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夜影の狩人 中

「始まった!? くそっ・・・待ってろよ」

 機内で少年――月丘シンゲツ(つきおか)は苦悩た。それは、増援を要請した機械化機動隊部隊が作戦を強行したからだ。

 敵SFはファントム。世界二分戦争終戦数か月前に、実戦投入されたSF。量産性を少し犠牲し、性能を向上させたSFだ。日本が国土防衛を目的に独自開発した横綱とは性能差はひどいほど差がある。そして、横綱の分厚い装甲があるが、それは戦況を大きく左右するものとは言えない。

「始まったの?」

 少女――月丘ツキカは兄、シンゲツの“心の中”を即、理解した。

 この二人は実の兄妹きょうだいで双子で、記録上では『人類初双子のテスタメント』と記録されている。

「どうかした?」

 二人目の少年――塔内初とうないはじめが尋ねる。

 遅い夕食がわりの軍隊食レーションを手にしていた。ちなみに、味はほとんどない。多くの兵士はまずい、と言う。

「・・・それ、ホント?」

 膝の上に広げた本から目を離し、三人を見る。

 いつも無表示で、静かな少女――りん・ライネスの目に表情があった。

 この4人は全員同い年の17歳だ。それぞれ、掻き消したい過去を持っち、戦う事を選んだ若き兵士だ。

「史実だ」

「・・・そう・・・・・・」

 無機質に言葉を発する。

「機長さん、もっと速く飛べませんか?」

 初が尋ねる。

「腹に4機のSFを抱えてるんだ。これ以上はエンジンが燃えちまう」

「そうですか・・・・」

「さて、どうすか・・・」

 シンゲツが腕を組み考え始める。

「何を?」

「作戦だよね。シンゲツ」

「・・・狙撃はまかせて・・・まとは外さない・・・・」

 凜が言う。

 凛はこの四人で狙撃に関して天才的なスナイパーだ。スナイパーにはC、B、A、Sとランクがあり、Sクラススナイパーは、狙った獲物は逃がさない。かなりの高い確率で的に直撃させる。凛そのSクラススナイパーだ。

「後方支援は任せた」

「・・・」

 軽く頷く。

「あたしたちはどうしよっか?」

「ん~・・・」

「単純に暴れるか」

 単純に暴れる。作戦と呼ぶには程遠い作戦だ。が、4機のSFで相手することになる。数は敵が上。数の差では敵が有利と言える。しかし、その数の差を覆す事が出来る機体がこの輸送機に乗っているSFだ。

「作戦? それ」

「作戦とは言えないけど、一番いい手だね」

「・・・あの“機体”ならできる」

「決まりだな。テキトーに暴れる。これが作戦だ」




 作戦開始30分が過ぎた。第2分隊が先々攻撃により、敵は混乱。第2分隊に敵戦力集中。作戦通りだ。これで、第1分隊が動ける。

(行動開始するぞ)

 裕緒が内心で言葉を発した。それは、ナノマシンで隊員全員の脳裏に信号として聞こえる。

『『『『了解』』』』

 裕緒が言うと、機械に声を通した声で数十人が応答した。

 裕緒がドアの前に立ち、ドアノブに捻る。ゆっくりと開くドアを蹴り開け、中に突入。裕緒が突入後、うしろに控えていた第1分隊全員が突入した。

 中は暗闇だった。ヘッドマウントディスプレイが暗観モードに変更され、まわりがクリアーになる。

 敵はいない。

(先に進むぞ。周囲警戒を怠るな)

 肩に突撃銃のストックを当て、スコープを覗きながら、先に進んでいく。周囲を警戒しながら。

 50メートルほど進むと人を目視。それは、人質かと思われたが、違う。

『ヒロー、敵さんだ。数は・・・』

 レイエスが確認した。それは、敵だった。

 敵もパワードスーツを着ている。

 パワードスーツの性能差は敵の方が上。突撃銃や肩撃ちロケット弾を装備。

 目標である人質は確認できない。

(多いな。数は・・・)

 ヘッドマウントディスプレイが数を数えはじめる。総数21人。

(・・・21か)

『ヒロー、ここは・・・』

「やるしかない。スモール弾用意。可及的かきゅうてき速やかに処理する」

 突撃銃の装備されているグレードランチャーにスモール弾を装填。構える。

(撃ってから、速やかに・・・よし、撃て!)

 スモール弾が撃たれた。山のように弾道を描き、赤いスモールがまわり立ち込めた。

 第1分隊が物影に隠れていた場所から、一斉に弾丸が撃たれた。それは、弾幕となり敵を撃ち倒す。パワードスーツは敵の方が性能は上だが、この弾幕になすすべはない。

 刹那せつなだった。第1分隊の一斉掃射を喰らった敵は全滅。スモールがゆっくりと消え、再び、目の前に暗闇がうつる。

(終わった?)

『みたいだな』

 レイエスの声が脳裏に響いた。

(よし、先に進もう。敵をこっちに気付いたはずだからな)




 背中に装備された垂直ミサイルポットをパージ。対SF戦闘に移行いこうした。

 横綱の性能差を補うため、6機の集団戦方で立ち向かう。

「撃ちまくれ!」

 ロイスの指示にしたがい、一斉に20センチを越える弾丸が、アサルトライフルから吐き出された。

前方にいたファントムは盾で身を守るるが、何せアサルトライフル束に守りきれず、大破した。

「よし、3つ。案外、楽勝だな」

 横綱は歩行する。一歩一歩ゆっくりと歩いて行く姿はまるで力士だ。

 と、その時だ。突然、銃撃が走った。横綱の装甲に直撃。が、まだ大丈夫。

伏兵ふくへい・・・」

 横綱のコンピュータがファントムを数え始める。総数8機。

 8機のファントムに囲まれた。敵は物影を利用して攻撃。

 ロイスは直ぐさま、六角になるように指示。これで、360度どこからでも、敵に対し攻撃できる。その半面、爆発に対しもろい。

『ロイス隊長囲まれれますよ!』

「わかってる!!」

 部下の声よりでかい声で叫び返す。

「どーすっか・・・」

 360度敵に囲まれたこの、状況。打開策はファントムを撃破するしない。が、横綱では無理がある。装甲と火力だけがとりえの横綱には。

「早くこいよ・・・偉大なるなんとか」

 その時、ロイスの隣の横綱が爆発した。爆音と振動がコックピット内を揺らした。

「3番機応答しろ! 3番機ッ!!」

 横綱1機大破。パイロットは脱出。が、応答がない。ロイスの脳裏に最悪の想像が走った。

「死ぬなよ! 死んだらヒローに殺されちまう! 全機、撃ち返せぇ! 火力はこっちが上だ!!」

 ロイスは背中の無反動砲に持ち替え、トリガースイッチを押した。地面に直撃させた。爆発がまわり広がる。ファントム1機に爆風が直撃。が、小破。

 爆風で一瞬やんだが、銃撃が再び開始された。避けようがない弾幕に横綱の装甲が悲鳴を上げ始めていた。もう、後がない。

 そして、1機のファントムが対SF用ミサイルを向けた。

「あの野――」

 あの野郎、と言おうしたら言葉かそこで詰まった。ロイスは死を受け入れた。




「大丈夫ですか?」

 内心ではなく、肉声の発した裕緒。

「・・・助けに着てくれたのか!?」

 人質を発見。敵はいない。つまり、トラップ。裕緒はそれを理解した。人質ごと始末するつもりだろう。

 裕緒は頭に八巻はちまきをした中年男性に声をかける。漁師だった。若い男性は、平次に泣き付く。平次はどうしたら、いいのかとおどおどしていた。

「裕緒、こいつはトラップだ」

「わかってる。長いは無用だな」

レイエスは肉声で、裕緒の耳元で囁いた。なぜ、このような行動をするかと言うと、新兵に言うと混乱するからだ。

「ロイスの方は?」

「敵に囲まれてる。いくら、ロイスでも・・・」

 ロイスでもまずい。脳裏にそう浮かぶ。

「だがら、今は逃げるのが優先だ。隊長さん」

「あぁ・・・。よし、撤退だ。走ります。ついて来てください」

 走って、出口を目指す。

 敵のトラップがどのような、物かは解らないが、ここはいち早く逃げるのが先決だ。

 裕緒は気付いた。もちろん、新兵のごく一部と他隊員も気付いる。敵がいない事に。それは、完璧にトラップと裏付け証拠。

『敵兵です!』

 一人の兵士の声が脳裏に走った。その声の方を向くと、銃声が聞こえた。

 隊員たちはその銃声の方に、自然と体が動き、構え、トリガーが引く。人質たちはその場、うずくまる。

『あッ!』

(大丈夫か!?)

 レイエスの隣にいた隊員が撃たれた。運よく、急所はすれたが、パワードスーツを貫き、体内に弾丸が残った。血が流れる。隊員は傷口を押せえ、痛みにうなっていた。

(平次、そいつをかせ!)

『はい?!』

平次の背中に担いでいたのは、擲弾銃てきだんじゅう。ライフル状の擲弾銃の弾丸は、パワードスーツを軽く吹き飛ばす威力がある。生身の人間に向かって撃てば、間違いなく木端微塵こっぱみじんになる。

 裕緒は自分の突撃銃を投げ捨て、平次から擲弾銃を受け取る。安全装置を解除。構える。ヘッドマウントディスプレイと擲弾銃のコンピュータが接続された。バイザーに照準が表示された。ロックオン。トリガーを引いた。

 反動はパワードスーツが受け止めた。裕緒に来る反動はわずかだ。

 撃たれた弾丸は床に直撃し、爆発。広範囲に渡って爆発し、まわりの物、敵兵を吹き飛ばす。続いて2発目。同じ現象が再び起きる。

「走れ!」

 裕緒が叫ぶと、隊員は走り出す。人質を強引に引っ張り脱出した。

 裕緒と平次、レイエスと他数名の隊員は、敵と交戦。人質を逃がすため、ここで食い止める。

 物陰に隠れながら、トリガーを引き続ける。飛び交う弾丸は閃光。暗い夜に一瞬の光を生む銃火じゅうか。足もとに空になった空薬きょうの束。下手に動けば、転ぶ。

『ヒロー! 見ろ!!』

(はぁ!?)

 レイエスが指差す方をむくと、そこには、黒い装甲に赤く光る単眼モノアイが一つ。

『あれって・・・・・・・ファントム!?』

 平次の声が響いた。

 そう、ファントムだ。これがトラップだった。ファントムによる無差別攻撃。

「ちッ!」

 裕緒は舌打ちをした。持っていた擲弾銃をファントムに向け発砲。直撃。が装甲には傷一つつかない。

 ファントムがこちらを発見した。威圧感を与えるように単眼モノアイが光る。そして、対SF用アサルトライフルが向けられた。

(散開ぃ!!)

 裕緒の指示に隊員が一斉に散開した。そして、次の瞬間にはアサルトライフルから弾丸が吐き出されていた。アスファルトを見るも無残に破壊した。これに当たれば、体は完全に吹き飛ぶ。

『おいおい、対人もしながら、ファントムも相手かよ。弾喰らった体消し飛ぶぞ』

(レイエス、対人は任せた。あいつはおれがやる。山川、こいつでやつのまたを撃て)

 と言い、擲弾銃を投げかえした。平次は頼りなくキャッチ。裕緒はホルスターから貫通性が高い拳銃を抜いた。

(おれが、おとりになる。頃合いを見て撃て。おれにあてたら、呪い殺すからな)

『え!?』

(返事ッ!)

『は、はい! わかりました!!』

 対人グレードでSFを破壊するのは無理だ。しかし、行動不可能にすればいい。装甲を破壊するのではなく、関節部を破壊する。これが、今できるただ一つ選択。

(いくぞ、山川!!)

 裕緒は拳銃を構えつつトリガーを引いた。軽く火花を散らし、弾かれていく弾丸。

 ファントムが裕緒を確認。裕緒にアサルトライフルをむける。

 裕緒はアサルトライフルを向けられても、全力で走り、アサルトライフルの内側に入った。そのまま、股を通り抜け、背中に向け発砲。

(今だ。撃てぇ!)

『はい!』

 平次がトリガーを引いた。

 ファントムの股関節に直撃。

(一発じゃ壊れないか!)

 壊れなかった。当然と言えば当然だ。

一発ごときで壊れるほど軟じゃない。

 ファントムは旋回し、裕緒に再び、照準を合わせる。

 裕緒は走る。その間にも、平次はトリガーを引いていた。しかし、股関節を外していた。

「こっちだバーカ! よく狙えよ!! 下手くそ! 平次お前もだ!!」

 ファントムのパイロットに聞こえないが、裕緒は挑発ちょうはつした。そして、平次に照準を修正するように指示を出す。

 ファントムが裕緒から照準は外した。ファントムは旋回し、後ろの平次に照準を合わせる。ようやく、気付いたのか。拳銃を持っている相手より、擲弾銃を持っち、人型兵器の弱点とも言える股関節を狙う敵を倒す。

「山川逃げろォ!!」

 思わず肉声で叫んでいた。

 5メートルの巨人に銃口を向けられた平次は、腰が抜けた。歩けいない。ただ、おびえていた。

この時、裕緒は後悔した。平次を連れて来るべきではなかった。が、今更遅い。平次には何もできない。

「逃げろよ!! バカッ!!」

 裕緒は走った。平次をかばおうとして、体が勝手に動いていた。

「いいやめろオオオオオオオオオオ!!!!」

 腹から、喉から、体の底から悲願となって叫んだ。

 そして、トリガースイッチが押された。耳を突く銃声と目を突く銃火。20ミリの弾丸が撃たれたのだ。裕緒と平次に向けて。空薬きょうが無機質に音を立てた。

明けましておめでとうございます!



新年です! 今年もよろしくお願いします!!

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