落日の逃亡 前
つぶやき・・・
追い込まれた狐はジャッカルより狂暴だ!!
5月10日 7時12分
「出ろ! 面会だ!!」
囚人や捕虜を監禁している収容所。ある檻の前に3人の男たちが来た。1人はスーツを着ていた。あと2人はこの収容所の警備員だ。腰には拳銃と警棒を装備している。
檻の中には丈夫な手錠をされた男が1人。白い囚人服を着ている。
「面会? ふん、遅かったな。しかし・・・予知は当たった」
長身で中肉中性。オールバックの銀髪。白人。口元に怪しげな微笑を浮かべている。
「ここで待て。妙なことはしてみろ。頭を風通しよくしてやるからな」
案内されたのは、囚人と面会者専用の部屋だった。捕虜は部屋の中央のイスに座り、面会者を持つ。捕虜の前には小さい穴が開いた強化ガラス。後ろの出入り口には2人の警備員がいる。そして、警備員の腰には拳銃がある。手首には手錠。脱獄は不可能だろう。いや、この者は脱獄は考えていない。
「来たか。狩人たち」
そう、呟くと前方のドアが開いた。面会者は少年少女の計4人。
「久しいな。月丘兄妹。いや、アダムとイヴと言った方がいいか」
月丘シンゲツ、月丘ツキカ。凜・ライネス、塔内初だ。私服ではなく制服を着ている。男子はネクタイ。女子はセーラー服。なかなか手のこったデザインだ。それは、これから行く高校の制服だった。
凜は壁に寄りかかり本を読む。けれど、眼鏡がない。
「警備員は席を外してくれ」
「しかし・・・こっちだって仕事で・・・」
「逃げる気はない。安心しろ」
「だって」
と、ツキカが言った。
「ん~・・・そうか。了解した」
警備員が出ていく。それを見て、捕虜は口を開く。
「後ろの2人はジョン・ライネスの娘か・・・凜・ライネス。そして、塔内初か。狩人も暇なのだな」
「暇はない。あんらの騒ぎでおかげでな。アレクセイ・ケルビム」
そう呼ばれた人物。“天使たち”の1人であるアレクセイ・クルビム。4人が追う1人だ。
ケルビムとは天使の階級で上から2番目の階級。日本語では智天使と呼ばれる。
なぜ、アレクセイがいると、先日の作戦において敵SFであるファントムに搭乗していた。機体が行動不能になったとこを捕まえ、今この場にいる。作戦中、敵にアレクセイがいる事は知らなかった。そして、何かを“企み”があると悟った。
「お前は今日の4時に護送だ」
「護衛はSF5機。戦闘ヘリ6機。戦闘車両5台。すごいでしょ?」
重要危険人物であるアレクセイを護送すのには、かなり厳重だ。
「たしかに、1人を護送するのにはこった警備だな」
「お前1人じゃない。ほかの捕虜もいる。これくらいはしないとな。念には念を」
「その念を打ち砕いたら面白そうだ」
「やっぱり、何か企んでるですか?」
口を開いたのは初だ。
「その問いに答えるわけにはいかない」
「答えてくれるとは思ってません。アレクセイさん。でも、なんで今更になって世界中でテロ行為を?」
3年前に終戦した世界二分戦争で世界一国家(WOC)と国際連合軍が衝突した。そして、世界一国家(WOC)は敗戦。無条件降伏、武装解除。しかし、ここ最近になって元世界一国家(WOC)の兵士たちが世界中でテロ行為を繰り返している。先日の作戦でも元世界一国家(WOC)の兵士たちによるものだった。
「君たちはあの戦争を『勝った』と思っているが、それは大いなる誤解だ」
「どうゆう事だ? 言え」
9時00分
「おはよう。集まったな」
前沢裕緒は会議室に集められた青い隊員服を着た隊員たちを前に話し始めようとしていた。隣には作戦指揮官である永戸悠美がいる。
「全員いるな?」
「山川くんが・・・いませんね?」
「なに!? どこで油売ってる! しばかれたいか!?」
新兵の山川平次である。
「すみません・・・遅れました」
扉が開き、小さい声で謝罪。
「来たか! 遅刻するとはいい度胸だな!」
手の関節をボキボキっと鳴らしす。その迫力に圧倒されて、平次以外にも全員が圧倒された。
「ひぃい! ごめんさない!!」
平次はその場でどけ座する。
「いいか席に座る!!」
「は、はい!」
「さて、集まったとこで話をする。よく聞けよ。ここからはおれの超ハード訓練を耐える自信があるヤツと、おっかない連中とガチで戦あう根性のあるヤツだけ残れ。
我が、第23機械化機動部隊は第3機械化特殊作戦部隊と編成する。これまでの敵とは違う。戦死する確率も高くなるどろう。今、自分の命が惜しいなら除隊を許す。今までおれについて来てくれてありごとうな。感謝する」
裕緒は敬礼をする。すると、数十人が立ち上がり、同じように敬礼した。そして、会議室から退室していった。その行動は除隊を意味していた。最後に裕緒はその背中を温かい目で見送った。
「思ったより残ったな。お前ら本当にいいんだな? 覚悟できてるな? よし! ここに残ったお前らは2階級特進。第3機械化特殊作戦部隊の正式な隊員だ。今まで通りにおれが前線隊長を務める。変わるのは部隊の名前と作戦内容、武装、階級だけだ。そして、今日の11時から10時間の訓練だ! 毎日10時間の訓練を覚悟しろ! 以上ッ!!」
全員が立ち上がり敬礼。裕緒も敬礼を返す。
1時17分
「パスだ! 初!!」
「はいよ!」
4人が通うことになった都立多井高校。戦後、すぐに開校した高校だ。今存在している仮政府の方針で教育を優先的に進めている。だから、戦前より安い授業料で通える。
学食で昼食を食べて今は、体育館でバスケットボール部と4人対2人のミニゲーム。数人の女子の歓声が聞こえる。
シンゲツと初のチーム。バスケットボールはあまり経験はないが、そこは、兵士として鍛えられた体の運動能力でカバー。その結果、13対21という点差をつけた。
「すっごい!」
「あれ、今日転入してきた人でしょ!?」
「かっこいい!」
シンゲツの前に3人のバスケット部員が進行を妨害してくる。シンゲツはそれを掻い潜る。ゴール下。シュート! 入った!!
「流石はシンゲツ。やるね」
ミニゲームの邪魔にならないように体育館の端にいるツキカと凜。
凜はいつも通り本を読んでいる。文庫のようだ。
「・・・やらないの?」
と、隣の凜が訪ねて来た。
「やりたいけど、シンゲツが『ダメ』って言うの」
「・・・?」
「シンゲツ『スカートで走り回るな』って言われた。ひどくいよぉ」
不機嫌そうに唇と尖らせる。
テスタメントであるシンゲツは、曲りなりにも年頃の男子である。スカートで走り回られたら目のやり場に困る。もちろん、他の男子も含めて。
「・・・そう」
「小さいときはよく一緒にお風呂も入ってたのに。今更、気にすることでもないのに」
「・・・男ごころは複雑」
「くそ! とられた!!」
パスで相手チームがゴールを目指す。パスを繋げるとこに、初がボールを奪った。
「ラスト30秒!」
審判をしているバスケットボール部員が叫んだ。残り時間30秒と試合用の電子得点ボードに表示されていた。
初がボールを目指すと、後ろから猛追してくるバスケット部員4人。追いつかれた。初は片腕の力だけで、ボールを投げる。しかし、ゴールリングを外れ、板に当たった。いや、これでいい。
跳ね返ったボールの落下地点にシンゲツが走る。ボールをキャッチ。だけど、すぐ後ろにバスケット部員が1人。シンゲツは短いドリブルでゴール下に進行。足に全力の力を込めてジャンプ。すると、軽々、ゴールリングまで届いた。
「そ~りゃあぁ!!」
ダンクシュート! 入った!!
(ピイイイイイイイィィィィ!!)
その時だ。試合用の電子得点ボードのアラームが鳴った。試合終了。シンゲツと初の勝利。
「くっそう~。負けかよ。疲れたぁー」
「マジ強ぇよ」
「なぁ、部活入るとこないならウチこいよ」
シンゲツと初に話かける。
「ごめん。部活は・・・」
「なんでだよ。入れよ! 大歓迎だぜぇ!」
「俺たちは――」
「――月丘センパイですか!?」
シンゲツが言葉を発すると横から高い声がした。女子生徒だ。セーラー服のリボンの色して、1年生。特徴的な個所を挙げるならなら、ツイーンテールだ。腰まである長いツイーンテール。髪をおろしたらより長いことだろう。
「え、ああ。そうだけど?」
「ふ~ん。月丘・・・シンゲツ・・・・・ですよね? 妹さんのツキカセンパイはどちらに?」
「あたしがツキカだけど?」
体育館の端からツキカが歩いて来る。
「やっと見付けました! 捕縛しますッ!!」
「「なんで!!?」」
シンゲツとツキカの声が共鳴。それと同時に女子生徒のポケットから手錠が出現した。
「あれ・・・1年の爆弾娘の諏訪原いお・・・・・」
ここから、シンゲツとツキカの全力逃走ははじまった。
読んでいただきありがとうです!! どうも、鈴木ちきです!!
さてさて、本作アポカリプスも中間地点です。こんなにさくさく進むとは思っていませんでした。でも、書きたかったとこが書けるのは嬉しいことです。
2人、新キャラが出ました。『アレクセイ』と『いお』です。アレクセイは名前に手間がかかりました。最初は、中国系の名前にしようと思っていましたが、なかなか中国系の名前が出てこなくて・・・。結局、ロシア系の名前になりました。
『いお』ですが実は、とあるラノベのヒロインの名前を・・・。『いお』は一度やりたかった爆弾娘です。
後書きが長くなってしまいした。ここで、お知らせです。
2作品を設定中です。今のところ『イノセンスそれともクライム?』です。日本語にすると『無罪それとも罪?』です。名前通り、罪と無罪がテーマです。ジャンルはファンタジー(?)。
いつ、投稿するかは未定ですが、お楽しみに!!
それでは!! 次のお話で!!