して下さい、と言われた。


なんて残酷なのだろう。

3人で一緒に押した。


みんな、泣きながら。


ルシル、ルシル…ルシル…………




ずっとずっと、だいすきよ。


ルシが私の全て。





次に見たルシは、小さい白い骨となっていた。


納骨するのにも、手が震えて仕方が無かった。








ルシを失って、生きてる意味がわからなくなった。


だって、ルシがいないもの。


こんなにも世界は、色褪せていたのか。


ルシがいないから、色褪せてしまったのか。


仕事では、何とか言葉を話せていたが、


家に帰ってからは…


言葉が出なかった。


喋れなかった。


出勤中も、帰りの運転中も、

涙が溢れて止まらなかった。


ずっとずっと泣いていた。


いとこの家にも呼ばれたりましたが、行く気になれなくて全部断った。


みんなの誘いを全て断っていた。


何も手につかない。


ただ仕事をするだけの廃人になっていた。



ルシのいない生活。



ルシの使っていた道具。


ルシの痕跡。


ルシと過ごしたカケラ。


家の中に沢山あって…………


私の日常全てにルシルがいた。



ルシの使っていた毛布とかリードとかクッションを

片付けるのにも涙が溢れた。


それ以上に、全てだった。



ルシル…


捨てないで…


嫌わないで…


私を置いていかないでっ……………


だいすきよ…


私をひとりにしないで…


もっともっと貴方といたかった…


ルシル、ルシル…



数ヶ月たち、母が家を出た。


ルシ、わたし1人になっちゃった。


以前、母が酒に酔いながいわれた一言がずっと私の胸に深く突き刺さった。


「あんたのせいでっ!

あんたがルシにご飯あげないから!!!

あんたのせいでルシルが死んだのよっ!!!」



そう、だったのか。


ルシは寿命で亡くなったのではなく、

わたしが殺したのか。


ごめん、ごめんねルシ。


私のせいなのね。


私が1番大切で愛おしくて、

なにものにも変えられない存在を

自分の手で終わらせてしまったのか。



私はもう、自分自身ですら許せない。


自分の事しか考えられない自分に

何の価値もない。

私にはルシを殺した罪がある。


償いきれない。


だってルシは帰ってこないもの。



ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい







ごめんなさい、ルシル。


貴方がいなければ


私が生きている価値などないのよ。


私の生きる全て。


貴方のいない世界はとても残酷で。


とても色褪せていて。


貴方以外、わたしを愛してくれる存在はいないのだと痛感した。


貴方と過ごした日々はキラキラと輝いていて。


眩しくて。


愛おしくて。


心の底からしあわせでした。



だから近い未来、貴方に再び会える事を祈ります。


貴方のそばに行くことが私の願いです。


待っていてわたしのルシル。


貴方だけを愛してる。



[完]


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